SNSやインターネット上で、仕事の内容を明らかにせずに高額な報酬をうたい犯罪の実行役を募集する「闇バイト」。大手求人サイトに掲載された求人でも闇バイトに誘導されるケースがあり、求職者にもリテラシーが求められている。
一方で、闇バイトの募集を掲載した求人サイトの運営企業が法的責任を問われる可能性はないのか。また、闇バイトの被害者が運営企業に対して訴訟を起こすことは可能なのか。刑事事件・民事事件に幅広く対応する大川祐喜子弁護士に話を聞いた。
大手求人サイトも例外ではない「闇バイト」
昨年3月、特殊詐欺グループが、大手求人サイト「Indeed」「エンゲージ」などに「ハンドキャリー」や「回収」のアルバイトと称して求人広告を掲載し、高齢者から現金を受け取る“受け子”を集めていたことが報道により明らかになった。また、この求人に応じた男女38人が東京、愛知など7都県警に逮捕されていたこともわかった。
今年11月には、スポットワークサービス最大手「タイミー」の求人サイトに〈猫を探す仕事〉が掲載。深夜1時30分から4時40分までの作業で報酬は7500円。SNS上で「猫は防犯カメラや高級車を指す隠語ではないか」と指摘する声が上がり、タイミーは掲載を差し止めた。
求人サイトに掲載された闇バイトの求人がもととなり実際に強盗や特殊詐欺などの被害が生じた場合、求人サイトの運営企業は法的責任を問われるのか。
大川弁護士は、「形式的には、法的責任を問われる可能性があります」として次のように説明する。
法的責任の所在は? 弁護士が語る課題
「職業安定法(63条2号)で、公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供もしくは労働者の供給を行った場合、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処せられます。
また、そのような積極的な目的がなかったとしても、闇バイトの求人であることを知って放置している場合には、詐欺の幇助に当たる可能性もあると思います。
さらに、刑罰法規に触れなくても、民事責任を追及されることもあり得ます。闇バイトで特殊詐欺や強盗の被害に遭った人が、求人を掲載した求人サイトに対し責任を問う民事訴訟を起こすこともないとは言い切れません」
しかし、これはあくまで「形式的な話」だと大川弁護士は強調する。
「かつては、サイト側が“怪しい”と思いながら放置していた求人も少なからずあったのかもしれませんが、求人サイトへの社会の目は厳しくなってきていますし、今は各社対策に力を入れていると思います。
こうしたことから現実的に考えて、『求人サイトが闇バイトだと知っていたのに掲載した』という故意を立証するのは難しく、刑事裁判も民事裁判もハードルが高いと考えられます」(大川弁護士)
求人サイト各社の対策は?
各社は現在どのような闇バイト対策を行っているのか。編集部は人材業界最大手のリクルートが運営する「タウンワーク」と「Indeed」、スポットワーク「タイミー」を取材。それぞれ以下のような回答を得た。
●タウンワーク
求人を掲載する企業に対して「企業審査」を行い、その信頼性を確認しています。また、求人内容については「求人審査」を実施し、法令に基づく要件を満たしているかどうかを確認するだけでなく、弊社が定めた独自の審査基準が遵守されているかもチェックしています。さらに、これらの審査基準は定期的に見直し、改善を行っております。
●Indeed
不適切な求人情報が掲載されることのないよう、求人情報を適正に保つためのさまざまな取り組みを実施しております。Indeedへ求人情報の掲載を希望する「雇用主(企業等)」および「求人情報」について、掲載前に、雇用主審査(求人掲載元の審査)や求人審査をはじめとして多角的な取り組みを行い、不適切な求人の排除に取り組んでおります。
●タイミー
必要書類の提出や反社チェックなど「1.ご利用いただく事業者の審査」、過去に不正利用で利用停止になった企業データと一致しないかなど「2.求人掲載前の確認」および全件目視を組み合わせてチェックする「3.(求職者の)稼働前までの求人確認」を実施しております。
※タイミーは編集部による取材後の12月6日に記者会見を開き、公開前にすべての求人内容をチェックを行うなどの新たな闇バイト対策を発表した。
各社でこのような対策が行われていてもなお、求人サイト上に闇バイトが疑われる求人が掲載されてしまうのはなぜか。
大川弁護士は、「闇バイトのグループは法人をたくさん持っていることが多く、代表もさまざまな人の名前を使っています。求人審査のために提出する資料などでは、犯罪前科がない法人や名前を使い、ホワイトな事業者を装って申請しているのではないでしょうか」と指摘する。
その上で、応募してきた人に対してSNSや秘匿性の高い通信アプリなど、求人サイトが把握できない外部に誘導する手口だといい、闇バイトに巻き込まれないためには「求職者自身が注意するほかない」と厳しい現状を語る。
闇バイトに巻き込まれないために…
具体的にどのような部分に「注意する」必要があるのか。
大川弁護士は、基本的なことと前置きしつつ、対策について次のように語った。
「簡単な仕事の割に報酬が高額な求人を避けること、応募する前にどのような会社で何をしているのかネットを使って調べることなどが挙げられます。
また、応募後であっても、連絡方法としてSNSや秘匿性の高い通信アプリを指定されたり、『高額な商品を扱うから身元を知っておきたい』などと言って身分証の提出を求められたりした場合にはきっぱりと断り、求人サイトや警察に通報してほしいです」
各社求人サイトも大川弁護士と同様のコメントを寄せた上で、タイミーは独自の「働き手と事業者が相互に評価を行う機能」を利用し、求職者には過去に勤務した人のレビューを参考にしてほしいと要請している。
また、タウンワークは少しでも不審な求人があれば「相談窓口に連絡してほしい」とし、Indeedも「応募を急ぐことなく、各求人情報に設けてある『問題を報告するボタン』や、ヘルプセンターを通じて連絡してほしい」と呼び掛ける。
物価高騰が続き、国内では副業解禁の流れも加速している現在。若者に限らず仕事を探す人も多いが、問題のない会社を装った「闇バイト」に求職者自身も注意する必要がある。
そして、社会全体が怪しい求人を見逃さない目として機能することが、闇バイト撲滅への一歩となるだろう。