「生活保護世帯の子」も“大学”へ行けて「バイト」もできる…近年充実した「公的サポート」の中身とは【行政書士解説】

「貧困」が深刻な社会問題としてクローズアップされるようになって久しい。経済格差が拡大し、雇用をはじめ、社会生活のさまざまな局面で「自己責任」が強く求められるようになってきている中、誰もが、ある日突然、貧困状態に陥る可能性があるといっても過言ではない。そんな中、最大かつ最後の「命綱」として機能しているのが「生活保護」の制度である。

しかし、生活保護については本来受給すべき人が受給できていない実態も見受けられる。また、「ナマポ」と揶揄されたり、現実にはごくわずかな「悪質な」不正受給がことさら強調されたりするなど、誤解や偏見も根強い。本連載では、これまで全国で1万件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏に、生活保護に関する正確な知識を、実例も交えながら解説してもらう。

第5回は、生活保護を受けている世帯の子が大学等に通うために、経済面で公的サポートを受けられる制度の内容を紹介する。決して「成績優秀者」でなくても、大学等で学べる道は開かれている。三木氏は、そのようなサポートの制度があることによって、生活保護の状態を抜け出し、自立して生きていくことができるようになるのだということを、多くの人に知って欲しいと語る。(全8回)

※この記事は三木ひとみ氏の著書『わたし生活保護を受けられますか 2024年改訂版』ペンコム)から一部抜粋し、構成しています。

※【第4回】DV男から逃げた19歳女性、“所持金数百円”で「生活保護」申請も…社会復帰への「一歩」を踏み出すまでに味わった「困難」とは【行政書士解説】

「生活保護を受けながら」大学に通うことはできないが…

現在の生活保護制度では、生活保護を受けながら大学に通うことはできませんが、生活保護制度上の「世帯分離」をした上で、生活保護を受けている家族と一緒に住みながら大学に通うことは可能です。

この場合、本人は生活保護を受けられません。しかし、住宅費は家族と同居ならかかりませんし、後述するように、大学の授業料等の減免を受け、自身の生活費は奨学金制度を活用すれば、勉学に集中することができます。

「うちは生活保護だから……」と、夢をあきらめることのないように、皆さんの学びを応援する制度があるのです。

厚生労働省も、生活保護世帯の中学生・高校生向けに、進路支援に関する情報を分かりやすく紹介したパンフレット「〇カツ! あなたの〇カツ応援します」を公開しています(「〇カツ!」でインターネット検索すれば出てきます)。

生活保護世帯の中高生向けパンフレット「〇カツ!」の表紙(出典:厚生労働省HP)

なお、生活保護を抜けた場合のデメリットとして、医療費が無償でなくなることが挙げられます。しかし、一時的に大学生が病気やけがで多額の医療費がかかるような事態になれば、休学して生活保護を受けることも考えられます。

“成績優秀”でなくても利用できる「返済不要の奨学金」も

近年、国の施策が充実してきており、学生が勉強する時間を確保できるように、大学の授業料が免除または減額され、さらに生活に必要なお金を受け取ることもできます。

まず、住民税非課税世帯の場合、授業料の減免については、私立大学であれば入学金は約26万円、授業料は年間約70万円まで受けられます。国立大学は入学金約28万円、授業料は約54万円が上限です。

行政書士 三木ひとみ氏(本人提供)

次に、生活費をまかなう手段として、経済的理由で大学や専門学校への進学の道をあきらめなくてすむように、返済不要の給付型奨学金制度が設けられています。

この奨学金は、成績だけで判断されず、世帯収入の基準を満たし、学ぶ意欲があれば受けられます。世帯収入の基準は、生活保護世帯であれば間違いなく満たしています。国公立大学だけでなく、私立大学にも通えます。

給付型奨学金によって、学生の生活費として、家族と同居している場合は国公立:月3万3300円・私立:4万2500円、1人暮らし等自宅外通学の場合は国公立:月6万6700円・私立:7万5800円が支給されます。

さらに、足りない場合にアルバイトをしても、生活保護を受けていないわけですから、高校生のときのように、たくさん稼いでも世帯の生活保護費が減額されることもありません。

加えて、従来の貸与型奨学金も併用できます。

毎日の生活費の心配をしたり、多額のお金を借りたりすることなく、勉学に集中することができるようになったのです。

生活困窮世帯であれば、成績にかかわらず給付型奨学金を受けることができ、授業料だけでなく生活費も付与されることを考えると、実質的には、生活保護を受けながら大学に通うのと同じようなことが可能になったと言えるのではないでしょうか。

生活保護を抜け、未来を切り拓くきっかけに

生活保護を抜け、代わりに手厚い給付型奨学金を受けることで、私は、状況が好転し、未来を切り拓くきっかけになる可能性があると考えています。

というのも、生活保護を受けている状態では、家庭訪問を受けたり、資産収入申告の義務を負ったりします。定期的に家庭訪問を受けて、自立を促され、生活保護の原資が税金であるという話を聞く…健康な若者であれば、プライドが傷つくことがあるかもしれません。

しかし、生活保護を抜ければ、アルバイト収入の申告や、家庭訪問を受ける義務などから解放されることになります。

また、生活保護費ではなく奨学金であれば、気の持ちようが違うのではないでしょうか。

2024年に新設された「進学・就職準備給付金」も

最後に、生活保護世帯の人が大学等に進学、就職する場合に支給を受けられる「進学・就職準備給付金」についても説明しておきましょう。

2024(令和6)年4月24日に、生活保護関連法令の一部が改正され創設された給付金です。高校卒業後に進学する子も、就職する子も、どちらも公平に支援する仕組みに改正されました。内容は以下の通りです。

【支給対象】
大学、短大、各種専門学校等に進学する人、そして就職して、最低限度の生活を維持するために必要な収入を得られる安定した職業に就く予定の人

【支給額】
・生活保護受給の家族と同居して通学、通勤する場合⇒10万円
・進学・就職のために、転居する場合⇒30万円

申請を行うことができるタイミングは、合格、または内定後に入学、入社等の手続きを開始してからですが、ケースワーカーへの相談は、できるだけ早めにしましょう。

進学先が大学や短大以外の各種学校の場合は、支給対象外の場合もあります。ケースワーカーに早めに相談して、確実に申請、受給できるように進めることが大切です。

勉学に励み、自らの努力で将来を切り拓いていくことは、日本では、だれにでも平等に当然にそこにある、自由・権利です。

ここまで紹介してきたように、今はとても充実した制度があります。多くの生活保護世帯のお子さんとご家族が、この制度を知り、活用してほしいと願っています。