みなさん、喫茶店はお好きですか?昨今の現在の昭和レトロブームとともに、昔ならではの喫茶店にも再びスポットが当たっています。

2023年に全日本コーヒー協会が公開したデータによれば、日本で1番喫茶店が多い都道府県は、なんと大阪府なのだとか。「喫茶文化で有名な名古屋より、日本の首都・東京よりも多いの?」と、大阪府民でも知らない人が多いのではないでしょうか。筆者もそのうちの一人です。

今回は大阪市西区に、2021年にオープンした「喫茶 水鯨(すいげい)」というお店を紹介します。できて3年目の新しいお店ですが、実は50年近くの歴史を感じられる喫茶店なんです。詳しくお伝えします。

石川・金沢の老舗喫茶の調度品を受け継ぐ店

大阪メトロ「阿波座」駅から少し歩いた場所に、今回の目的地「喫茶 水鯨(すいげい)」が見えてきます。周辺には小学校、警察署、電力会社、物流倉庫、マンションなどが立ち並び、「住む人」と「働く人」が入り混じるエリアです。

外観だけ見ると、3年前にできたお店とは思えないほど味がある建物です。それもそのはずで、この建物自体は100年近くの歴史を持つ洋館。向かいにも大阪府指定有形文化財の日本聖公会川口基督教会聖堂があり、レトロ好きにはぜひ巡ってほしいエリアです。

こちらがマスターの山口修平さん。予想よりも遥かに若いマスターで「よく驚かれます(笑)」とのこと。奥様とご夫婦で、この「喫茶 水鯨」を営んでいます。

お店に入ると…うぅ〜〜〜ん、最高にレトロ★昭和感が漂いまくる店内のアイテムは、ほぼ「閉店した喫茶店から受け継いだもの」なんだとか。

「僕は元々、昔ながらの喫茶店が大好きで。喫茶巡りをしている中で、昭和の純喫茶がどんどん閉店していることに気づいたんです。後継者不足や建物の老朽化、マスターの体調面など、理由はそれぞれですが、せっかく長く愛されてきたものが無くなってしまうのはあまりにも惜しい。閉店する喫茶店の後継者になれないかと考えていた時に、金沢で50年近く営業されていた『珈琲館 禁煙室』の閉店を知りました」

珈琲館 禁煙室というのは、昭和55年に創業し、石川県内で10数店舗を展開した喫茶チェーンだそう。ちなみに「禁煙室」と名乗っているにも関わらず、喫煙は可能だったのだとか。名店を無くしてはいけない、と山口さんは移住覚悟で石川へ。当時お店を営んでいたママさんに後継者としてお店を受け継ぎたい、と名乗り出たのだそうです。

「建物の取り壊しが決まっていて、お店を受け継ぐことは叶いませんでした。しかし、ママさんが話をしっかり聞いてくれて、当時使用していた調度品や食器類を譲ってくれることになったんです。それから『禁煙室』の雰囲気をできるだけそのまま残したい、と、今の物件を見つけることができました。入り口の扉や壁のタイル、ガラス窓なんかも『禁煙室』のものです」


歴史を感じる看板


実際に使用していた伝票


コーヒーチケットもそのままのデザインで印刷会社に発注しているそう

「お店の屋号ごと受け継ぎたかったのですが、『禁煙室』の歴史はここで幕を閉じたいというママさんの意向がありました。僕もイベントでコーヒーを提供する活動をしていたので、その頃から使用していた屋号『水鯨』を店名にすることにしたんです」


減っていく昭和喫茶と絶滅の危機にある鯨に、共通点を感じたという由来だそう

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「日本の喫茶文化」を次の世代へ受け継いでいきたい


お店の奥にあるカウンターキッチン。コーヒーを淹れる瞬間が見れます

かくして「喫茶 水鯨(すいげい)」をオープンした山口さんご夫妻。しかし、喫茶店経営がゴールではないのだとか。営業をしながら、自身が喫茶店を継承したノウハウを活かして、喫茶店文化を守る活動に取り組んでいるそうです。

「僕たちのように、喫茶店を受け継ぎたい人と後継者を探しているお店さんを繋いだり、閉店してしまうお店さんの内装品を“レスキュー”したり。喫茶経営のノウハウを伝えるとか、そういった活動をしています」

家具やキッチン機材の廃棄処分にもそれなりに費用がかかるため、山口さんが引き取って倉庫に保管することがあるそうです。今では作れないような凝った家具を、いずれ必要な人に受け渡せるようにしたいのだとか。ちなみに、その活動のために「日本喫茶文化協会」を設立。山口さんは代表を務めています。活動は無償で行っているとのこと。

「開業費にあまりお金をかけられない方が多いんです。だけど想いというか、夢があるじゃないですか。そこで僕たちが仲介料を取ると、夢を邪魔してしまうかもしれません。うまく進む話も進まなくなるかもしれない」

喫茶店文化に貢献したいという気持ちだけで、今は活動を続けているそうです。何かできることはありますか?と聞くと「近所の閉店情報を知ったら連絡ください」とのことでした。


店の奥扉を出ると喫煙スペースがあります。店内は禁煙です

山口さんは現在35歳(2024年12月現在)。喫茶店にハマったのは20代だと言いますが、今時の若者をそこまで魅了させる喫茶文化の魅力とは何なのでしょうか?

「僕が感じるレトロ喫茶の魅力は、やっぱり昔の職人さんが作った調度品です。例えばこの椅子の手すり部分の湾曲したデザインとか…正直作るのは手間だろうし、機能的に無くても困らないものです。カウンターにも肘置きがあるんですけど、そういったちょっとしたデザイン性が、個性的で味があるんですよね」


禁煙室から受け継いだ赤い椅子。確かに変わったデザインです


今はほとんど見ない?カウンターの肘置き


九谷焼がぶら下がるデザインのランプ。ヤニだらけだったシェードは綺麗に張り替えたそう


ステンドグラス風の大きな窓。差し込む光がとても綺麗に反射します

50代・60代の昭和世代から見れば懐かしく、10代・20代のZ世代からすれば斬新なデザインの昭和レトロ喫茶。「禁煙室」から受け継がれてきた内装は、色んな色を使っているのに、なぜか統一感があり、独自の世界観があります。

「レトロ喫茶風にすることはできると思います。でも、歴史や思い出までは真似できません。近所の方の憩いの場所というものをずっと残したいですし、色んな人が気軽に立ち寄れる場所であり続ける。それが僕が好きな日本喫茶の姿です」