草花が紡ぐ食物連鎖と生命のリレー
じつは早春に咲く野花は、害虫対策にもとても重要。雑草扱いして抜いてしまうのはもったいありません。なぜなら、春を感じ冬の寒さから目覚めるのは草花だけでなく、虫などの小さな生き物たちも同じだからです。
こうして目覚めた生き物は、まだ食糧の少ない環境の中で生きていかなくてはなりません。早春に咲く野花には、貴重な蜜を求めて小さな虫たちがやってきます。その虫たちを糧にクモなどの捕食者が増え、その捕食者をさらに上位のトカゲやカエル、鳥などが食べて、生き物全体が食物連鎖により育まれていきます。
ここで重要なポイントは、年間を通して生き物が豊かに育つ環境を整えること。庭では夏にかけて徐々に害虫が増えてきますが、その前段階である冬の目覚めから春にかけて生まれてくる小さな生命を育むことで、春から夏にかけての害虫を抑制することができるのです。
害虫を抑制するために虫たちを育てるのは、一見矛盾するように思われるかもしれません。しかし多くの場合、この生き物たちを育む生命のリレー、食物連鎖のバランスが崩れているからこそ、害虫に悩まされるのです。
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1つの野花がもたらすたくさんの恩恵
カラスノエンドウの花と、カラスノエンドウに群がるアブラムシを食べるテントウムシの幼虫。
例えば、4月頃になると咲き始めるカラスノエンドウ。このカラスノエンドウに、たくさんのアブラムシが群がっている姿をよく目にします。
アブラムシが大好物のテントウムシは、カラスノエンドウに群がるアブラムシを食べて繁殖し、アブラムシが出す甘露が大好きなアリは、アブラムシの周りに集まり周辺の害虫を抑制したり、命を終えた生き物を食べて土に還したり、アリの巣を作ることで土の中に水と空気の通り道を作ったりと、植物が生育しやすい環境を整える大きな助けになります。
また、カラスノエンドウ自体にも甘い液を分泌する蜜腺があり、アリを惹きつけ防御をしていると考えられています。アリは蜜腺の甘い液を餌として利用する一方で、カラスノエンドウに付く害虫やその卵を排除する手助けをします。一方、カラスノエンドウの草の汁を吸うアブラムシですが、彼らもじつはカラスノエンドウの生育の手助けをしているのではないかと私は考えています。植物は、葉や茎、根の成長にエネルギーを使う「栄養成長」と、花や果実、種子の形成にエネルギーを集中させる「生殖成長」とに生育の段階が分かれています。そして、この生育の切り替えに昆虫の食害が影響を与える研究が多くあります。
カラスノエンドウを観察していると、あえて茎の成長をアブラムシに止めさせて、種子を作る準備をアブラムシに手伝わせているかのようです。真実は定かではありませんが、私にはカラスノエンドウがアブラムシやアリ、テントウムシに食事を与え、まるで自分で自分を育てているかのように見えます。食べる食べられるという関係の中で、お互いが助け合いながら住みやすい環境を整えているように感じられるのです。
結果的に、庭にカラスノエンドウがあることで、アブラムシを食べるテントウムシを増やし、庭や菜園を守り土壌を豊かにするアリを呼び込むことができます。バラを育てている私は実際に、5月のバラが咲く前、4月の段階でカラスノエンドウを活用してテントウムシやアリを増やすことで、害虫対策をしています。季節ごとの現象は決して独立したものではなく、連鎖的に繋がっていくため、自然の流れや繋がりを分断せず好循環させることで、自ずと害虫は減っていきます。1つの事柄の背景には、まるで織り糸のようにさまざまな生き物や環境要因が折り重なっています。そして、庭や菜園をどのように織り上げるかは、私たち次第。自然を排除するのではなく、自然と共生する庭づくりや家庭菜園は、私たちに多くの恵みを与えてくれます。労力削減になるのはもちろん、心の面でもゆとりができ、感謝の気持ちを持って自然をじっくり味わうことができるようになります。
ホトケノザの花に乗る小さなアリ。
カラスノエンドウのような野草は、小さな虫たちと共生しているため、虫たちに合わせた小さな素朴な花を咲かせるものが多いです。園芸品種のような華やかな見た目ではなくても、野花や雑草には食物連鎖を支える大きな役目があるのです。見た目や雑草という先入観に囚われ、野の草花が持つこうした役割に気付かずにいるのは、とてももったいないこと。改めて自然の持つ可能性と豊かさに目を向けることで、新たな発見や気づきが得られることでしょう。