“アーパトゥ、アパトゥ”が頭から離れない!日本でも大流行「世界的アーティストのコラボ曲」が“ただの中毒曲”じゃない理由

 “アーパトゥ、アパトゥ”が頭から離れない―――。

 韓国のガールズグループ『BLACKPINK』のロゼとブルーノ・マーズがコラボした「APT.」が世界で大ヒットしています。

◆韓国では「受験生がハマりすぎて集中できなくなる音楽」として社会問題に

 アメリカのビルボードHOT100では最高8位、日本のチャートでも4週連続で1位をキープ。YouTubeの動画再生回数も5.9億回超え(12月16日現在)と、驚異的な数字を記録しています。

 韓国では受験生がハマりすぎて集中できなくなる音楽として社会問題となり、マレーシアでは刺激的な歌詞が青少年に悪影響だとして行政が注意を呼びかけるほどの騒ぎになりました。いろいろな意味で今年を代表する一曲と言っていいでしょう。

 韓国の飲み会でのゲームをもとにしたこの曲。冒頭のリフレインだけを聞くと、“なんだ、ネタ曲がヒットしただけの一発屋か”と思う人もいるかもしれません。たしかに、肩の力を抜いて楽しめるノヴェルティ・ソングの趣きがあります。

◆実は“キャッチーなだけ”の曲じゃない

 しかし、あなどるなかれ。よく聴けば、わずか3分足らずの中にカラフルな展開が繰り広げられているとわかります。ロゼとブルーノ、超一流の二人が音楽でぜいたくな遊びを表現しているのです。

 まず徹底したシンプルさがキャッチーです。“アーパトゥ、アパトゥ”から続く歌いだしのフレーズに、わずか2音しか使われていない。ブルースの基本中の基本のような歌いまわしで、曲が始まります。ギターのリフは語尾にかぶせるだけの必要最低限の演奏。それによって、ドラムのビートが印象的に刷り込まれていく。プリンスの「When Doves Cry」を彷彿とさせる、効果的なミニマリズムです。

 そしてはじめにビートを効かせることで、続くコードやハーモニーを意識させるパートが、よりくっきりと響きます。話し言葉から、メロディの場面に移ったことをわかりやすく教えてくれるのです。

<Don’t you want me like I want you, baby?>

 歌詞も、遊びでじゃれていたのがだんだん直接的な表現になっていく。音楽と言葉の両面で変化をつけることで、聞き手をガイドしてくれるような構成になっているのですね。

 すると、最初はリズムに合わせた掛け声でしかなかった“アーパトゥ、アパトゥ”が、最後にはハーモニーとともにメロディとして歌われることで、異なる意味合いを持つフレーズになるのです。

 少しマニアックな話になりますが、歌いだしはCメジャーのブルース、ブギーだったのに、終わってみればCマイナーのポップ・ロックになっている。長調と短調の間のゆらぎをうまく活かした、巧みな曲であることも見逃せません。

◆“安い企画っぽさ”がない理由は…

 そして、ロゼのボーカルが圧巻です。技術よりも持っている声そのものが素晴らしい。アジア人のしなやかで潤んだ質感はそのままに、歌詞のアタック感を伝えるダイナミックなスケールがあるからです。だから、ブルーノ・マーズとのコラボでも企画っぽさがまったくない。同じ格の音楽家同士が正面から向き合っている潔さを感じるのですね。

「APT.」を聞いて、K-POPどうたらと批判する人はほとんどいないでしょう。ロゼはそんな次元をとっくに超えてしまったのです。ブルーノ・マーズと音楽でバトルできる歌手がニュージーランド生まれの韓国人女性だっただけの話。

 むしろ、その身も蓋もないストーリーを日本の音楽シーンがどう受け止めるのか、と問われているようにも感じます。

 というわけで、今年の紅白は目玉がいないと心配されているようなので、もう「APT.」しかないんじゃないでしょうか。

 いっそのこと、ロゼに圧倒されてみては?、と思うのです。

文/石黒隆之

【石黒隆之】

音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4