薬の処方は病気に対する基本的な治療方法のひとつです。しかし、医師の服薬指示は絶対ではないし、たくさんの薬を出す医師には注意すべきと話すのは医師の和田秀樹氏です。今回は和田氏の著書『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)から、シニアが薬を飲む時の考え方についてご紹介します。

薬を自己判断でやめていいケースとは

何かしらの薬を飲んで具合が悪くなり、服用をやめようかというときは、いちいち医者に相談などすることなく、自己判断でやめてしまってかまいません。医者に言われるままに薬を飲んでいたのでは、薬漬けになってしまいます。医者の言う「体にいいこと」は、免疫に悪いことばかりと思ってもいいくらいです。

医療が高度化したことによって検査の数値ばかりが重要視されるようになり、数値に異常があれば正常に戻すために、多くの医者はすぐに薬を出すようになりました。治療のためというよりも、数値を下げるためだけに薬を出しているのです。

生命にかかわるような病気を持っている人であれば、「この薬をやめたらまずいですか?」と医者に確認することは必要です。しかし、予防薬の類であれば、飲んで体調を崩したときに「あの薬を飲んでいると調子が悪いから、飲むのをやめました」と言えば、医者も「それでかまいません」と言うか、「代わりにこちらの薬を出しましょう」となるはずです。

しかし、患者の体質に合わない薬を続けさせる医者もかなりいるため、そのときに我慢して医者に不調のことを伝えないでいると、「血圧が正常になっているから続けましょう」などと言われて飲み続けることになってしまいます。

そもそも自分が処方した薬を「調子がよかったので飲まなかった」と言ったときに怒るような医者は、そうとうおかしな医者ですから、二度と行かないようにしてください。我慢して通ってまで気に入らない医者とつき合う必要はありません。

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たくさんの薬を処方するのは、医師が儲けたいからではない

一方で、普段から高齢者の集まっている病院もあります。そういったところには患者の話をよく聞いてくれて、相談しやすい医者が少なからずいるものです。

「待合室が高齢者のサロン化している」「保険料のムダ遣いだ」などと批判されることもしばしばありますが、高齢者にとって快適で健康にもいい病院だからこそ、多くの人が集まるというのも事実なのです。高齢者にとっての理想は、薬への不満をしっかりと受け止めてくれる医者と出会うことです。

「飲むと調子が悪くなります」と訴えたときに、「少し減らして様子を見ましょう」と臨機応変に対応してくれるなど、話しやすく、会うと気持ちが楽になる相性のいいかかりつけ医を見つけたいものです。

ちなみに、薬の過剰投与がなぜ起きるのかというと、これは病院が儲けたくてやっているわけではありません。処方する薬が3種類から5種類になったところで、病院や医院の収入はまったく変わりません。

では、なぜたくさんの薬を処方するのでしょうか。

医者が総合診療としての教育をまともに受けていないためです。『今日の治療指針』という医者向けのマニュアル本があるのですが、そこに書かれている標準治療薬を診断名に合わせてそのまま処方しているため、薬がどんどん増えてしまうのです。

つまり、やたらと薬を処方するのは、臨床医としての未熟さの表れとも言えます。

和田 秀樹

国際医療福祉大学 教授
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表
一橋大学国際公共政策大学院 特任教授
川崎幸病院精神科 顧問