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国内のコンビニエンスストア大手に対し、いわゆる「ステルス値上げ」を実施しているとの批判が強まっている。弁当を上げ底にして同一価格のまま内容量を減らしたり、サンドイッチを開いてみれば断面より具材が少なかったりと、内容が消費者の期待に見合っていない商品がソーシャルメディアで多く指摘されている。
ステルス値上げは国内だけでなく、インフレが進む欧米でも同様の傾向にあるようだ。世界で広がるステルス値上げに対し、国によっては規制の動きも出始めた。
◆アメリカでは3つに1つの商品がステルス値上げ
ステルス値上げは英語圏において、俗に「シュリンクフレーション(shrinkflation)」と呼ばれる。「縮む(shrink)」と「インフレーション(inflation)」を掛け合わせた造語だ。企業が商品の価格を据え置きながら内容量を減らすことで実質的な値上げを行う商慣行を指す。
米大手オンライン融資仲介プラットフォームのレンディング・ツリーが2019年と2020年から2024年にかけて、アメリカで販売されている約100商品を分析したところ、およそ3分の1の商品の内容量が減らされていることが判明した。最も減少率が大きかったのは、家庭用の紙製品だったという。
トイレットペーパーやペーパータオルなど、20品目の家庭用製品のうち12品目(60.0%)で入り枚数が減少した。特にエンジェル・ソフトと呼ばれるブランドのトイレットペーパー「12メガロール」は、2019年の1ロール429枚から、2024年には320枚へと25.4%減少し、調査対象中で最大の減少率となっていた。
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食品では、分析対象の16品目の朝食用食品のうち、7品目(43.8%)が小型化していた。ファミリーサイズのフロステッドフレークは24.0オンスから21.7オンスへと9.6%減少し、1オンス(約28グラム)あたりの価格は40.0%上昇した。
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◆韓国やオーストラリアでも
韓国の消費者の間でも、ステルス値上げへの不満が高まっている。韓国政府が昨年末に1ヶ月間を費やして実施した調査では、チーズやビール、牛乳など9品目37製品で、価格据え置きのまま量や大きさが縮小していたことが確認された。
韓国の聯合ニュースは、「高いインフレ率のなか、企業が生産コストの上昇分を消費者に転嫁している」ことに対し、「国民の不満が高まっている」と指摘する。
オーストラリアでも社会問題化した。豪公共放送ABCによると、消費者グループ「チョイス」は、コーレス社の朝食シリアル「マイティー・グレイン」が4.50豪ドル(約440円)の価格を保持しつつ、内容量が65グラムも減少していると指摘した。他社のシリアル製品も同様に内容量が削減されていることが判明している。
Easter treats, breakfast staples and cleaning products are among the latest to get smaller and more expensive. Read more: https://t.co/pxxSMnRLvj pic.twitter.com/EXa9uZxDb8
— CHOICE (@choiceaustralia) March 20, 2024
もちろん、消費者が気づかないわけではない。レンディング・ツリーの調査によると、アメリカで過去1年間に少なくとも1回のステルス値上げを経験または認識した消費者は71%に上る。また、57%は複数回の経験があると回答している。
年齢層別では、ベビーブーマー世代(60~78歳)が70%と最も高く、Z世代(18~27歳)の48%、ミレニアル世代(28~43歳)の54%を大きく上回った。年収別では、10万ドル以上の層が68%と最も高く、3万ドル未満の層は47%と最も低かった。
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◆募る不満……「購入をやめる」と答えた購入者も
レンディング・ツリーは、ステルス値上げに気づいた消費者の82%が「欺かれた」と感じており、66%がそうした商品の購入を中止していると報じている。
特にZ世代は80%が購入を中止したと回答し、世代別で最も高い割合となった。ミレニアル世代も73%が購入を中止している。
実質的な値上げ自体はやむを得ないとしても、企業は消費者に対し、その事実を率直に伝えるべきだろう。同記事によると、アメリカの消費者の90%は、企業が商品のサイズや量を減らす際は明確な表示をすべきだと考えており、66%は変更の程度に関係なく表示を義務付けるべきだと回答している。
一方、企業側は実質値上げの手段を巧妙化している。イギリスでは、内容量をキープしながら質を下げるという、新たなタイプのステルス値上げが確認された。同国のガーディアン紙には読者から、パンに塗るスプレッド商品について、以前は21%含まれていたオリーブオイルが10%に削減されていた、との声が寄せられた。
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◆「ステルス値上げは詐欺」フランスが乗り出した対策
消費者は「欺かれた」まま終わるのか。フランスでは小売店を対象に、ステルス値上げを行った商品に明確な注意文を表示する規制が導入された。
ユーロ・ニュースによると、小売店は7月1日から、商品の内容量が減少しているにもかかわらず価格が据え置きまたは値上げされている商品に対し、目立つ形でラベルを表示しなければならなくなった。
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違反した場合、店舗管理者個人に対して最大3000ユーロ(約49万円)、法人に対して最大1万5000ユーロ(約240万円)の罰金が科される。ごく小規模な店舗や量り売りは対象外となる。
フランスのブルーノ・ルメール経済・財務相(当時)は「シュリンクフレーションは詐欺」と明言。「我々はこれを終わらせる。消費者の信頼を取り戻したい。信頼は透明性と表裏一体」と加えた。
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◆規制は韓国でも
韓国政府も対策に乗り出した。聯合ニュースによると、韓国の公正取引委員会は、牛乳、コーヒー、即席麺、トイレットペーパー、シャンプーなどの日用品メーカーに対し、値下げを伴わない製品の内容量削減を行う場合、消費者に通知することを義務付ける。
ステルス値上げを行う企業は、量目を変更した日から起算して3ヶ月間、製品パッケージ、店舗、またはウェブサイトにおいて、ステルス値上げを行った事実を告知しなければならない。
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違反した企業には、初回で500万ウォン(約54万円)、2回目になると1000万ウォン(約110万円)の罰金が科される。新規制は猶予期間を経て、8月3日から施行された。
韓国公正取引委員会の担当者は、「消費者とメーカー間の情報の非対称性を解消し、より良い取引文化の醸成につながる」と述べている。
実質値上げはやむを得ないにせよ、消費者からの長期的な信頼を勝ち取るため、企業は内容量削減の事実を公表するのが賢明と言えるだろう。
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