車を運転中、突然自転車が飛び出してきて、ヒヤリとした経験はないだろうか。
兵庫県西宮市で起こった、10歳の児童が運転する自転車と車の衝突事故に関する訴訟において、「自転車側に過失100%」の判決が下った。一般的に、自転車と車の事故においては車側の過失が大きくなるイメージを持つ人も多いだろう。今回なぜ自転車側にすべての責任を認める判決となったのだろうか。
赤信号無視で交差点に飛び出した自転車
衝突事故は、信号機のある交差点で起きた。
車側の信号は「青」を示していたが、向かって左側に塀があり見通しが悪いため、車は徐行して交差点に進入。そこへ、左側から赤信号を無視した児童の自転車が飛び出してきたため、衝突事故が起こってしまった。幸い、車はほぼ停止状態だったため、児童に怪我はなかったという。
後日、車の運転手が児童側に修理費用を求める訴訟を起こしたところ、大阪簡裁は「自転車の責任が100%」との判決を下した。
判決のポイントは以下の通りだ。
①車側が交差点の手前で速度を落とし、徐行していたこと
②自転車は歩道上を徐行せず走行し、児童は信号を確認していなかったこと
③現場は見通しの悪い交差点で、車側は赤信号を無視して自転車が飛び出してくることを予見できなかったこと
児童側はこの判決を不服として控訴したが、大阪地裁で行われた控訴審でも自転車側に100%の過失が認められ、児童側に約13万円の損害賠償が命じられた。現在、児童側は上告しているという。
車側には、これ以上事故を防ぐ術がなかった
この判決について、交通事故に詳しい外口孝久弁護士は、「本件は要保護性の高い自転車が加害者であるにも関わらず、自転車側の過失が100%だった点に特殊性がある」と話す。
車と、自転車や歩行者との事故では、自転車や歩行者の過失割合が低くなるイメージがあるが、外口弁護士によると、実際に「『交通弱者保護』という概念から、車と比べて、自転車や歩行者は過失割合が低く判断されることがある」という。
歩行者や自転車の過失割合が低く判断される、つまり車の過失割合が相対的に高く判断される理由は、車の運転者には、歩行者や自転車よりも高い注意義務が課されているからだ。
「車の運転者は、危険な機械を操作しており、他者に重大な危害を及ぼす可能性があります。また免許制度のもと、危険を予見・回避するための知識や技能を備えていますし、車両にも危険回避のための機能が備わっています。
そのため車の運転者には高い注意義務が課されており、事故の際には自転車や歩行者と比べ、過失割合が高くなるのです」(外口弁護士)
交通弱者保護の概念があるにもかかわらず、今回「自転車の過失100%」の判決が下ったのは、車側が徐行して交差点に進入するなど十分に注意を払っており、これ以上事故を防ぐ術がなかったことが認められたためだと言える。
怪我の有無は過失判断の材料にならず
なお今回の事故において、児童側が怪我を負っていても「過失割合が変わった可能性はない」(外口弁護士)そうだ。
「過失責任とは、危機回避できたにもかかわらず、注意を怠ったことで損害や危害を生じさせたことに対する責任のことです。怪我の有無が、過失割合の判断材料にはなりません」(外口弁護士)
また、本件の自転車が衝突した相手が自転車や歩行者だった場合も、その他の条件が全く変わらないのであれば、先ほどの交通弱者保護の観点から「なおのこと『加害者側の自転車に過失100%』の判決が下ると考えられる」(外口弁護士)という。
増加する自転車事故…今年11月には道交法改正で罰則強化
警察庁の統計によると、令和5年(2023)の自転車関連事故は7万2339件と、前年より2354件増加した。また、全交通事故に占める割合も、平成29年(2017)以降は増加傾向にある。
警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」より
そんななか、今年11月に改正道路交通法が施行され、携帯電話を使用しながら自転車を運転する「ながら運転」の禁止および罰則規定や、今まで罰則の対象外だった「酒気帯び運転」についても罰則規定が設けられた。
🚨自転車運転中のながらスマホ、酒気帯び運転は絶対ダメ!🚨
自転車の危険な運転に新しく罰則が整備されました(令和6年11月1日施行)。重大事故を防ぐため、交通ルールを守りましょう。#自転車 #ながらスマホ #飲酒運転 #道路交通法 #交通安全
自転車の交通ルール👇https://t.co/oLU0GGvsth pic.twitter.com/f7EODQf547— 警察庁 (@NPA_KOHO) November 1, 2024
今回の法改正により、「ながら運転」で事故を起こしたときはもちろん、危険を生じさせなくても6か月以下の懲役または10万円以下の罰金、また酒気帯び運転についても3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになった。
なお、自転車の運転における道路交通法の年齢要件は、14歳以上であれば赤切符の対象となり、切符が交付された場合は自転車運転者講習を受講する必要がある。また今後、16歳以上の場合は青切符が適用され、信号無視などの違反に対して罰金が科せられる予定だ。
子どもたちの交通マナー向上も必須
今回の事故のように、子どもが運転する自転車であっても、交通ルールを守らなければ大きな過失が認められる可能性はある。誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれない。道路交通法の罰則が適用される年齢に満たない子どもについても、交通マナーの向上は必要不可欠だ。
では、家庭で交通マナーの教育を行う際には、どのようなポイントを伝えればよいだろうか。
前出の外口弁護士は、「実際に発生した事故をイメージできるよう、YouTubeの事故動画やニュース動画などを活用するのもよいでしょう。また、日頃利用する道を一緒に自転車で走ってみて、どんな危険が起こると考えられるのか、どんなルールが適用されるのか、親子で一緒に考えてみるのもおすすめです」とアドバイスする。
警察庁HPには、イラスト入りで自転車のルールをまとめた「キッズページ」がある。子どもが自転車に乗り始めたときや、自転車で1人で出掛けるようになったら、このページを親子で見ながらルールを確認するのもひとつの方法だ。
一番身近な乗り物といっても過言ではない自転車。罰則強化や、自転車の過失を認める判決によって、事故防止や減少につながるか。
安心して暮らすために私たちができることは、自らが交通ルールを守り、そして大切な子どもにも、交通ルールをしっかりと伝えることなのではないだろうか。