“顔面凶器”小沢仁志(62)が語る悪役論「悪い奴のバックボーンは見えないほうがいい」

 俳優の小沢仁志さん(62)はデビュー40年。現在は66作目までリリースされた仁侠ビデオのメガヒット作『日本統一』で川谷雄一を演じている。川谷は日本最大のヤクザ組織・侠和会の組長で、非情な武闘派だ。

 一方、3作目までが制作され、28日にNHKのBSP4Kで午後7時30分から、BSでは29日の同時刻からスペシャル版が放送される人気時代劇『大富豪同心』にも出演する。役柄は内与力・沢田彦太郎だ。内与力は同心たちを指揮する現代の刑事部長的な立場であるものの、沢田は人間臭く、他人にも自分にも甘い。川谷とは対照的である。さまざまな役柄を幅広くこなす小沢さんに話を聞いた。

◆サラリーマン役は飽きるんだ

――デビュー当初からTBS『スクール☆ウォーズ』(1984年)の水原亮や映画『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)の前川新吾などアウトロー役が多かったですね。

小沢仁志(以下、小沢):アウトローをやりたかったから演じたというわけじゃなくて、そういう役が来ることが多かった。トレンディドラマでサラリーマン役をやったこともあるんですよ。でもね、飽きるんだ。何も起こらないから(笑)

――悪役のほうが面白い?

小沢:そうね。仇役の場合、主役をどう追い込むか、観ている人をどうハラハラさせるかなど考える余地があるから。仇役は縦横無尽にやれる。そこが好き。

――スペシャリストだからこそ分かる、悪役論をお聞かせください。

小沢:最近の悪役の描き方は気になるね。昔は悪い奴がどうして悪くなったのかなんて描かなかった。そんなことは観ている側にはどうでもいいことだと考えられていた。今は違う。悪い奴のバックボーンまで描きがち。「この男が悪くなったのは子供のときのトラウマのせい」とかね。

それじゃあ、悪い奴もトータルで見たら、良い人間ということになっゃう。ツッコミどころが出てきてしまう。俳優は役づくりの際、演じる人物の過去を考えることがあるけど、作品は別。アウトローはバックボーンが見えないほうがミステリアスで個性的になると思ってる。

――確かに『日本統一』も川谷がどうしてヤクザになったかという細かい説明はありません。

小沢:ヤクザしか出てこないドラマなんだから、ヤクザになった理由なんて要らないんだよ。そのヤクザがどういう仁侠道を歩もうとしているかの説明は必要だけどね。

◆ヤクザ組織と一般社会に通じるところ

――『日本統一』は2013年に第1作がリリースされ、今では女性のファンも数多くいます。どうして人気なのでしょう。 

小沢:侠和会若頭の氷室蓮司(本宮泰風)と本部長田村悠人(山口祥行)の結束にボーイズラブの要素を感じる女性ファンもいるみたいだな。だけど、大勢の人が観てくれる一番の理由は、ヤクザもほかの世界も組織はみんな同じだからじゃないかな。

どんな組織もトラブルが起こる火種は人事と派閥。だから会社のCEOクラスも『日本統一』を観てくれている。まぁ、いかなる組織も派閥などにとらわれず、人材を適材適所で登用していくことが肝心なんじゃないかな。

――シリーズはいつまで続くのでしょう?

小沢:最新の66作の発表がこないだあったからだまだ続くだろうな。

――初のNHK大河ドラマだった『八重の桜』(2013年)でも仇役でした。官軍となった長州藩の幹部・世良修蔵役で、徳川幕府側の会津藩を情け容赦なく責め立て、恨まれて最後は暗殺されました。大河でも仇役を望んだのですか?

