内装会社の社長が過激な“イジメ動画”をTikTokに投稿 「名誉権を侵害された」社員の訴えに裁判所の判断は

「半殺しにすんぞ」

これは、とある会社の社長が社員Xさんに吐き捨てた言葉だ。しかもその場面を撮影し、あろうことかTikTokに投稿。

Xさんが慰謝料請求の裁判を起こしたところ、裁判所は会社に「慰謝料20万円を払え」と命じた。(大阪地裁 R5.10.3)

ほかにも社長は、【謝罪強要】【社員の体に油性ペンで落書き】を行っている。小規模なワンマン社長の会社では、残念ながらこうしたイジメが起きやすいが、証拠を確保すれば慰謝料請求できる可能性がある。

事件の経緯

会社は、内装工事などを行っており、Xさん(男性)は内装作業員である。社長は、イジメ動画をTikTokに投稿した張本人だ。

この会社では、TikTokで会社名義のアカウントを開設していた。フォロワーの数はなんと85万7000人。アカウントの説明文には「職場の裏側をメイキング投稿しております」との記載があった。

問題の動画は以下のとおり。もはや「イジメ・メイキング投稿」だ。判決文から抜粋したその模様を順番に見ていこう。

■ 謝罪強要
まずは40秒の動画。

社長
「オマエ、言わなアカンことあるやろ」

Xさん
「私は会社提供の住宅のガス契約に関し、500円のクオカードが当たるキャンペーンに応募していました」

社長
「オマエの誠意を俺に伝えてくれ。よーーっ!」

Xさん
「どうもすいませんでした(両手を交互に上げ下げして踊っているような動きで)」

社長が笑い転げる。

・・・中学生なのだろうか? この動画を会社名義のアカウントで公開するなど正気の沙汰ではない。

■ 半殺しにすんぞ
続いて1分12秒の動画。

社長
「かん口令を敷いてずっと黙ってたけど(Xさんは)ホモやねん」

従業員A
「俺の顔ばっかり見ている」

社長
「見惚(ほ)れとってん」

社長
「X君が従業員の陰茎をずっと触っていた」

従業員B
「X君がその従業員のおしりを触っていた」

従業員C
「自分が目を離した隙に、Xさんが私の飲みかけのペットボトルのお茶を飲んでいた」

ラストは社長がXさんに対して「俺を好きになった時には半殺しにすんぞ」「間違えても俺に惚れんなよ」と言った。

■ 体に落書き
最後は24秒の動画。

社長
「ウソつきが直りますように」

と言いながら、Xさんの背中に落書き。

社長
「ちょ待って、乳毛プラスしよう」

と言いながら、Xさんの胸に油性ペンで落書き。

社長
「オマエ、乳首もう立ってるやろ。感じとるんか。立ってるやん」

ラストは字幕で「いつの日か虚言癖が治りますように」と表示。

その後、会社名義のアカウントは停止に追い込まれた。

■ 提訴
Xさんは会社を相手に裁判を起こした。主張の概要は「この動画によって名誉権を侵害されたから慰謝料請求する。動画の削除を求める」というものである。

裁判所の判断

Xさんが勝訴。会社に対して「慰謝料20万円を払え。動画も削除せよ」と命じられた。

裁判所は、具体的な事実を摘示してXさんの社会的評価を低下させたことを理由に【名誉権の侵害】と認定している。以下、前述した3つのイジメ動画に対する裁判所の判断だ。

・謝罪強要
Xさんが会社から注意を受けたにもかかわらず真摯(しんし)に謝罪ができない人物との印象を与えている

・半殺しにすんぞ
Xさんが他の同性の従業員にわいせつな行為などをして迷惑をかけるという印象を与えている

・体に落書き
Xさんがウソつきであるという印象を与えている

認定されなかったイジメも…

判決には、残念ながらXさんが涙を飲んだ内容もある。

Xさんは「社長が平手で顔面を殴ってきた」「10回くらい殴る蹴るの暴行を加えられた」「辞めたいと言った時に『次に辞めたいと言ったら社長の好きなようにしていいです』との誓約書を書かされた」と主張したのだが・・・裁判所は「これを認めるに足りる的確な証拠はない」として、これらのイジメを認定しなかった。

裁判は証拠が命だ。録音は最強なので、パワハラ気質の上司の下で働いている方にはぜひ実践していただきたい。

また、被害を受けた直後に誰かにLINEするのも手だ。裁判官が証拠として採用するかは出たとこ勝負だが、過去の判例では実際に有効だったこともある。(東京地裁 R2.3.3・セクハラ事件)

ワンマン社長の裁判例

今回の事件のほかにも、ワンマン社長と社員が争った裁判例を紹介する。

この人物は自分の非をゼッタイに認めないパワハラ社長だったが、社員を解雇したところ、裁判所から「慰謝料100万円を払え」と命じられた。理由は「己に問題があることに思いをいたさず、自分の指示に従おうとしない社員を会社から排除すべく解雇した」と認定されたからである。(大阪地裁 R5.2.7)

(参考)
「人格権を侵害」パワハラ社長が反抗する社員を“完全無視”から“解雇”の非道に裁判所が突きつけた代償

最後に

イジメの様子をTikTokに投稿するような社長は珍しいが、裏でパワハラを行っている社長はごまんといるだろう。小規模会社かつワンマン社長であれば、パワハラが行われる可能性は高まる。社長や会社に一矢報いたい方は、ぜひ、録音を駆使してくださいね。