フランス、ブルゴーニュ地方のボーヌで、11月17日、164回を数える歴史的なワインオークション「ヴァント・デ・ヴァン・デ・オスピス・ド・ボーヌ」が開催された。今年はオスピス・ド・ボーヌのワインが完全にオーガニックの認証を得た最初の年となり、オスピス・ド・ボーヌのワインの新時代の幕開けを象徴する競売会となった。今年の競売は天候不良で生産量が大幅に減少したため、出品数が前年の768樽から439.5樽へと減少。しかし総落札額は1,394万4,200ユーロ(約22億3,107万円)と、歴代4位の好成績を記録した。

内訳を見ると、白ワインが620万ユーロ、赤ワインが770万9,000ユーロ、スピリッツ(フィーヌ・ド・ブルゴーニュなど)が3万5,200ユーロとなった。特に白ワインの1樽当たりの平均価格は5万2,321ユーロ(約837万円)と前年比8.02パーセントの上昇を記録し、市場での強い需要を示した。一方、赤ワインは平均2万4,016ユーロ(約384万円)と前年比5.37パーセントの下落となった。赤白合わせた全体の平均落札価格は前年比2.53パーセント上昇し3万1,647ユーロ(約506万円)となり、市場の底堅さを示している。

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今回最高値を記録したのは、『バタール・モンラッシェ・グラン・クリュ(キュヴェ・ダム・ド・フランドル)』で、35万5,000ユーロ(約5680万円)という驚異的な価格となった。また『エシェゾー・グラン・クリュ』も17万5,000ユーロ(約2800万円)という高値で取引され、優良区画への根強い需要を示した。

2021年以降、特に白ワインの価格上昇が著しい。今回も、赤ワインは前年に比べわずかに下落したが、白ワインは値上がりし、平均一樽当たり〈228リットル〉5万2,321ユーロ(約837万円)となった

今年の慈善特別樽「ピエス・デ・プレジダン」には『ボーヌ・プルミエ・クリュレ・ブレッサンド』が選ばれ、ブラジルのワイン愛好家アラオール・ペレイラ・リノ氏が36万ユーロ(約5760万円)で落札した。さらに、シャトー・シャサーニュ・モンラッシェに拠点を置く「ファミーユ・ピカール」の代表、フランシーヌ・ピカール氏からの10万ユーロの追加寄付が加わり、最終的な寄付総額は46万ユーロとなった。この収益金は国境なき医師団とグローバル・ギフト財団に寄付され、医療支援活動に活用される。

ジャン・レノ氏、エヴァ・ロンゴリア氏、ザブー・ブレットマン氏、ドミニク・ウェスト氏が競売の共同議長を務めた

醸造責任者のリュディヴィーヌ・グリヴォー氏は、「今年の慈善樽に選ばれた『ボーヌ・プルミエ・クリュ、ブレッサンド』は、発酵当初から素晴らしい香りを放ち、色合いも理想的でした。醸造家から見て理想的なもので、このヴィンテージとしては並外れた品質です」とコメントしている。

特製の樽に詰められた慈善キュヴェ『ボーヌ・プルミエ・クリュ、ブレッサンド』(左)。中央、映画俳優のジャン・レノ氏、左、慈善キュヴェに10万ユーロの追加寄付を行った「ファミーユ・ピカール」の代表、フランシーヌ・ピカール氏。右、ボーヌ市市長で、オスピス・ド・ボーヌ監督評議会議長のアラン・スグノ氏(右)

今回の慈善特別樽の競売には、アメリカの女優エヴァ・ロンゴリアさん、イギリスの俳優ドミニク・ウェスト氏、フランスの女優ザブー・ブレットマンさん、そして名優ジャン・レノ氏が参加し、会場を盛り上げた。

3年間の移行期間を経て、ドメーヌ全体がオーガニック認証を取得

今年特に注目すべき点は、60ヘクタールに及ぶドメーヌ全体が3年間の移行期間を経て、初めて完全なオーガニック認証を取得したことである。醸造責任者のリュディヴィーヌ・グリヴォー氏は、この年を「実験的な年」と位置付け、気候変動への適応と品質維持の両立に挑戦した年として、以下のように説明している。

「2024年は、有機栽培への完全移行という歴史的な一歩を踏み出した年となりました。この年は記録的な気候変動に見舞われ、冬季の平均気温は平年を1.9℃上回り、10月から3月にかけての降水量は平年値362ミリメートルの約2倍となる671ミリメートルを記録しました。

4月中旬には熱帯性気候さながらの天候となり、その後の低温と継続的な降雨によってベト病の発生リスクが深刻化しました。これに対し、23名からなる栽培チームは毎週、予防散布を徹底し、休日返上での対応に追われました。6月の開花期には高湿度の影響で、特にピノ・ノワールにおいて受粉不良による不結実の現象が発生し、収量の大幅な減少を招くこととなりました。

しかしながら、栽培チームの懸命な努力により、最終的には優れた品質のブドウの収穫に成功しました。白ワインは純粋な味わいと気品ある酸味を、赤ワインは深い色調と凝縮感のある果実味、調和の取れたタンニンを特徴としています」

女性初のオスピス・ド・ボーヌの醸造責任者、リュディヴィーヌ・グリヴォーさん。アロース・コルトンの名門ネゴシアン「ピエール・アンドレ」の醸造責任者を経て、2015年にローラン・マス氏からオスピス・ド・ボーヌの醸造を引き継いだ(左)。オスピス・ド・ボーヌの地下熟成庫(右)

