日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人が罹患するといわれる「がん」。自分の老いた体にがんを発見したら、あなたはどうしますか? 苦しい治療をして完治を目指すでしょうか。医師の和田秀樹氏は「65歳をすぎたらがん検診をやめることもひとつの選択肢」と言います。今回は和田氏の著書『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)から、健康寿命とがん治療の考え方についてご紹介します。

85歳を過ぎた人には必ず「がん」が?それでも恐れる必要はないワケ

高齢者医療を中心とする浴風会病院に勤務していた当時、年に100人ほどの解剖結果を見てきましたが、85歳を過ぎた人の体内には必ずがんがありました。だからといって、むやみに恐れる必要はありません。

高齢になると、がんの進行がゆるやかになるので、いくつものがんを抱えながら生活の質を損なわずに暮らしている人も珍しくなく、多くの人は、がんがあることを知らないまま亡くなるのです。実際がんが見つかった人のうち、死因ががんだった人は、3分の1ほどです。

がんが見つかったときに大事なのはその後の対策で、選択肢としては「①苦しい治療に耐えて、がんを根絶する」「②治療は最小限にして、がんとともに生きていく」という二つが考えられます。

①を選ぶ場合、重要になるのが医者と病院の選び方です。病院によって治療の方法が異なり、医者によって治療方針も手術の腕も違います。「家から通いやすいから」などの安易な理由で選ぶのではなく、病院のホームページなどに公開されている病気別の手術成績や、術後のフォロー体制などを調べることが大切です。

そして、私なら高齢者のがんに関しては②をおすすめします。がんは積極的な治療をしなければ、亡くなる少し前まで普通の暮らしができる病気だからです。「それだと寿命が短くなるだろう」と不安になるかもしれませんが、それでも②なら病院のベッドに縛られずにすんで、健康寿命は①の場合よりも延ばせることが多いのです。

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高齢者は「治療をしない」という選択肢も

がんは治療するから、いろいろな意味で苦しい病気になります。がんの根絶をめざすとき、基本的には「手術」「抗がん剤治療」「放射線治療」が行われますが、これらの療法はがん細胞と同時に正常な組織や細胞も傷つけるため、患者の生命力を弱めてしまうことになります。

手術によって体の機能が損なわれれば、食欲も体力も落ちるでしょう。抗がん剤を使えば身体の自由が奪われ、髪の毛がごっそり抜けることもあります。そのうえ莫大な治療費がかかります。

それならば、とくに高齢者の場合は、手術をしないという選択肢があってもいいでしょう。早期発見して治療が始まると、健康寿命がそこで終わってしまうことが少なくないからです。

最悪なのは、検診でがんが見つかったときにパニックになってしまうことで、そうすると往々にして間違った判断をしてしまいます。

これを避けるためには、がんが発見される前から自分の望む治療方法を考え、それに合った病院の情報を調べておくことです。65歳を過ぎたら、がん検診は受けないというのもひとつの考え方です。

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック院長