2024年も残すところあとわずか。今年のうちに「ふるさと納税」の活用を、と考えている人も多いだろう。
しかし、ふるさと納税は「節税になる」「お得」などと言われる一方で、様々な問題点も指摘されている。11月には東京都の小池百合子知事が、ふるさと納税の制度によって東京都内の自治体の税収が減少していることを指摘し、国に対し抜本的な見直しを求め、話題になった。
また、「返礼品」等に対する規制が強化された結果、どうにも分かりにくい制度になっていることも否定できない。
ふるさと納税の最新のしくみと、どのような問題点があるのかについて、納税者の立場からYouTubeで精力的に税金・会計に関する情報発信を行っている黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ共同代表・公認会計士)に聞いた。
ふるさと納税の“節税”の効果…実は「ゼロ」
ふるさと納税は、好きな自治体を選んで『寄付』を行い、翌年の税金から「寄付金額-2000円」の額が「税額控除」、つまり税金の額から差し引かれる制度である。
「税額控除」という名前からはいかにも「節税」の制度であるかのような印象を受ける。しかし、黒瀧税理士は「節税」ではなく、「返礼品の市場価値と2000円の差額分の利益を得る制度」と説明する。
黒瀧税理士:「いったん寄付金を支払ったうえで、『寄付金−2000円』が返ってくるので、金銭の収支だけみれば『2000円のマイナス』です。したがって、税金の額を減らす『節税』の効果はいっさいありません。
得をするのは、『寄付』と引き換えに『返礼品』を受け取って、かつ、その返礼品の市場価値が2000円を超える場合です。『市場価値−2000円』の分の利益を得るということです。
返礼品の市場価格が2000円を下回る場合には『損』をする計算になります」
「金持ちほど得をしやすい」制度
返礼品の市場価値すなわち「豪華さ」は、寄付額の大きさに比例する。
たとえば、A県B町のふるさと納税の返礼品には、同町内に工場を置く人気マットレスメーカーC社の商品(マットレスや枕)がある。22万6000円を寄付すれば、定価7万7000円のマットレスを受け取れる。
寄付額から2000円を差し引いた22万4000円について税額控除を受けられるので、その結果、マットレスの市場価格と2000円との差額7万5000円分の利益を得られることになる(【図表】参照)。
【図表】ふるさと納税のしくみ(ElegantSolution, 卯月つくし/PIXTA)
また、寄付額の上限は所得の大きさに応じて決まっている。
すなわち、寄付できる額の上限はその人の「所得」と「その年度に支払えるお金の額」によって決まる。したがって、所得が高く余剰資産・資金力の大きい人ほど、2000円と引き換えに豪華な返礼品を受け取り、大きな利益を得やすい制度だといえる。
「返礼品競争」の過熱で相次ぐ制度改定
ふるさと納税については2023年10月に大きな改定が行われた。当時、「改悪」と報道されたことを覚えている読者も多いだろう。
もともと、ふるさと納税には以下のルールが設けられている。
・返礼品は「地場産品」に限る(地場産品基準)
・返礼品の仕入れ額は寄付額の30%以内(30%ルール)
・経費の総額は寄付額の50%以内(50%ルール)
黒瀧税理士は、2023年10月の制度改定が「地場産品基準」と「50%ルール」をさらに厳格にしたものだったと説明する。
黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ提供)
黒瀧税理士:「まず『地場産品基準』については、ごく大雑把にいえば、その自治体に縁もゆかりもない品は認められないということです。この基準に関して、新たに『熟成肉』と『精米』について『当該地方団体が属する都道府県の区域内において生産されたものを原材料とするものに限る』と定められました。
これは、大阪府泉佐野市の『熟成肉』と『精米』が問題視されたことがきっかけとして『狙い撃ち』的に定められたものです。
次に、『経費の総額』の計算方法が厳格化されました。それまで、経費への計上が義務付けられていない、いわゆる『隠れ経費』があることが指摘されていました。いわゆる『ワンストップ特例』(※)にかかる費用、『寄附金受領証』の発行の事務にかかる費用、『仲介業者』への手数料などです。それらもきちんと含めなさい、ということです」
※確定申告不要で、オンライン申請等によって簡便に税額控除を受けられる制度
