なぜ表記の違いが生まれたのか
現代における「障害」「障がい」「障碍」の使われ方には特徴があります。公式文書や法律名では、依然として「障害」が標準的な表記とされ、「障害者基本法」や「障害福祉サービス」など、多くの場面で「障害」という表記が用いられています。
これについて興味深い見解があります。NHKが「障害」という表記を用いる理由について、元NHKアナウンサーでジャーナリストの堀潤さんはこのように述べています。
ところで最近、テレビや新聞などで「障がい者」と表記されるのを目にしますね。「害」という字を使うのは、障害のある方を傷つけるのではという考えからなのですが、NHKでは明確な理由で「害」を使い続けています。それは、「障害」はその人自身ではなく、社会の側にある。障害者=社会にある障害と向き合っている人たち、と捉えているからなんですね。
引用|anan「NHKが「障がい者」ではなく「障害者」を使いつづける理由」
また、JR東日本が提供するインターネットサービス「えきねっと」では、視覚障がい者への配慮から「障害者」を採用しており、その理由を次のように述べています。
本WEBサイトでは障害者と表記を統一させていただいております。「障がい者」と表記すると、視覚障害のある方が利用するスクリーン・リーダー(コンピュータの画面読み上げソフトウェア)では「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるためです。
引用|えきねっと「どうして「障害者」と表記されているのですか。」
一方で、地方自治体や民間団体では「害」の字がネガティブな印象を持つこと、また当事者の心情を配慮するとして「障がい」を使用する例が増えています。福祉関連のパンフレットや広報資料には「障がい」の採用が多く見られます。例えば、東京都板橋区や兵庫県丹波市では、「障害」という漢字が当事者に与える心理的影響を考慮し、表記を見直すことを決定しました。
さらに、歴史的・文化的な観点から、元の表記である「障碍」に回帰すべきだという意見があります。しかし、現実的な課題として「碍」の使用頻度が低く、社会的な認知が限られていることから、公的文書での採用は進んでいません。
このように表記が分かれる現状には、法的な制約や地域ごとの判断、さらには当事者や市民の多様な意見が絡み合っています。そのため、現時点で表記を統一するのは難しい状況です。
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海外における「表現」の変遷
表記をめぐる議論は海外でもおこなわれています。英語圏において障がい者を指す表現は、社会や価値観の変化によって移り変わってきました。主要な表現とその背景を見てみましょう。
Handicapped
日本語でも「ハンディキャップ」として知られる表現。かつて障がい者を指す用語として使用されていた「不利な立場にある」という否定的な意味が含まれるため別の表現に置き換える動きがあった
Disabled
「能力を失った」という意味を持ち、障がいを持つ人々を指す一般的な表現公式文書や日常会話でも使用される
Special Needs
「特別な支援を必要とする人々」という意味で、教育機関や医療の現場で使用される曖昧で具体性に欠けるとの指摘から、ほかの表現に置き換えられる傾向がある
Differently Abled
「異なる能力を持つ」というポジティブな視点を強調する表現遠回しすぎるとの批判もあり、広い普及には至っていない
Challenged
障がいを否定的に捉えるのではなく、「挑戦」という視点で前向きなイメージを与えようとした言葉Differently Abledと同じく、曖昧で遠回しだという意見もある
Persons with Disabilities / People with Disabilities
個人を主体とした「ピープル・ファースト」の考え方から生まれた表現。障がいを特徴の一部として捉えている国際連合「障害者権利条約」やアメリカ障害者法でも採用された
参考|アメリカ社会保障庁公式ブログ「The Disability Insurance Program: Securing Today and Tomorrow for 60 Years」、広島大学「インド タミルナードゥ州におけるインクルーシブ教育の事例研究」、DINF「「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2006年9月号」、国際連合「障害者権利条約」、障害者.com「障害者は英語で何て言うの?~【handicap(ハンディキャップ)】他」、NPO CROSS「社会的マイノリティに配慮した英訳について考えたこと」、英語塾 六単塾「障害者を英語で何という?覚えておきたい表現5選」