6日、池袋暴走事故の被害者遺族・松永拓也さんがXを更新し、松永さんを脅迫したなどとして先月28日に書類送検された女子中学生(14)への思いを改めて明かした。
書類送検に際して「毅然とした対応を取ることが重要だと考えました」としていた松永さん。「中学生相手に厳しすぎるのではないか」との批判もあったというが、「少年の健全な成長」を目的に処分される少年事件の特性を鑑み、被害届を取り下げなかったという。
中学生が書類送検された件について。
また別の殺害予告や業務妨害が来ていますが、粛々と対応していきます。
また、「中学生相手に厳しすぎるのではないか」というご批判もいただきました。…
— 池袋暴走事故遺族 松永拓也 (@ma_nariko) December 6, 2024
なぜ「逮捕」ではないのか
女子中学生は今年9月、松永さんが副代表理事を務める「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」に「殺してあげよっか?笑」などとメールを送って脅迫した疑い。また、松永さんが講演予定だった松山市役所にも同様のメールを送り、業務を妨害した疑いも持たれている。
報道によれば、女子中学生が任意の調べに対して「私的な悩みがあった」「脅迫メールを送れば相談先を紹介してくれると思った」などと話しているという。
少年法では14歳以上であれば刑事責任を問われ、犯罪行為によって書類送検のほか逮捕される可能性もある。今回、女子中学生はなぜ、逮捕ではなく書類送検されることとなったのか。少年事件の対応も多い杉山大介弁護士は「刑事訴訟法上、身柄拘束の要件を満たしておらず、そもそも逮捕といった手段に出られないような事案ではないか」と話す。
「証拠を隠される、逃げられるなど、被疑者の身柄を拘束しておかないと困る理由があれば別ですが、ほとんどの刑事事件は逮捕しないことが原則になります。
本件で言えば、証拠となるメールはすでに送付されているため、被疑者がいまさら変更することは不可能です。手段がメールである以上、被害者の供述も証拠としての意味合いは強くありません。
たとえば、刑事事件化してなお、本当に松永さんの前に現れて危害を加える強い疑いがあれば逮捕したかもしれませんが、一連の言動からは『殺す』のような直接的な言動を繰り返しながらも、行動にはまったく移さずメールを送るのみにとどめるような、いたずら的な傾向が伺えます」
女子中学生は今後どうなる?
今回、女子中学生の送検容疑となった脅迫罪や威力業務妨害罪の法定刑はそこまで重たいとは言えず、成人であれば罰金刑で終結する可能性もある(脅迫罪:2年以下の懲役または30万円以下の罰金、威力業務妨害罪:3年以下の懲役または50万円以下の罰金)。
少年事件においては、14歳以上であればそのすべてが家庭裁判所に送られ(全件送致)、同裁判所によって「不処分・審判不開始」「保護処分」「検察官送致(逆送)」のいずれかの処分が下される。
では女子中学生は今後、どのような処分を受けると考えられるのか。
「少年事件は『少年の健全な成長』を目的に、要保護性という判断材料に基づいて、処分を決めます。本件では、適用となる犯罪自体が重罪にはあたらないことから、その内容の悪質性を理由に逆送することはありえず、少年事件としての処分の可否が判断対象になるでしょう。そして、それは甘い手続きだとは思いません。
今回の犯人が成人であれば、特に逮捕もされず取り調べを数回受けて、罰金刑なりで終わっていたかもしれません。少年であるから、なぜこのようなことをしたのか、その背後に家庭環境などの問題がないかなどをつぶさに調べられ、ただ軽い犯罪だからと済まされず、今後の生活にいろいろな縛りを受ける可能性があります。
少年事件の手続きを受けるから優しい、刑事罰だから重いと単純化できるものではないことを、世間には知ってもらいたいです」(杉山弁護士)
被害者の処罰感情が与える影響
冒頭のように、松永さんは女子中学生が書類送検された際に「悩みましたが、未来ある未成年が、これからより大きな過ちを犯さないよう、私は先人として、毅然とした対応を取ることが重要だと考えました」とコメントしている。
成人の事件では、被害者の処罰感情が判決に影響を与えることもあるが、未成年の場合はどうか。杉山弁護士は「影響は与えるが、成人でも未成年でも、主たる要素ではない」という。
「刑事事件においては適正な手続きのもと、成人ならその犯罪行為に見合った制裁を、未成年なら保護育成を受けることによって更生を促し、その結果、社会全体が守られることが大切です。
池袋暴走事故に関しては、刑事事件において許容されている主張や反論すら封じられかねない社会の風潮がありました。たとえば、控訴を許さないとなれば、被告人の裁判を受ける権利自体が奪われてしまいます。そもそも、どういう犯罪だったのかを確定させる手続きを経たから、ある事実があったとして人を断罪できるのであって、その事実を確定させるプロセスすら攻撃の対象にするのは、刑事司法のあり方として良くないものでした。
こうした風潮が、袴田事件のような冤罪事件も引き起こしかねないのです。袴田事件の時も、そもそも何をしたのかという部分を、当たり前にわかっていると思いこんでいる人たちや報道が、袴田巌さんが無罪を主張して最高裁まで争い、かつ再審請求もしたことに対して『人殺しのくせにひどい』とやっていました。まず、自分はどんな処分が適切なのかについて語る前提となる事実を知るものではないと、謙虚に認識すべきです。
当事者である松永さんが厳しく望まれるのは、当然許容されたことだと思いますが、それ以上の影響を外野が与えようとすべきではありません」