「紀州のドン・ファン」として知られた和歌山県の資産家・野崎幸助氏。その突然の死をめぐっては殺人の疑いももたれ、元妻の裁判が行われたが、12月12日和歌山地裁は無罪判決を言い渡した。本記事では、外から見えるドン・ファンと元妻の華やかな結婚生活の裏で何が起きていたのか、野崎家の元家政婦が回想する。
今回は、野崎氏の死の当日、そして「怒号が飛び交った」葬儀で実際は何が起きていたのかに迫る(第4回/全5回)。
※ この記事は「紀州のドン・ファン」の家政婦・木下純代氏による著作『家政婦は見た! 紀州のドン・ファンと妻と7人のパパ活女子』(双葉社、2021年)より一部抜粋・構成。
うどんとキュウリとニンジン ドン・ファン「最後の晩餐」
ドン・ファンが亡くなった日、私はお昼にうどんを作って自分で食べました。まあまあおいしく作れたので、ドン・ファンが気が向いたらいつでも食べられるようにと彼の分も準備しておいたのです。
午後3時にドン・ファン宅から離れるときに「よかったら温めて食べてください」と、うどんの鍋の横にメモを書いて、置いていきました。内容は以下です(原文ママ)。
〈ごめんなさいね。うどんを鍋に入れて煮込んでくださいね。 あまり美味しくないかも…? すみません。人集めの確認行きます。(ドン・ファンが亡くなる18日前に亡くなった愛犬・イブちゃんのお葬式の件)〉
ところが、後日、警察から聞いたところでは、私には本当のところは分かりませんが……、どうやらドン・ファンの妻であるサエちゃん(仮名)だけが私の作ったうどんを食べ、ドン・ファンは、うどんは口にしていなかったそうです。
しかし、このうどんのせいで、私に警察から、あらぬ嫌疑がかけられました。おなかが減った人のために、好意で簡単な食事を準備しておいただけなのに、私がこのうどんに覚醒剤を盛って、ドン・ファンを死なせたという疑いです。
私がそんなことをするわけがありません。ドン・ファンが亡くなったからといって遺産を相続できる身ではありませんし、家政婦の仕事がなくなれば日当をもらえなくなってしまいます。殺人を犯す理由なんてまったくないのです。
それにうどんに覚醒剤を盛ったのであれば、ドン・ファンではなくサエちゃんが死んでいたはずです……。
ところが、警察に聞いたところによると、亡くなったドン・ファンを司法解剖したところ、胃からニンジンとキュウリが出てきたというのです。この話には、まったく訳が分からず正直、驚かされました。しかしその情報をもとに、捜査員が私に「うどんにニンジンやキュウリを入れましたか?」と質問してくるのです。
「いえ、うどんにはニンジンもキュウリも入れてませんよ。そんなものは絶対具材には使いません」
言下に否定しました。私が用意していったうどんを口にせず、なぜドン・ファンはニンジンやキュウリを食べたのか? 野菜はどこで買ってきたのか? あるいは私が外出している間に外のお店で食事をしたのか? その野菜の中に覚醒剤が仕込まれていたのか? 謎は深まるばかりで、私にはまるで何も分からないのです。
葬式にiPadを持ってきた若妻
次にドン・ファンのお葬式について、少し記したいと思います。家族が亡くなったときには、残された遺族は寝ずの番をして一晩中お線香の火を絶やさないものです。それが妻の当然の務めなのに、今でも忘れられませんが、サエちゃんはお線香を一生懸命焚くような様子はあまりなく、うなだれていたのかもしれませんが、寝ているようにも少し見えました。
20歳そこそこで結婚したサエちゃんには、まだ社会常識が完全には備わっていなかったのかもしれません。北海道の札幌出身ですから、田辺の田舎で当たり前とされている作法も知らないのは致し方ないかもしれません。しかし、そんな彼女が喪主を務めたものですから、私が横について「次はこうやるのよ」と手取り足取り指図しなければ、まったく何もできませんでした。
小声で教えてあげなければ「皆さま、本日はご列席いただきありがとうございます」の一言すら言えないのです。
ゴニョゴニョ小さい声でしゃべるサエちゃんに向かって、「もっとデカい声出せーっ!」と怒鳴るドン・ファンの親戚筋もいました。壮絶な現場です。
ドン・ファンのお葬式の席では、信じられない光景がありました。サエちゃんはお葬式なのにiPadを持ってきて、退屈そうにタブレットの画面を時折見ているのです。これには驚きました。
日頃からご飯を作ることもほとんどなく、家事を手伝おうとする素振りすら見せません。そんな愛が冷めた若妻であっても、夫が亡くなったときくらいは、しおらしく振る舞うものではないでしょうか。サエちゃんは「葬式ウザい」と言わんばかりに、iPadでSNSだかゲームだかをいじって、暇つぶしをしているようにも見えました。
パパ活を経て、1カ月100万円のお小遣いが欲しくて結婚……。結婚後はセックスレスで、夫をまともに相手にもしない。愛情がなかったとしても、実の夫が亡くなったのですから、死を悼んで喪に服すのが普通ではないでしょうか。サエちゃんの不可解な行動は、私にはまったく理解不能でした。
※編集部注
報道によれば、元妻の裁判には野崎氏が経営していた会社の元従業員らが出廷し「(元妻は葬儀で)スマホをいじっていた」などと証言したが、元妻は「葬儀中は(スマホを)いじっていません」と否定したという。