限界に挑戦することもまた、自由。正解のない世界を、楽しみながら追い求めたい

オーディションを勝ち抜き、難関を見事に突破した飯田さん。踏み出した新天地での最初の一歩は、大役中の大役ゆえに決して易しいものではありませんでした。

「感情に全振りしたことで歌声が届かなくなったり、精神的にも肉体的にも『ちょっともう、無理です……』みたいな状態になったりしたこともあります(笑)。でも、役づくりのためには、そうしたプロセスも必要だということは演出家も理解していて、歌のクオリティを保った上で心情表現ができるようになるといいよねと方向づけてくれました。『もっとやって』と言われるよりは、やりすぎを抑えてもらうくらいの方が、今の僕にはいいのかなと思っています」

心の鍵を開けるためには、やはり冷静でも平静でもいられない――しかし、そのハードな瞬間を、どこか楽しんでもいるような清々しさが、横顔には浮かんでいます。

「そこはやはり、劇団で鍛えられた精神力で……ひとつの作品に向き合う時、何度同じ役をやってもきっと何か新しいものが見つかるはずだと信じて、今できる最善のパフォーマンスを常に追い求めていく。それが、僕の使命なんじゃないかと思います。そもそも、役や作品は自分という存在よりもはるかに大きな、高い場所にあるものですから、正直、今回で完成までには到底行けないんじゃないかとも感じています。でも、できるかできないかは別として、自分の限界に挑戦することが禁じられていないという意味では……やはり楽しみでしかない、ですね」

今後はミュージカルの枠をも超えて、俳優としてシンガーとして、さらなる挑戦を重ねたいと、飯田さん。自分を超えていく大人の長い旅は、まだ始まったばかりです。

「実感の伴った芝居のできる役者でありたいし、作曲家の意図を捉えて伝えられる歌い手でもありたい。その総合した形が僕にとってのミュージカルで、きっちりと基礎力を備えて……でも、きっちりしすぎていると昨日も言われたばかりだった(笑)。正解って、いつ見つかるんでしょうね。果たして、死ぬまでに見つかるのか……でも、どんな作品に挑むときも、わからないまま、わからないなりに全力でやっていく。それがこの仕事の魅力なのだろうし、人生もきっと、そういうものなんじゃないかと思うんです」

PROFILE
飯田洋輔さん

いいだ・ようすけ/1984年福井県生まれ。東京藝術大学音楽学部声楽科在学中の2004年に劇団四季に入団。『ジーザス・クライスト=スーパースター』ジャポネスクバージョンで初舞台を踏み、『キャッツ』『オペラ座の怪人』『美女と野獣』『壁抜け男』などに出演。退団後はライブ、ディナーショーの開催や朗読劇への出演ほか活動の幅を広げる。ミュージカル『レ・ミゼラブル』は、2025年2月7日まで帝国劇場にて、その後、大阪、福岡、長野、北海道、群馬にて全国ツアー公演開催。

撮影/久富健太郎 スタイリング/田村和之 ヘアメイク/依田陽子 取材・文/大谷道子