利用しない手はない…Aさんが調べた“夫婦のお金”の分け方

「彼女は自分と似たような状況だったのに、そこから自分の力で人生を切り拓いている……それに比べて私は言い訳しているだけだ。このままの生活でいいのか? このまま何十年も同じ生活でいいのか?」

自問自答する日々を過ごしたAさんは、「とにかく自分も自立への準備をはじめよう」と決心しました。

Aさんは、将来的な離婚を見据えて、パート時間を増やしただけでなく、簿記の資格取得を目指して勉強を始めました。夫は帰りが遅いため、時間はあります。家事について、夫が指摘してくることもワンパターンであったため(掃除が行き届いていないと嫌みを言ってくるが、食卓にお惣菜が混ざっていてもあまり気がつかないなど)、手を抜けるところは抜いて、自分のための時間を増やしていきました。

同時に、財産分与についても調べはじめました。結婚期間中に2人で協力して増やした資産を公平に分配するという方法を、使わない手はありません。

機は熟した…Aさんが「離婚」を決意したタイミング

そして、12年後の現在……子どもが社会人となって家を出たことタイミングで、機は熟したと感じたAさん。

依然としてパートのままでしたが、猛勉強の末、簿記2級を取得したことで時給も上がり、コツコツ貯めた金額は400万円。貯めたお金で、有料の法律相談にも行きました。

夫は夢にも思っていないでしょうが、財産分与で得られる資産の大枠も計算していました。

まずは預貯金。夫は結婚するときまったく貯金がなかったため、今ある預貯金1,000万円は結婚してから築いたものになり、財産分与の対象です。Aさんの預貯金と合わせて半分に分けたとして、300万円ほどはAさんに分与されることになります。

退職金についても、賃金の後払いという性質から、将来的にほぼ確実に支給されることが見込まれる場合、財産分与の対象となります。夫の退職金は、満額で約2,000万円。支給前の退職金についての計算方法にもよりますが、400万円ほどはAさんに財産分与されることになりそうです。

そして、不動産。Aさんは、20年以上前に購入した建売住宅に暮らしています。住宅ローンは完済済みです。Aさんがこっそり査定を依頼したところ、20年以上経つとほぼ土地のみの価値となってしまいますが、2,000万円程度にはなりそうとのこと。購入時、Aさんの親が500万円を援助してくれていたので、その分も考慮し、1,000万円はAさんへの財産分与と主張できそうです。

さらに、年金分割制度があります。年金分割制度は、結婚期間中に支払った年金を夫婦で分割することです。分割されるのは「厚生年金」なので、配偶者が自営業など国民年金のみに加入しているような場合は対象外です。

Aさんは、年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取り寄せました。通知書には、年金分割の割合を決めるために必要な情報が記載されています。月4万円ほど年金を増やせる算段です。

そして、Aさんは夫のモラハラによる慰謝料も受け取りたいと考えています。ずっとつけていた日記が役に立つときがやってきました。

Aさんの秘策、それは入念な準備にほかなりません。

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いざ、離婚宣告

Aさんの離婚宣告に、夫は「おいおい、なにをバカなこと言ってるんだ(笑) パートごときの収入で、お前ひとりでどうやって生きていくんだ、ん?」と高笑い。上から目線で相手にしません。

しかし、Aさんが冷静に財産分与について切り出すと一転、顔を真っ赤にして怒鳴りはじめました。

「オレの財産を盗む気だな! お前になんか1円も渡さない! 誰のおかげで今まで生活できてきたと思ってるんだ!」

誰のおかげ? こっちのセリフだわ……Aさんは心の底から呆れてしまいました。2人で話し合えたら良いと考えていましたが、とても無理な話でした。

家を出たAさんは、弁護士から「1円も渡さないと息巻いていた夫が、1円も渡さないどころか、自宅を売却する必要があるとの説明を受け、泣きながら謝罪している」と聞かされました。

それを聞いても、Aさんの意志は揺らぎません。ただ、空を仰ぎ、ふと、もし尊敬し合える夫婦だったら今ごろどんなふうに過ごしていたのだろうか、と思っただけでした。

人生100年時代といわれるようになり、老後と呼ばれる期間がどんどん長くなっています。「離婚せずとも、つかず離れずやり過ごせばいいじゃないか」そんな意見もあるかもしれません。もちろん、安易に離婚という選択をするべきではありませんが、何歳からでも自分らしい人生を選択することができる、そんな時代が来ているのではないでしょうか。

石川 亜希子
AFP