同じ23歳メジャー挑戦でも…佐々木朗希と大谷翔平の“決定的な違い”。「マイナースタートがちょうどいい」と言えるワケ

「令和の怪物」は果たしてどの球団と契約を結ぶことになるのか。

 今季までロッテに5年間在籍し、通算29勝を挙げた佐々木朗希。今月10日(日本時間、以下同)にポスティングシステムの申請がメジャーリーグに受理され、全30球団との交渉が可能となった。大本命と目されるドジャースのほか、パドレス、マリナーズ、ホワイトソックスなど、ほぼ全球団が165キロ右腕に興味を示しているとされる。

◆交渉は期限ギリギリまで長引く可能性も

 そんななか、ダルビッシュ有(パドレス)や、イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の面談同席の可能性が報じられるなど、争奪戦の行方は現地でも大きな注目を浴びている。

 交渉期間は年末年始を挟んで1月24日まで。今月10日から4日間の日程で開かれた『ウインターミーティング』でも、佐々木の動向は話題の中心の一つとなったが、期間中に目立った動きは見られなかった。

 現在23歳の佐々木には“25歳ルール”が適用されるため、契約金や年俸などが制限される。資金力で劣るスモールマーケットの球団にも剛腕を獲得するチャンスがあるため、交渉は期限ギリギリまで長引く可能性が高い。

 佐々木サイドとしても、より多くの球団の起用法や育成計画などに耳を傾けることができる。自身に最もフィットし、成長できる新天地を見極めたいところだろう。

◆同じ23歳でメジャー挑戦した大谷翔平との違い

 奇しくも大谷翔平と同じ23歳でメジャー挑戦を果たす佐々木だが、2人のポスティング時の状況は大きく異なる。

 17年オフに日本ハムからポスティングで海を渡った大谷は、前年(16年)に、投手として10勝、打者として22本塁打を放つ活躍でチームを日本一に導き、多くのファンから後押しを受ける形でメジャーに挑戦。日本ハムでの実働5年間で、合計「42勝&48本塁打」をマークし、二刀流選手としてすでにその才能を開花させていた。

 一方の佐々木は、じっくり時間をかけて育成するというチーム方針もあり、1年目は実戦登板なし。肉体強化に取り組む日々を過ごした。

 2年目にようやく実戦デビューすると、一軍で11試合に投げて3勝2敗。3年目に初めて開幕ローテーション入りを果たし、完全試合を達成するなど9勝を挙げた。

 そして4年目に7勝、そして5年目の今季は自身初の二桁勝利となる10勝を挙げたが、これまでフルシーズンを投げ抜いたことがない。それどころか一度も規定投球回数に達したこともないのだ。

 佐々木が一軍で投げた4年間でチームは3度クライマックスシリーズに出場してはいるが、日本シリーズ進出はなし。そういう背景もあって、この秋にロッテからポスティングが認められた際はSNSなどでファンから大バッシングを受けた。

 しかし、その批判の声もファン感謝デーで行った最後の挨拶を機に徐々に収束。今は激励に近い意見が目立つようになっている。

 そんな佐々木と7年前の大谷に共通しているのが、25歳ルールによって当初はマイナー契約からスタートすることだ。

◆一年目の大谷に対して現地メディアから批判の声も

 今では想像もつかないが、大谷のエンゼルスでの1年目は実際に開幕をマイナーでスタートする可能性もあった。

 18年春のオープン戦で、大谷は投打ともに精彩を欠き、打っては打率.125、投げては防御率27.00とメジャーの壁にぶち当たっていた。その結果、現地メディアを中心に「大谷はマイナーから始めるべきだ」という声も少なくなかった。

 しかしエンゼルスは開幕直前に大谷とメジャー契約を結ぶ決断を下すと、その後は二刀流選手として新人王を獲得。結局、一度もマイナーの試合に出場することなくフルシーズンを戦い抜いた。

◆佐々木はマイナースタートとなる可能性も

 一方の佐々木も大谷と同じくマイナー契約を強いられる立場だが、こちらはオープン戦のパフォーマンスにかかわらず、開幕をマイナーで迎える可能性もありそうだ。

 もちろん、常時160キロ台の速球と鋭く落ちるフォークは即メジャーで通用するだろう。しかし、ロッテ時代は大事に使われ、休み休み登板していたいわば温室育ち。来季の春先は2か月ほどマイナーで基礎体力の強化に努め、その後にメジャー昇格というシナリオを描く球団があってもおかしくない。

 中長期的に見れば、メジャー登録日数の関係でFA権の取得を遅らせることができる点でチームにも、また雑音をかき消したい佐々木にとっても悪いシナリオではないはずだ。

◆今のマイナーリーグの環境は佐々木にピッタリ?

 また、現在のマイナーリーガーの生活は以前ほど過酷というわけではない。

 コロナ禍前の5年前(19年)と今季を比べると、3Aの最低保証年俸は3倍超に増えており、5年前は自腹で賄っていた食事も今では1日2食がチームから提供されている。また、移動の際もこれまでバス1台だったのが2台に増加。シーズン中の住居も提供されるようになるなど、マイナーリーガーを取り巻く環境は大きく改善されている。

 かつてのようにハングリー精神が育まれる環境とはいえないかもしれないが、温室育ちの佐々木にはちょうどいいともいえそうだ。

 果たして佐々木はどの球団と契約を結ぶのか。そして開幕をメジャーで迎えることになるのか、それともじっくりマイナーで鍛えてから高みを目指すのか。佐々木が選ぶ球団によって自身が描いている未来像も判明するだろう。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】

1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。