「全身に入れ墨を入れた」21歳女性が語った過去。“オール5”生徒会長の学生時代、少年刑務所…親との関係も告白――仰天ニュース傑作選

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 その女性は深々と、「本日はよろしくお願いします」と頭を下げた。スレンダーな肢体に黒髪のロング。清潔感があり、凛としている。多くの人が好感を抱くであろう容姿と態度に、いささかの違和感もない。ノースリーブから伸びた二の腕に、びっしりと刻まれた入れ墨を除いては。

 乙葉さん、21歳。現在は“和彫りのおねえさん”としてSNSを中心に発信しながら飲食店などでアルバイトをしている。

 二の腕だけでなく背中から臀部にかけても隙間なく墨が入っており、その整った容姿も相まってSNSで注目されている人物だ。彼女はなぜここまで広範囲にわたる入れ墨を施したのか。掘り下げていくと、意外な過去にその端緒を見つけた。

◆整形費用は「トータルで500万円」

 ここまであけすけな女性も珍しい。若さからくる万能感ではなく、さまざまな経験を経て自分なりに咀嚼したうえで、自己開示をしているようだ。たとえばこんなふうに。

「私、整形しているんですよ。トータルで500万円くらいかけたと思います。最初は高校時代、目を二重にしました。連休を使って、親には外泊をすると言って(笑)。それから高卒後、鼻、目、眉毛にアートメイクをして、二の腕の脂肪吸引もしましたし、豊胸手術もしましたね」

 なぜ整形をしたのだろうか。そこには親との関係性がみえてきた。

「比較的遅くに産まれた娘だったからか、両親や周囲の大人たちから溺愛されて育ちました。当時は親の愛情がとてもありがたかった反面、『可愛い』『モデルになれる』という言葉を真に受けて、『何とか期待に応えなきゃ』というのがありました。自分が可愛いと信じて疑わなかった時期もあったんです。でも、整形前の写真を見てもらえれば分かる通り、私って別にそこまでのレベルじゃないんですよね(笑)。期待されているからこそ、どうしても“可愛い私”でいなければいけない。そのジレンマに悩んでいました」

◆顔に対するコンプレックスより大きかったのは…

 しかし、どうしても顔面すべてを作り変えなければいけないほど元の顔が嫌だったわけではないと乙葉さんは話す。

「多少のコンプレックスはありましたよ。でも、眉毛が生えにくい、疲れたら二重まぶたが三重になってしまう、顎関節症でエラも張っている、正面から見ると鼻がボテっとしている……という、凡庸なものです。それよりも大きな悩みは、やはり親の期待に応えないといけないのではないかという、自分が勝手に抱えた使命感だったんですよね」

◆成績は「オール5」で生徒会長も

 人は見かけによらずとは言うが、乙葉さんもご多分に漏れずその例に当てはまる。学生時代はいわゆる優等生だ。しかも単に勉強が得意なだけではなく、他の人を巻き込んで前例を打ち破る機転もある。

「小学校、中学校時代の成績はオール5でした。中学校では生徒会長をやって、高校は学費免除の特待生で入学しました。中学時代、生徒会長として校内のスローガンを決めたときのことは今でも思い出深いです。これまでは『切磋琢磨』とか『質実剛健』みたいな誰でもわかりやすい標語が選ばれていて、『ありきたりだな』と思っていました。私が提案したスローガンは『料理』で、みんな『は?』となっていました(笑)。私が言いたかったのは、料理にはいろいろな食材が必要で、それぞれが違う味(個性)を出して1つになろう、という意味で。説明すると、みんなが『奇抜だし、納得できる』と喜んでくれて、決定しました。たぶん、これまでで最も異色なスローガンだったと思います」

◆入れ墨を入れるきっかけは「外国の少年刑務所」

 だがやはり、学生時代の卓抜した成績も、親からの期待に応えようと頑張った結果にほかならない。

「当時の私ですら容易にわかるほど、過保護に育てられました。常に車で送り迎え、学校に行く荷物のチェックや宿題など、何度も何度も親の方が熱心にやっていたくらいです。今では、親が『小さい時に全部やってあげちゃってたからごめんね』と謝ってくるほど、私ひとりでは何にもできないくなっちゃったんですよね。だから、勉強をやらないなんて論外。整形や入れ墨なんて、勘当ものだと言って聞かされていました」

 だが乙葉さんは勘当に値するはずの整形や入れ墨などをフルコンプリートした。その真意はこんなところにある。

「入れ墨を入れるきっかけになったのは、去年のできごとです。ある国に遊びに行って、その先でスリに遭い、帰りの運賃も失いました。仕方なく現地のキャバクラで働いていたところ、不法就労で少年刑務所に行くことになったのです。そこで一緒になった子たちのほとんどに入れ墨があるの見て、今回の戒めとして入れ墨を入れようと決めたんです。

 けれども、もっと根本的なことをいえば、親との距離を取りたかったのかもしれません。明らかに干渉が過ぎる親に、どうしても期待に応えようとしてしまう私――その構図から逃れて、親を嫌いにならないために、私のことを諦めてもらう意味で入れた部分もあります。親は先生のような感じで、優しいけど常に一定の緊張感がありました。本気で喧嘩できるようになったのは、ここ1年くらいです。反抗することで、無理やりにでも私という人間を理解してもらえたことは、よかったなと思います」

◆自分の子どもに「入れ墨を入れたい」と言われたら

 とはいえ、乙葉さんは自身の選択を「後悔していない」と話す。

「入れ墨の入った人は周囲にたくさんいますが、その多くは普通の社会人としては生きていけないことを十分に理解し、覚悟しています。逃げ場を自らなくして生きているので、言葉に重みを感じるし、単純に話していて面白いんです。私も同じく、将来後悔するような人生を送らない覚悟を持っています」

 将来は「旦那はいなかったとしても、子どもは欲しい」とする乙葉さんだが、自分の子どもが入れ墨を入れたい、あるいは整形したいと訴えた場合、どのように振る舞うのか。

「生半可な覚悟では勧められません。ただ、私の子なら偏見に苦しむ私の姿を見てきているでしょうし、それをわかったうえで希望すると思うので、気持ちは嬉しいなと感じます。現実的な話をすると、整形や入れ墨によって心が前向きになれるのであれば、背中を押してあげられるように資金面での援助をするでしょうね。整形に関しては100%成功するわけではないし、メンテナンスの費用もかかりますから、そうしたことも含めて本当にしたいかどうか、問いかけるんじゃないですかね。整形も入れ墨も、本来不必要な身体への侵襲であり、ネガティブなイメージで語られがちですが、前向きになれる魔法をかけるものだと私は思っています」

 事情がわからなければ人は後ろ指をさすかもしれないが、整形や入れ墨はその人がどれだけ傷ついたかの外見的表出なのかもしれない。弱冠21歳で自らを俯瞰し、同じく迷える人たちの癒やしとなるため、乙葉さんは自らの経験を糧にさらなる飛躍を誓う。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】

ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki