銀行の窓口で、成年後見人や財産管理人の取り扱いをめぐるトラブルが後を絶ちません。成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した人を支援するために、援助者を選任して財産管理や契約を補助する制度です。しかし、銀行の誤った内規や知識不足が原因で、預金者やその家族が不当な対応を受けるケースが全国で報告されています。本記事では、後見制度の課題に取り組む「後見の杜」代表・宮内康二氏の著書『認知症になっても自分の財産を守る方法 法定後見制度のトラブルに巻き込まれないために!』(講談社)から、「銀行がよく間違える3つのこと」について一部抜粋・編集してお届けします。
銀行がよく間違える“3つのこと”
成年後見人などがついた人の口座の取り扱いに関し、間違った銀行内マニュアルを作成し、窓口で誤作動を起こしている銀行が少なくありません。ここでは、銀行がよく間違える3つの事柄を説明します。
①「財産管理人がついた人の口座」と「成年後見人がついた人の口座」の取り扱いは異なる
後見人がつくまでのつなぎ役として、「財産管理人」がつくことがあります。財産管理人の権限は後見人より小さく、財産の保全と、税金や医療費など当然支払うべき費用の支払いに限定されています。
後見人がついた場合と異なり、財産管理人がついた本人の財産処分の自由は剝奪されません。そのため、預金者本人が「お金を下ろしたい」「口座を解約したい」と言えば、銀行は当然本人にお金を返さなければいけません。
しかし、財産管理人がつく=成年後見人(保佐人、補助人も同様)がつくと勘違いし、顧客対応を間違える銀行は少なくありません。ある地方銀行の支店長は、「財産管理人がついているので払い戻しに応じることはできません」と言いました。しかし、本店の法務部の職員(弁護士資格あり)が支店に来て私が電話で説明したところ、その場で預金を全額下ろすことができました。
また、大手都市銀行の支店でも同様のやり取りがありました。何を思ったのか、支店長は警察を呼びました。自らの知識不足からを預金者の業務妨害とみなした行為は、警察はもちろん銀行にいたほかのお客さまからも顰蹙(ひんしゅく)を買っていました。支店の人は、銀行内のマニュアルが間違っているとは少しも思わないでしょうが、成年後見分野においては銀行内のマニュアルが間違っていることが少なくないのです。
②身上監護後見人の財産管理権
成年後見人が二人いて、弁護士が財産管理業務(預貯金や不動産の管理および処分など)を担当し、家族が身上監護業務(医療や介護の契約や支払い)を担当する場合があります。
この際、「銀行取引は財産管理だから、財産管理後見人からの要請に応じればよい。身上監護後見人には、キャッシュカードは発行しない、お金を下ろさせない、残高さえ教えない」という内規を持つ銀行は少なくありません。
しかし、それは間違いです。身上監護後見人には、本人の医療・介護・生活に関する費用を保管する権利があると考えられるからです。
たとえば、老人ホームの入所にあたり、契約書にサインだけして、「お金のことは財産管理後見人に連絡してください」となれば、老人ホーム側は面倒に思うでしょう。仕方なく財産管理後見人に連絡したところ、「入所は認めない、費用は払わない」となったら入所できなくなってしまいます。
こうなると財産管理後見人に老人ホームの契約代理権はないのに、財産を握っているというだけで、老人ホーム入所の決定権が財産管理後見人に事実上移ってしまいます。契約代理権がない人にどうして決定権が発生するのでしょうか。おかしな話です。
身上監護後見人には、本人が生きるために必要な医療・介護・生活費を管理する権利があるのです。月の費用が40万円だとすると、年間で480万円、5年分として2,400万円程度の財産を管理する権利があるわけで、銀行は、身上監護業務を妨害しないよう、身上監護後見人からの払い戻しの請求などに対応するほかないのです。
③取消案件に戸惑う銀行
成年後見制度の利用は二つの場合に終了します。一つは「本人が死亡したとき」 、もう一つは「本人が回復したとき」です。しかし、「回復による取り消し」を知らない銀行がほとんどです。取り消しは、「審判即確定」ですから、審判確定証明書を求める必要はないのに、これを不要に求める銀行がほとんどです。
取り消しにより、通帳の名義を本人だけに戻すなどの事務が発生します。その際、「後見人だった人からの届け出がないと事務処理を始めない」という法的根拠のない独自ルール作成して運用している銀行もあります。なるほど、後見がなくなった預金者が窓口で怒るわけです。
取消審判と同時に後見人・保佐人・補助人だった人の権限はすべて消滅します。したがって、取消審判以降、元後見人などからの払い戻しに応じてはいけないのに、応じているケースも散見されます。権限がない人に預金者のお金を渡しているわけですから当然に問題です。
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正しい取り扱いを理解できていない=組織として瑕疵(かし)がある
以上のことが生じた場合、支店長はもちろん、本店の法務部や事務部、場合によっては社長(頭取)に苦情を入れましょう。全国信用金庫協会・全国地方銀行協会・全国銀行協会などの業界団体や金融庁に通報するのも一案です。
しかし、いずれにおいても正しい取り扱いを理解できていないことがしばしばです。そのような場合、組織として瑕疵(かし)があるわけですから、銀行や業界団体を相手に裁判を起こしてみてください。結果はすぐに出るでしょう。多くの銀行が裁判で負ければ、誤解に基づく現在の運用も全国的に改善されるはずです。
宮内 康二
一般社団法人 後見の杜 代表