退職すると、職場の社会保険制度から脱退して新たに加入手続きをする必要がありますが、社会保険のうち健康保険は、これまで通り加入し続けることもできます。
今回は、退職時に選べる任意継続とはどういうものか、保険料はどう変わるのかを紹介。さらに、国民健康保険とどっちがいいのか、メリットやデメリット、保険料を比較していきます。
任意継続とは
日本の健康保険制度は国民皆保険制度のため、何らかの形で公的医療保険への加入が義務付けられています。退職後に加入する健康保険は、その後の立場や状況によって、いくつかの選択肢が考えられます。そのひとつが任意継続です。任意継続とは、退職前まで加入していた健康保険に退職後も継続して加入することです。それ以外の選択肢と合わせて詳しく見ていきましょう。
退職後は、次のような選択肢が考えられます。
転職先の健康保険に加入する
加入していた健康保険を任意継続する
国民健康保険に加入する
家族が加入している健康保険の扶養に入る
の「転職先の健康保険に加入する」というのは、退職してすぐに転職先で働くことが決まっているケースです。こういった場合は、すぐに次の職場で社会保険の手続きをして健康保険に加入することができます。それ以外の場合は、~から選択しなければなりません。
まずはの「家族が加入している健康保険の扶養に入る」を検討してみると良いでしょう。会社勤めをしている家族の健康保険に被扶養者として加入しても保険料は掛からないのでお得です。ただし、扶養に入るためには、今後の年収見込みが130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)かつ、家族である被保険者の収入の2分の1以下である必要があります。
退職して失業中なら130万円未満はクリアできそうですが、ここで注意しておきたいのは、失業手当を受け取る場合です。失業手当も収入と見なされることから、日額3611円を超える手当を受け取る場合は、1年間に換算して130万円超となると見なされ扶養に入れません。
その場合、今回のテーマである「加入していた健康保険を任意継続する」または、「国民健康保険に加入する」という選択肢になります。
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任意継続の期間や保険料はいくらか
任意継続は最大2年間加入でき、好きな時に脱退できます。ただ、退職の翌日から20日以内に申し出る必要があり一度脱退すると、再び入ることはできません。なお、国民健康保険は14日以内に手続きを行う必要があります。
話が少し外れますが、実は、2022年9月末までは、一度任意継続をすると、転職するなどの理由がない限り、2年間は脱退できないのが原則でした。また、任意継続で納める月々の保険料は2年間同額と決まっています。そこで悩ましいのは、国民健康保険の保険料との差です。
国民健康保険料は、前年の所得によって判定されます。そのため、1年目は仕事をしていた時の所得をもとに決まった保険料を払わねばなりません。しかし退職後は仕事をしない、または、アルバイト程度という場合、2年目の保険料は1年目よりずいぶん安くなります。ですので、1年目に任意継続で加入し、2年目は国民健康保険に切り替えたいと思っても仕組み上できませんでした。
ただ、裏技として、任意継続は保険料の滞納があると脱退しなければならないため、あえて保険料を支払わず脱退となり、その後、国民健康保険に加入するケースが見受けられていた実情がありました。そういった背景もあり、2022年10月から自分が好きなタイミングで脱退できるよう改正されました。今は、任意継続の加入期間中に、国民健康保険に切り替えたい時はいつでも届け出できるようになっています。
次に、任意継続の保険料について見ていきましょう。
給与所得者が加入する健康保険には、いくつかの種類があります。多くの方が加入しているのは全国健康保険協会(協会けんぽ)です。その他に、大企業が独自に運営している健康保険組合や、公務員の共済組合があります。今回は、協会けんぽについて見ていくことにしましょう。
任意継続の保険料は、退職時の収入(標準報酬月額)を基に保険料率を乗じて計算します。保険料率は、都道府県ごとに定められており40歳以上は介護保険料も加わることから保険料率が上がります。居住地が福岡県の場合を例に見ていくことにしましょう。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額(令和6年4月~)
(福岡県)
例えば、標準報酬月額が20万円(年収240万円)の場合、40歳未満は、介護保険料の加入対象ではないため図表にある10.35%が保険料率です。これを基に計算すると、
(標準報酬月額)20万円×(保険料率)10.35%=(保険料)20,700円
つまり、毎月の保険料は、20,700円ということになります。40歳以上の計算も同様です。介護保険料が加わるため保険料率は11.95%で、
(標準報酬月額)20万円×(保険料率)11.95%=(保険料)23,900円
毎月の保険料は一覧表のとおり、23,900円です。
なお、協会けんぽでは、退職時の標準報酬月額が30万円超の場合でも任意継続の時には30万円として計算するようになっています。そのため、高収入の人は、任意継続で全額自己負担となっても、標準報酬月額が大きく下がることによって今までより保険料が安くなるケースもあります。