1on1が苦手と思っている上司のなかには、上司が聞きたいことを部下に質問してしまっているケースが散見されます。しかしこれでは上司が中心の1on1になってしまうでしょう。1on1を「部下のための時間」にするにはどうすればよいのでしょうか? 本記事では、小川隆弘、氏による著書『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版 ブランディング)から一部を抜粋・再編集し、部下にとって効果的な1on1について解説します。
部下が「聞いてほしいこと」
部下が聞いてほしいのは「努力しているプロセス」
[図表]の1on1のテーマで、会社の話題、キャリア、プライベートについては、部下の話を遮る機会は少ないでしょう。
ところが、経験学習については上司のほうが経験値が高いことが多いため、アドバイス病や説明病が顔を出し、部下の語りを遮る場合が多いようです。そもそも経験学習で部下が聞いてほしいことがあるとすれば何でしょうか。それは、苦労している具体的な内容、つまりプロセスです。部下としては、自分が困難に直面していることをわかってほしいのでは? また、人は言い訳したくなるのがふつうでは?
よって現実に直面している課題の状況・背景を上司がしっかり聞いてあげる必要があります。これが部下が聞いてほしい話だと思うのです。そのうえで、「どうしようと思っているのか、考えている選択肢を教えてもらえる?」などと言語化を引き出しましょう。
では、部下が語りたい話とは何でしょうか。
それは自慢話、つまり成功例です。成功例にピンとこない職種ですと、「感謝された事例」などが該当します。以降の本文のなかで「成功例」と書いてある箇所は、「感謝された事例」などに置き換えて読み進めてください。
部下が語りたいのは自慢話(成功例)
前述したとおり、人間は本来、自分の話をするのが大好きです。自分の話をするときや、人に認められたと感じると、金銭を得たときと同じように脳の報酬系が活性化されるとのことです。つまり、「自慢話=成功例」は最高の満足感を部下にもたらすのです。部下自身の成功例を語ってもらうのがいちばん効果的になります。
1対1という動物にとっていちばんストレスがかかる1on1ですが、金銭を得たのと同じ報酬系が脳内で勝手に活性化されると、少しずつですが1on1に対してストレスが減り、積極的に語るようになっていきます。「自慢話=成功例」は部下の語りを引き出し、1on1に積極的にかかわってもらう最高の方法のひとつでしょう。
(広告の後にも続きます)
成功例について「感情」「理由」「意図」の質問をする
成功例を語り続けてもらうためには、深掘りする必要が出てきます。この深堀りが質問です。深堀りするときは感情から聞くと、比較的抵抗なく部下は語りはじめることが多いでしょう。なぜなら、人間は感情を伴った出来事を強く記憶している確率が高いからです。しかも成功例ですからポジティブな感情です。そして感情・理由・意図を聞いてみましょう。これを「成功例の3連掘」と名付けました。3連堀とは、3回続けて質問を掘り下げていくやり方です。感情・意図・理由の順番でも問題ありません。ざっくばらんにいうと、感情を聞いたら、さらにツッコミを2回入れる(意図・理由)、ということです。重要なのは、部下の答えが出てこなくなったらやめることです。
行動約束(アクション)が成功した部下との対話例
上司「そのとき、どんな気持ちになったの?」
部下「いやー、それはうれしかったですよ」
上司「そんなにうれしかったのは、どうして?」
部下「……いっぱい練習したからかなぁ?」
上司「今回はそんなに練習したんだ。そこまで練習したのはどうして?」
部下「えー……このままでは、みんなに迷惑かけてしまうと思ったのかなぁ……」
上司「みんなに迷惑?」
部下「……僕だけちょっと低迷してるようですし……このところずっとよくないので……」
上司「そうなんだ! ……。で?」
部下「やっぱり……足は引っ張りたくないし……」
上司「Aさんはみんなの足を引っ張ってるって感じてるの?」
部下「え? うう~ん……」
成功例(自慢話)の3連堀のコツは2点
1つ目は、質問を感情・理由・意図と3回聞くことです。部下の語りが得られた場合は、さらに3連堀を続けます。感情・理由・意図のどれを聞いてもかまいません。とにかく3連掘りしてみるのです。
2つ目は、部下からあまり語りが得られなかった場合、そこでやめることです。それ以上の深堀りはしません。ほかの話題に切り替えましょう。なぜなら、1on1は継続する必要があることと、安全安心の場にする必要があるからです。それ以上の深堀りは相手が詰問に感じることが多いようです。
上記の対話例では、「そこまで練習したのはどうして?」が3つ目の質問になります。この質問に対して部下は語ってくれたので、そこからさらに質問を続けています。つまり、部下が語ってくれているあいだは質問を続けて大丈夫、ということです。対話例では6つ目の質問で語りが途絶えてしまったため、上司はそこでやめました。
1on1は年単位で継続していくものです。部下にとって安全安心の場にするためにも、話しやすい場にする努力が必要です。語りが止まった段階で、その話題からいったん離れるのは大事なことでしょう。
小川 隆弘、
キャリアコンサルタント、コーチ、研修講師
※本記事は『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。