腰痛、夫婦関係の悩み……月1回、1時間以上かけて従業員の話を聞くワケ

では、従業員のマインド向上のために、仕組みとしてどんなことをすればよいのでしょうか? 当社では「個人面談」に力を入れています。

一般的に介護業界では、なにか問題が起きたときにはじめて面談の場を設けることが多いようですが、その時点では手遅れになっている可能性が高いです。離職の相談を受けた場合、そこから説得するのは難しいでしょう。また、面談担当者の主観で判断すると、評価にバラつきが出て、「問題ない」と判断された従業員が突然、離職してしまう事態も起こり得ます。

そのため当社では、月に一度、従業員満足度を数値化できるツール(組織サーベイ)を用いて個人面談を実施しています。従業員には、スマホで回答できる選択式のアンケートに答えてもらい、たとえば「メンタル」の数値が低い人には、各事業所の管理者や上司が1時間、ときには2〜3時間かけて話を聞くのです。このとき、仕事のことのみならず、プライベートの悩みもじっくりと聞いていきます。

すると、「腰痛がつらい」「子育てや夫婦関係に悩んでいる」……など、従業員それぞれの悩みが見えてきます。プライベートの悩みは会社が解決することはできませんが、早期にガス抜きをしてあげることで、離職につながりにくいと考えています。

実は過去に、当社も離職の増加に悩んだ時期がありました。個人面談自体は創業時から実施しており、当時は私自身が面談を担当していたものの、事業が拡大するにつれて手が回らなくなり、各事業所の管理者に協力を仰ぐようになりました。ところが管理者も多忙なため、個人面談の回数自体が減ってしまいました。すると、離職が徐々に増えていったのです。

そうした状況に危機感を感じて、現在は月に一度のアンケートのほか、半年に一度、より深い匿名での調査を事業所ごとに行なっています。その結果、同ツールを導入している約2,000社のうち、当社の従業員満足度は上位24%に入ると報告を受けました。なかでも「組織との関係(人間関係)」という項目は、最高で80点、全体でも70点と高水準のスコアを示し、介護・医療業界の数百社のうち上位に属しています。

ここまで、介護業界が抱える課題とその解決策を述べてきましたが、幸いにも介護業界は、立地や価格、流行に左右されません。デイサービスであれば送迎サービスがあるため立地を選ばないうえ、介護報酬は国が定めるため価格競争もありません。だからこそ、介護は「人」がすべてだと私は思うのです。従業員満足度を高めることが利用者の満足につながり、売り上げも利益も向上します。

先述のように、介護業界には売上高に天井があり大幅な増収は見込めないため、コストを極力下げるには、少数精鋭の体制を取るしかありません。そして、少数精鋭にすることで、人手不足にも対応できます。

このようにして利益を上げる介護事業者が増えれば、社会保障費の抑制にも、介護業界の人手不足解消につながります。人と組織文化づくりに投資し、生産性を向上させることが、介護業界の2つの課題を同時に解決する糸口となるのです。
 

臼井 宏太郎

HTC株式会社 代表取締役