小沢:そう。善玉役の話もあったんだけど、引き受けると出演回数が長くなりそうだったから。そうなると、俺の出演料ではNHKの駐車場代が払えなくなっちゃうかも知れなかったんです(笑)。制作側からは「出演回数を気にする俳優さんは小沢さんくらいですよ」って言われたよ。

◆畳を見るだけで冷や汗が出る(笑)

――2019年に始まった『大富豪同心』もファンが多くいます。支持される理由をどうお考えですか。

小沢:心温まるところじゃないかな。浪花節的な要素がある。主演の歌舞伎俳優・中村隼人君が扮する同心の八巻卯之吉がゆるい男であるところもいい。

――ほんわかした作品ですよね。小沢さんが演じる沢田にも温かみを感じます。

小沢:いや、沢田はお調子者でさ、人気芸者の菊野(稲森いずみ)に弱く、一方で上司と部下の間で板挟みになっている男なんだよ。そういう役割だって分かっているから、楽しいと言えば楽しいんだよ。

――内与力らしいシーンもありました。

小沢:うん。縄で縛られた下手人たちをゴザに座らせて、「そのほうたち」なんて言うシーンがあった。だけど、どうもしっくりこない。いつもと逆だから(笑)。

――確かに…。

小沢:この作品はアクションシーンがなかなかなくて。やっと立ち回りがあり、バッサバッサとぶった斬っていたら、殺陣師が「小沢さん、内与力の刀は斬れません」って。与力と同心の刀は刃が潰されていて、斬れないんだね(笑)。

――楽しそうな現場ですね。

小沢:そうなんだけど、時代劇は畳のシーンがあるから辛い。長く激しいアクションシーンをやってきたせいで、両膝が壊れてしまい、正座ができないんだ。畳を見るだけで冷や汗が出る(笑)。

――この作品は『絆…この手に』など竹島宏さんが歌うエンディング曲に合わせて出演者全員が踊るのも愉快ですよね。

小沢:沢田は劇中でもほぼ毎回、踊る。酔ったときとかね。「脚本家が遊んでるな」って思いますよ。振付師の人には「自由に踊ってください」と言われているけど、自由にやるほど難しいものはない。ダンサーじゃねえんだから(笑)。

◆「顔面凶器」とか勝手に言われているけど

――ヤクザ作品と時代劇に共通点はありますか。

小沢:登場人物がデフォルメされているところは同じだね。

――慕われていた松方弘樹さんもヤクザ作品と時代劇のどちらもやってました。

小沢:俺の最初のテレビ時代劇も松方さん主演の『素浪人月影兵庫』(テレビ朝日、2007年)だったんだよ。「迷惑を掛けちゃいますから」と断ったんだけど、松方さんが「四の五の言わずに出ろ」って。俺は松方さんの最後の弟子だと思っているので、そう言われたら出るしかない。結果的に松方さんの演技をそばで見られて良かった。勉強させてもらったね。

――松方さんと小沢さんの共通点の1つは、何を言われようが鷹揚に構え、否定しないところだと思います。松方さんは女性問題でかなり事実と違うことを報じられましたが、笑っていました。小沢さんも「メチャメチャ怖い人」などと言われても気にしませんよね。

小沢:うん、気にしない。だって、俺の素顔と作品を見ている人たちのイメージはどうしたって一致しないじゃない。たとえば「顔面凶器」とか勝手に言われているけど、見ている人たちがそう思うなら、それでいいんじゃない。いちいち「俺はそうじゃない」なんて言うつもりはサラサラない。

――芸能界、放送界での小沢さん評は「温かくて優しい人」で一致していますよ。

小沢:そう…。バラエティに出るときは怖い部分を求められているところがあるから、それに応える。プロだから。「ここで怒ればいいんでしょ」みたいな感じ。そもそも本当の俺なんて知らなくても別にいいんじゃないって思っている。

<取材・文/高堀冬彦>

おざわ・ひとし 1962年6月19日年、東京生まれ。身長180cm、空手2段で柔道初段。小学生のとき、チャールス・チャップリンの映画を観て俳優を志す。OZAWA名義で映画監督と脚本執筆も精力的に行っている。過去のドラマ出演作はフジテレビ『最後のストライク 〜炎のストッパー津田恒美・愛と死を見つめた直球人生』(2000年)NHK『生き残れ』(2005年)テレビ東京『めしばな刑事タチバナ』(2013年)NHK『風の向こうへ駆け抜けろ』(2021年)など多数。映画は主演兼監督作だけで『SCORE2 THE BIG FIGHT』(1999年)『殺し屋&嘘つき娘』(1997年)『くノ一忍法帖 柳生外伝』(1998年)『二代目はニューハーフ』(2013年)『BAD CITY』(2022年)など多数。上映中の『室井慎次 敗れざる者』(2024年)『室井慎次 生き続ける者』(同) にも出演。

【高堀冬彦】

放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員