たまーに見かける“ぽつんと一軒家”……近所付き合いも難しく町までも遠い、一見すると不便にも思えるその場所には、はたしてどんな人が住んでいるのでしょうか? 土地家屋調査士で心理カウンセラーの資格を持つ平田真義氏が「住環境と性格の意外な関係」について、実体験をもとに紹介します。同氏の著書『住んでる人の性格は家と土地が教えてくれる』(自由国民社)より詳しくみていきましょう。
崖の上に住む“絡みづらい”お隣さん
丘の上の一軒家というと、なんだかちょっとロマンを感じますが、その実態はどうなのでしょうか。
私は基本的に都内の仕事を中心に受けているのですが、その仕事は珍しく地方でのものでした。
登記簿や公図で依頼者さんの土地を事前に確認したのですが、そこは30坪ほどの住宅地。近隣も3軒ほどしかなかったので、「それほど大変ではなさそうだな」と高をくくっていたのです。
ところが、現地に行ってみてビックリ! 依頼者さんのお隣の3軒のうちの1軒がかなり特殊でした。依頼者の土地の裏手にそびえたつ小高い崖の上に、ぽつんと1軒だけ建っているのです。
崖と言っても、壁面が崩れないよう、擁壁というコンクリートの構造物で覆われています。
その丘の上の1軒を見上げながら、思わず「これでも隣地かあ……」とつぶやくとともに、悪い予感を覚えたのでした。
依頼者さんが同行してくださったので、崖の上の家以外の2軒のお隣さんは、問題なくご挨拶を終えることができました。
この調子で、次は崖の上の家にご挨拶をとなったとき、「では、私はこれで」と、依頼者さんがそそくさと退散してしまったのです。
独り取り残され、思わず「えーっ?」と動揺が口に出てしまいました。そして、「あの嫌な予感は、勘違いではなかったようだな」と思ったのです。
崖の上の家は、小高い丘のてっぺんに建っています。まずは坂道を数分歩いて崖の麓まで行かなければいけません。「この上に住んでいる人はどれだけ健脚なんだろう」などと思いながら、汗を拭き拭き、はるか上にそびえるかなり築年数が経っていそうなお宅を見上げます。
ようやく丘の上まで登りきり、インターフォンを押すと、お年を召した女性の声ですぐに返答がありました。家主である夫を呼ぶと言い、一度インターフォンは切れました。
しばらくして、70歳くらいの男性が窓から顔をのぞかせます。
「なんだよ、日曜日にいきなり訪ねて来て! 隣の測量? 俺ん家には関係ないだろ、ああん?」
不機嫌を丸出しにしたような言葉と態度に、思わず足がすくみます。
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偏屈な住人が“上機嫌”になったまさかの事実
この仕事をしてきて、突然訪問したお隣さんにこういう対応をされることは珍しくないのですが、機嫌が悪い人を相手にしても、このまま追い出されては後々困ります。
勇気を奮い起こしてこう言いました。
「お休みのところ申し訳ありません。お宅と依頼者の〇〇様の土地とがこのように接しているので、どうしても立ち会っていただかないといけないのです」と境界線が接していることを、公図を見せながら必死に伝えました。
「面倒くせえなぁ!」
「はい、ご面倒をおかけしますが、後日、この丘の下までご足労いただきたいのです」
「なんだと? お前らがここまで上がって来いよ」
公図によれば、崖の麓から上はすべてがこの家の土地となっています。
そのことを伝え、土地の境界線が崖の下にあることを伝えると、お隣さんの態度が少し軟化しました。
「えっ、この擁壁も俺の土地なの?」
「はい、そうです」
「ふーん」
お隣さんは少し機嫌がよくなった模様。どうやら、崖が丸ごとご自身の土地だとはご存じなかったようです。
「そんなに大きな土地が自分のものだと知らないなんて有り得るのか?」と思われるかもしれませんが、実は同じところに長らくお住まいの家でも、境界をまったくご存じない方はたくさんいます。
お隣さん、気分をよくしたのか、境界の立会いをすることに納得してもらえました。
依頼者さんのもとに戻り、崖の上のお隣さんにも立会いをしてもらう了承を取りつけたこと、また、休日に訪れてしまったせいか、お叱りを受けたことをお伝えしました。ご近所付き合いに支障が出てはいけないので念のため事の次第を伝えたのですが、「ああ、あの人はそういう人なんですよ」と苦笑いしていました。
聞くところによると、崖の上の住人は偏屈で有名な方らしく、怒鳴り散らされたご近所さんは数知れずだそう。依頼者さんですら顔を合わせたくなくて、今回の挨拶にも同行しなかったのでした。