今年のオスピス・ド・ボーヌの話題の一つは、ダニエル・モワロン氏(81歳)が、アペラシオン・ヴェズレーの土地22.42アールをオスピス・ド・ボーヌに寄贈したことだ。同氏はカメルーンでの牧場経営を経て、1980年代にヴェズレーのワイン産地復活に貢献した。今回の寄贈は、妻モニックと息子との家族3人による生前贈与として実現し、これによりオスピス・ド・ボーヌのドメーヌが初めてヨンヌ県のヴェズレーまで広がることとなった。寄贈の土地はアペラシオン・ヴェズレーの認可領域ながらブドウ樹は植えられていないので、植樹を経て実際に競売に掛けられるワインが生産されるまでにはまだ時間がかかる。ヨンヌ県のブドウ園の最初の寄贈は、ジャン・マルク・ブロカール氏によるシャブリのプルミエ・クリュ、「コート・デ・レシェ」の寄贈で2015年。今回のヴェズレーのブドウ園は、これに次ぐ寄贈案件となる。

また、これまで『コルトン・グラン・クリュ・レ・ルナルド』と呼ばれてきたキュヴェが、今回から『コルトン・グラン・クリュ・レ・ルナルド、ベルティエ・スウィーニー』となった。これは、長年オスピス・ド・ボーヌの歴史研究に携わり、『ボーヌ病院の歴史:ワイン、領地、寄贈者たち』(Histoire des hospices de Beaune : vins, domaines et donateurs)など貴重な著作を世に送ってきた歴史家カップルのベルティエ・スウィーニー夫妻を称えるためのもの。マリー・テレーズ・ベルティエ夫人は2015年に肺がんで亡くなり、アメリカ人の夫ジョン・トーマス・スウィーニー氏がこの1月にオスピス・ド・ボーヌに寄付を行い、オスピス・ド・ボーヌのキュヴェに名を遺すという夫人との約束を果たした。この新しいキュヴェは今後5年以内に、肺がん治療に向けた特別慈善キュヴェとして競売に掛けられる予定である。

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日本人の鎌田洋平氏が『マジ・シャンベルタン・グラン・クリュ』1樽を約2,160万円で落札

世界最大手のオークションハウス、サザビーズによると、アジア市場の存在感が顕著に増大しており、既に同社のワイン部門の売上の42パーセントをアジア市場が占めるまでになっている。この傾向はボーヌ・オスピス・オークションにおいても同様である。

特に韓国市場の躍進が目立つ。これは韓国出身でアジア初のマスター・オブ・ワインとなったジニー・チョー・リーさんが今年1月にオスピス・ド・ボーヌの公式コンサルタントに就任したことからもうかがえる。また、中国市場では従来のボルドー志向からブルゴーニュワインへの嗜好シフトが顕著となっており、この傾向は一時的なトレンドではなく、中国のワイン愛好家たちの味覚の成熟と知識の深化を反映した本質的な変化だと評価されている。

日本のワイン愛好家も今回会場最前列に陣取り、積極的に競売会に参加した。その中の一人、鎌田洋平氏はドメーヌ・オスピス・ド・ボーヌの最良キュヴェの一つ『マジ・シャンベルタン・グラン・クリュ、マドレーヌ・コリニョン』1樽を13万5,000ユーロ(約2,160万円)で落札した。会場で、鎌田氏は「友人達と分け合い、記念ボトルとして長く楽しみたい」と語った。

鎌田氏が落札した『マジ・シャンベルタングラン・クリュ、キュヴェ・マドレーヌ・コリニョン』は、1976年にジャン・コリニョンによってオスピス・ド・ボーヌに寄贈され、彼の母の名が追憶として付けられた。グランクリュ・シャンベルタン・クロ・ド・ベーズと同じ斜面に位置し、マジ・オーの丘陵中心部にある見事な区画である。土壌は小石、崩れ石、鮮やかな赤粘土が豊富に混ざっており、ここで生産されるピノ・ノワールは常に密度が高く、絹のような上品なタンニンを持ち、後味が常にまろやかで寛容で、優れた長期熟成の可能性を秘めている。

ワイン評論家でコンサルタントのMWジニー・チョー・リーさんも「このワインは、豊かな中間の風味、そして長く余韻の残る後味まで、一貫して威厳のある風格が感じられます。さらに、美しく彫琢され、明確な輪郭を持ちながら、口の中で強烈かつ広がりのある味わいを見せ、このクリュの気高さが確認できます。また、優れた精密さと繊細さに、洗練された官能的なタンニンが組み合わさり、優れた熟成のポテンシャルを備えています。少なくとも8年の熟成期間を経て楽しむべきワインで、できれば数十年の熟成が望ましいでしょう」と絶賛している。

今年も数量で19パーセント、金額で32パーセントを落札し、最大の落札者となった「アルベール・ビショー社
」のアルベリック・ビショー社長(左)

最大の落札者となったのは、今年も「アルベール・ビショー社」で、総額440万9,000ユーロ(約7億500万円)、85.5樽(総取引量の19パーセント、金額ベースで全体の32パーセント)を落札した。同社が事前に個人向け1本当たりの販売価格を提示していた『Meursault cuvée Loppin (1本247,00€)』は一樽《228リットル》30 000€、『Savigny cuvée Arthur Girard (1本122,00€)』は一樽 13 000€など、五つののキュヴェはいずれも事前の提示価格を少し下回る価格で落札した。同社のアルベリック・ビショー社長は「サヴィニー、ボーヌ、そしてエシェゾー・グラン・クリュ、さらにバタール・モンラッシェ・グラン・クリュの全3.5樽を確保できたことを大変嬉しく思います」とコメントしている。

オスピス・ド・ボーヌは1443年の創設以来、医療と慈善の精神を守り続けており、現在も四つの公立病院と五つの高齢者施設を運営する重要な医療グループとして機能している。このオークションの収益のおかげで、国からの補助金に頼らない唯一の医療グループとして運営されている。