警察官“ノルマ”のため12月に「交通違反取り締まり」強化する? 「やった・やってない」水掛け論になったときの対処法

12月は警察官が交通反則切符のノルマを達成するために取り締まりが多くなる――。このようなうわさを見聞きしたことがある人も少なくないかもしれない。

警察庁の資料「令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」によれば、昨年、特に検挙数の多かった違反は①一時不停止(126万7094件)、②最高速度違反(88万8500件)、③放置違反金納付命令件数(64万6973件)、④通行禁止(61万6174件)、⑤信号無視(42万8565件)だった。

取り締まりをめぐっては、警察官とドライバーの間で「やった・やってない」の水掛け論になりやすいが、もし身に覚えのない交通違反で呼び止められた場合、ドライバーはどのように対処すればよいのか。

「12月は取り締まり多い」うわさの真相は?

まず、「12月は警察官のノルマ達成のために取り締まりが多くなる」といううわさは本当なのか。元警察官のN氏は「ノルマというより、そもそも12月は交通事故が多くなるため取り締まりが強化される」と話す。

前出の警察庁資料を見ると、例年、交通事故死者数は12月がもっとも多くなっている。

月別死者数の推移(警察庁「令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より)

「人身事故はもちろんのこと、忘年会シーズンということもあり、飲酒運転への警戒も強化されます」(N氏)

「なぜここが通行禁止なのか」ゴネるドライバーに警察官は…

交通違反の取り締まりをめぐっては、警察官とドライバーの間で「やった・やってない」の水掛け論となることも少なくないだろう。取り締まりの“基準”について、N氏は次のように話す。

「たとえば信号無視なら、確実に赤信号に変わってから交差点に進入するなど、『相手が言い逃れできない状況』でなければ、基本的には取り締まりをしません」

ところが、確実に違反をしている状況であっても“ゴネる”ドライバーは珍しくないという。

「明らかに通行禁止の場所に入ってしまっていても、『なぜここが通行禁止になっているのか』『なんで曲がる前に言ってくれなかったんだ』など理不尽なことを言われるのは日常茶飯事です。

しかし、いくらゴネたからといって警察官が見逃すことはありませんし、運転免許証の提示を求めても応じることなく、説得にも応じない場合は、現行犯逮捕に踏み切る場合もあります」(同前)

なお判断が微妙なケースであっても、危険性を感じる場合は、事故防止のためにドライバーを呼び止めて「このあたりはスクールゾーンになっているので気をつけてください」など警告することはあるそうだ。

身に覚えのない場合の対処法

警察官が基本的に「確実な違反」と判断した場合にのみ取り締まりをするとして、もしドライバー側が身に覚えのなかった場合、どのように対処すればよいのだろうか。交通事故に詳しい伊藤雄亮弁護士は次のように説明する。

「まず、警察官に呼び止められたとしても、それ自体はあくまで任意の事情聴取であり、刑事訴訟法上、強制されるものではありません。だからといって逃げたり、怪しいと思われる行動をむやみにとるなどした場合は、マークされたり、逮捕されるなど不利益を被る可能性もあるでしょう」

もし「絶対に違反していない」と自信を持って言える場合は「基本的にはきちんと止まって対応し、潔白を強く主張することが穏当な対処法」(伊藤弁護士)だが、実務経験上、次のような場面に遭遇することも少なくないという。

「交通違反単体の争いが裁判にまで発展するケースはまれですが、たとえば交通事故の刑事訴訟や、過失割合を問う民事訴訟では、違反の有無について争われることがよくあります。

これらを見ていると、本人は『違反していない』と自信を持っていても、よくよく調べてみると実は違反していた…ということは珍しくありません。

交通違反においては、いくら主観的に『絶対にやっていない』と自信があっても、証拠を突き付けられたときにどこまで強く出られるかは、ケースバイケースなのではないかと思います。

ただし『袴田事件』に代表されるような、捜査機関の違法な取り調べによる冤罪事件は実際に発生しているので、捜査官の誘導に乗らないよう警戒することは大事です」(同前)

年末に向けてスケジュールにも気持ちにも余裕がなくなっている人は少なくないだろう。取り締まりを心配するよりも、まずは違反を疑われないような安全運転を心がけることが合理的なのかもしれない。