なぜ「国産熟成牛肉」がNGで「輸入羊肉のジンギスカンセット」がOKなのか
ここで一つ、疑問が生じる。泉佐野市以外の自治体では、輸入した原材料を用いた返礼品を設定しているところも少なくない。
たとえば、肉については、岩手県遠野市の「ジンギスカンセット」は、オーストラリア産等の輸入羊肉を原材料としている。泉佐野市の「熟成肉」は国産の牛肉だったのにNGとなったが、なぜ、遠野市の「ジンギスカンセット」はOKなのか。
黒瀧税理士:「岩手県遠野市では、古くからジンギスカンが名物として内外に認知されています。盆や正月や祝い事等のたびにジンギスカンを食べる習慣が定着しており、市内にジンギスカンを提供する飲食店や、ジンギスカン用の羊肉を扱う精肉店が多いのです。
また、返礼品の『ジンギスカンセット』も、市内の業者が肉を仕入れ、ジンギスカン用に加工を加え、かつ専用の『タレ』もつけて『遠野ジンギスカン』として販売しています。
したがって、遠野市の『ジンギスカンセット』は輸入羊肉を使用してはいても、名実ともに遠野市ならではのものとなっているので、『地場産品基準』をみたしセーフです。
これに対し、泉佐野市の『熟成肉』と『精米』については、『泉佐野市ならでは』という事情が認められなかったということです」
ただし、この理屈は一歩間違えば、たとえば自治体を挙げて新しい名物を作り出し、ふるさと納税の返礼品としてもPRしていこうという動きの妨げになるリスクも抱えている。
2025年10月からポータルサイトの「ポイント制」も禁止に
加えて、総務省は6月25日、ふるさと納税制度について仲介サイトによる「ポイント付与」を2025年10月から禁止する方針を示した。
これは、ポイント付与分が、地方公共団体から仲介業者に支払う経費に上乗せされていることを問題視したものである。
最終的に「増税」につながるリスクも
黒瀧税理士は、ふるさと納税の制度は、自治体の税収の流出を招くのに加え、国税・地方税の「増税」につながる可能性があると指摘する。
黒瀧税理士:「ふるさと納税をした人が居住する自治体では、その分の税収が他の自治体へ流出してしまいます。
税収が減る自治体は、足りない分については、地方交付税交付金で補うことになります。その財源は結局のところ国の税金なので、増税でまかなうことにならざるを得ません。
さらに深刻なのは東京23区のような、地方交付税交付金の不交付団体です。財源が確保できなければ、区民税の増税などで対応せざるを得ません」
ふるさと納税で寄付を受けた自治体の側はどうだろうか。
黒瀧税理士:「寄付額から、返礼品の仕入れの費用、事務に係る諸費用、仲介業者への手数料などの経費が差し引かれます。
経費の額が『50%ルール』の範囲に収まっていたとしても、実質的な手取りは寄付額の50%程度にとどまります。
したがって、全国の自治体トータルでみると、ふるさと納税の制度があることによって、実質的な財源が減っている計算になります」
この点については、『経費』の支出によって、返礼品を提供する地場の業者や、ポータルサイトを運営する仲介業者などが潤い、結果として税収の増加につながるというプラスの効果があるとの指摘もあるが…。
黒瀧税理士:「そのような側面があることは否定できません。しかし、地場の業者を潤わせるためならば、ふるさと納税のしくみは技巧的で遠回りといわざるを得ません。より直接的で効果の高い方法は他にもいろいろ考えられます。
また、仲介業者は地方の活性化とは直接関係ありません。現に、仲介業者に支払う手数料が『中抜き』などとよばれ問題視されています。
国がふるさと納税の制度を今後も継続するならば、制度の抱える問題点・副作用を十分に理解したうえで、手当てしていく必要があるでしょう」
「地方の疲弊」を助長するリスクも?
ふるさと納税のもともとの趣旨は、税収の不均衡を是正し、それを通じて地方を活性化させることにあったはずである。
しかし、自治体の中には、もともと過疎が進むなどの事情によって財政難で、かつこれといった「名物」や「特産品」も少ないところもある。そのような自治体にとって、住民がふるさと納税を利用することによる税収の流出は、さらなる疲弊をもたらすという負のスパイラルを招きかねない。
ふるさと納税をする人にとって、「返礼品の市場価格-2000円」の利益を得られることは、一見分かりやすく、即物的なメリットかもしれない。しかし、他方で様々な問題点があり、結果として「増税」や「地方の疲弊」をもたらし、私たちの首を絞めるリスクも抱えていることを忘れてはならないだろう。