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 資産運用の世界的大手である仏ナティクシス社は、2024年版「世界の退職セキュリティ指標(GRI)」を発表した。いわば老後を快適に過ごせる国を示すランキングだ。スイスが82%のスコアを獲得して首位に立ち、前年首位だったノルウェーは2位に後退した。気になる日本の順位は?

◆スイス、ノルウェーなど欧州圏が上位に

 スイスは総合スコアで82%となり、2年連続首位だったノルウェー(81%)を抜いて首位に立った。以下、3位アイスランド、4位アイルランドとなり、オランダ、ルクセンブルク、オーストラリアと続く。

 調査は、国際通貨基金(IMF)加盟の先進国経済圏、経済協力開発機構(OECD)加盟国、そしてブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs諸国を含む44ヶ国を対象に実施された。

 「退職後の資金」「物質的な豊かさ」「健康」「生活の質」の4分野について、医療へのアクセスや医療費、気候、統治体制、幸福度など18の指標を分析している。各分野の平均点を算出し、それらを総合して最終的な国別ランキングを決定した。

◆首位スイスは健康・生活の質ともに良好

 首位のスイスは、物質的な豊かさと健康分野で特に高い評価を得た。失業率の低さと所得格差の縮小が寄与し、物質的豊かさの指標は2年連続で改善している。健康面では平均寿命が延び、この項目で世界2位にまで上昇した。

 一方、退職後の生活に関する財務指標では、金利と税負担の悪化により2位に後退した。もっとも、インフレ対策では成果を上げており、スイス国立銀行は最近、金融緩和のため利下げに踏み切っている。

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 生活の質を示す総合指標では、スイスは6位を維持している。環境要因と幸福度でわずかにスコアを下げたものの、幸福度では依然として世界のトップ10に入っている。世界有数の質の高い生活を送れる国というイメージを維持した形だ。

 スイスはまた、労働参加率の高さで突出している。失業率指標では満点を獲得した。

◆2位ノルウェーは税負担の大きさでスコア落とす

 これに対して2位のノルウェーは、税負担や老年人口、統治体制の各指標でスコアが低下し、「物質的な豊かさ」指数では1位から6位へ、「退職後の資金」指数では12位へと順位を下げた。

 これまで失業率の指標で好調だったノルウェーは、建設業界での雇用悪化の影響を受け、この分野での順位を1位から6位まで下げることとなった。ただし、1人当たりの所得では2位から1位に上昇しており、国民の基礎的な経済力は依然として高水準を保っている。

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 健康面では、スイスが平均寿命の大幅な改善により6位から2位へと順位を上げたのとは対照的に、ノルウェーは医療支出関連の指標で下落し、順位を1位から4位に落とした。ただし、コロナ禍の影響からは回復傾向にある。

 退職後の財政面では、両国で明暗が分かれた。スイスはインフレ抑制に成功し、中央銀行が利下げを実施できる状況まで改善。一方、ノルウェーは税負担や高齢者依存率の指標で苦戦し、分野別の順位をトップ10圏外まで下げる結果となった。

◆日本は前年比1ランク上昇、長寿では世界1位

 日本のスコアは69%で、前年から1ランク上昇の23位となった。調査対象の44ヶ国中、ほぼ折り返し地点に当たる立ち位置となっている。近い順位の国に、20位の韓国および22位のアメリカがある。

 日本の物質的豊かさの指標は71%まで改善し、昨年から順位を4つ上げて14位となった。平均寿命も非常に長く、引き続き世界首位を維持している。近隣国との比較では、日本が健康の指標で90%を確保したのに対し、韓国は81%にとどまった。

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 一方、課題としては所得格差が挙げられる。所得格差の指標は53%と低水準で、順位は31位と主要国のなかでも下位に沈んでいる。医療保険支出の順位は11位に後退し、健康に関する総合指標でも90%と微減した。退職後の資金の指標については日本は51%で、韓国の71%に大きく引き離されている。

 金融政策では明るい兆しも見える。3月には日本銀行が8年続いたマイナス金利政策を終了。賃金上昇の動きと相まって、今後利上げが進む可能性も出てきた。ただし、インフレ指標の順位は他国の改善が進んだことを受け、3位から14位まで大きく後退している。

◆老後資金への不安は世界共通 1.5億円あっても安心できない

 日本では老後の資金問題が盛んに報じられているが、この傾向は世界共通のようだ。調査から、退職資金を自身で確保する必要があると考える人の割合は、2015年の67%から2023年には81%へと急増していることが明らかになった。

 23ヶ国の8550人を対象にナティクシスが実施した最新の調査では、資産形成への深刻な懸念が浮き彫りになった。回答者の19%が「100万ドル(約1億5000万円)の預貯金があっても退職できない」と回答している。すでに100万ドル以上の資産を保有する投資家に絞っても、その18%が同様の不安を抱えている。

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 ナティクシスは、この背景として3つの要因を指摘する。第1に、企業年金制度が、給付額が確定している確定給付型から、運用次第で受取額が変動する確定拠出型へと移行していること。第2に、各国で公的債務が急増していること。そして第3に、新型コロナウイルス、インフレ、市場の乱高下といった短期的な経済ショックが発生している点だ。これらの要因が重なり、退職後の経済的な安定性への不安が世界的に広がっているという。

 こうした不安要素を反映し、安定した生活を退職後に送るためには「奇跡」が必要だと考える人の割合は、2021年の40%から、2023年には45%にまで増加している。

 年金制度の不備や厳しい懐事情が嘆かれる日本だが、退職後の生活に不安が絶えないのは世界共通の傾向のようだ。

◆1位〜44位のランキング結果

順位

順位

1位
スイス
23位
日本

2位
ノルウェー
24位
フランス

3位
アイスランド
25位
シンガポール

4位
アイルランド
26位
ポーランド

5位
オランダ
27位
エストニア

6位
ルクセンブルク
28位
スロバキア

7位
オーストラリア
29位
キプロス

8位
ドイツ
30位
ポルトガル

9位
デンマーク
31位
イタリア

10位
ニュージーランド
32位
ハンガリー

11位
スロベニア
33位
リトアニア

12位
オーストリア
34位
ラトビア

13位
カナダ
35位
チリ

14位
イギリス
36位
メキシコ

15位
ベルギー
37位
ギリシャ

16位
チェコ
38位
中国

17位
スウェーデン
39位
スペイン

18位
フィンランド
40位
ロシア

19位
イスラエル
41位
ブラジル

20位
韓国
42位
トルコ

21位
マルタ
43位
コロンビア

22位
アメリカ
44位
インド

※2024年版「世界の退職セキュリティ指標(GRI)」より