「不二家」と「シャトレーゼ」で分かれた明暗。“ペコちゃん色”を薄める“脱ファミリー戦略”にかかる期待

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 デザート業界のトップランナーともいえる会社の明暗が分かれてきました。老舗の不二家は苦戦中で、変わらぬ味を守るトップスは堅調。シャトレーゼは急拡大中です。

 何が勝敗を分けたのでしょうか?

◆“緩やかに縮小する”不二家と“十分に回復した”トップス

 不二家の2023年12月期の洋菓子部門の売上高は251億円で、前年比プラスマイナスゼロ。リベンジ消費が起こる中でも増収を成し遂げることができませんでした。2024年1-9月の同部門の売上高は前年同期間比1.6%の減収。39店舗減少し、人々が日常を取り戻す中でも業績を拡大することができません。コロナ禍で大ダメージを受けた2021年12月期の売上高は254億円であり、そこから回復するどころか緩やかに縮小しています。

 一方、チョコレートケーキで有名なトップスは2024年9月期の売上高が3.3%増の34億円で、3期連続の増収。今期も0.7%のわずかな売上増を計画しています。2021年9月期の売上高は28億円でした。売上は十分に回復しています。

 矢野経済研究所はデザート類の市場調査を行っており、2023年度の市場規模を前年度比4.3%増の2兆3639億円と予想しています(「和・洋菓子、デザート類市場に関する調査を実施(2024年)」)。3年連続で市場は拡大する見込み。ただし、この調査にはアイスが含まれています。

◆シャトレーゼは「総合デザートショップ」の本領を発揮

 実はアイス市場は酷暑ともいえる異常気象の中で急拡大中。日本アイスクリーム協会によると、2023年のアイスの販売額は6082億円(「販売実績概要(2023年度)」)。前年の1割増となりました。2010年から振り返っても、市場が1割も急拡大したことはありません。しかも、2022年は前年の5.2%も増加していました。そこからの2桁増となったのです。

 シャトレーゼ社長の古屋勇治氏はビジネスチャンス社のインタビューに応えています。この記事によると、2023年の売上高は1175億円。前年比で17.5%増加しています。2024年は更に10.6%増加して1300億円となる見込み(「【シャトレーゼ】コロナ禍で184%伸長した絶好調の菓子チェーン」)。

 シャトレーゼが絶好調な背景の一つにアイス需要の獲得があるでしょう。

◆“アイス需要の急増”で嬉しい悲鳴

 アイスクリームチェーンのB-Rサーティワンアイスクリームの業績も好調。2024年12月期の売上高は前期比17.7%増の291億円を計画中。実に4期連続の2桁増となる見込みです。

 コロナ前の2019年12月期の売上高は194億円。5年ほどで100億円を上積みしました。アイス市場の好調な様子が伝わってきます。

 シャトレーゼは2023年の酷暑で、アイスの欠品が続出。生産が追い付かない事態に追い込まれました。そのため、今年の冬はアイスクリーム工場をフル稼働させ、在庫を増やしました。2025年夏には九州にアイス工場を新設する計画を立てています。2021年もアイスの供給が追い付かなくなり、製造ラインを増設。生産能力を増強していました。

 シャトレーゼは出店形態にも恵まれました。郊外のロードサイド型の店舗を出店していたため、巣ごもり需要を獲得することができたのです。

◆まるで「ゼンショー」のような動き

 また、亀屋万年堂や冷凍菓子を販売する菜花堂(さいかどう)などを買収。デザートの総合企業となったことも急成長を後押ししています。

 ロードサイド型の店舗に強みを持ち、提供する商品の種類を増やして顧客の間口を広げ、更にM&Aで業績拡大を続ける姿は、牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングスと重なるところがあります。

 しかし、郊外型の店舗という店においては、不二家のケーキショップも同じ。独立型のものだけでなく、「いなげや」「ヤオコー」「マルエツ」などのスーパー併設型の店舗も多く展開しています。スーパーマーケットはコロナ禍による巣ごもり特需の恩恵を受けました。

 それにも関わらず、不二家は売上高を伸ばすことができていないのです。

◆「普遍性」と「立地特性」が噛み合い、好調を維持

 まず、ケーキ市場そのものの停滞感があるでしょう。先ほどの矢野経済研究所の調査では、2023年のデザート市場は4.3%伸びるという予測でした。これにアイスクリームの市場を加味してそれ以外(洋菓子・和菓子など)の伸びを算出すると、2.5%ほどとなります。

 また、不二家はファミリー層が主要なターゲットであり、少子化が深刻化する日本においては不利。ハレの日需要など利用シーンも限定されてしまいます。

 不二家は2023年9月にロゴを一新し、「ペコちゃん」のトレードマークである、舌をモチーフにしたデザインを採用しました。ファミリー層に親しまれた“ペコちゃん色”を薄めており、ブランドイメージの刷新を図っています。

 最近では焼き菓子に力を入れており、バウムクーヘンが売れ筋商品の仲間入りを果たしました。不二家は、2007年に発覚した期限切れ牛乳使用問題でブランドイメージが激しく毀損。そこからは回復したものの、現在は新たな壁に直面しています。

 トップスの強さを支えているのは、どの世代にも愛されるケーキを提供しているため。昔ながらの手作りにこだわり、飾り気がなくシンプル。クルミのアクセントなど、飽きさせない工夫も加えられています。

 この普遍性が最大の強み。トップスは大丸や高島屋、伊勢丹など都市部の百貨店を中心に出店しており、お土産需要の獲得ができます。世代を問わずに好まれやすいため、“外さない”お土産に最適なのです。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界