「子どもたちにもう1人保育士を!全国保護者実行委員会」と「子どもたちにもう1人保育士を!全国実行委員会」が12月23日、都内で会見を開いた。
両団体は、今年10月に子ども家庭庁が発表した保育現場に関する調査結果と、両団体が独自に実施し、今年6月に発表した「保育士配置基準等についての自治体アンケート」の集計結果に乖離(かいり)が生じていると発表。
会見に参加した全国保護者実行委員会の岩狹匡志(いわさ ただし)さんは、適切な実態調査の実施を求めるとともに、保育士のさらなる配置改善を訴えた。
「国は、基本的な保育政策について、保育の利用拡大から、質の高い保育の確保、充実に向け、方針転換を図っていくと言ってきました。
であれば、本当の実態を調査し、保育士の配置基準を引き上げるための、ロードマップを示してほしいと思います」
国調査では「9割以上で配置改善」も…
国は今年4月、保育士の配置基準を改定。児童と保育士の比率を4・5歳児について30:1から25:1へ、3歳児について20:1から15:1へと改めた。
ただ、国は「経過措置として当分の間は従前の基準により運営することも妨げない」としており、上述の新基準に対応できた施設への報酬を加算するという運用を実施している。
この改善措置を受け、子ども家庭庁は今年7月、全国の市区町村を通じて、特定教育・保育施設(幼稚園、保育所、認定こども園)を対象にした職員の配置改善実態を調査。
10月に発表された結果によると、3歳児で15:1を満たしている施設が96.2%で、4・5歳児で25:1を満たしている施設は94.4%に上るという。
この調査結果について、岩狹さんは4月に実施した「全国保護者実行委員会」と「全国実行委員会」調査に乖離があると主張した。
「『本当にそんなに高い数値が出るのか』というのがわれわれの実感としてありました。
ところが、われわれの調査結果によると、今回改正された保育士配置基準を完全に満たしてる施設数は44.6%で、 さらに、基準を上回っている施設も13.1%ありましたから、全体としては、合わせて58%ほどです。
実際、こども家庭庁の調査では、3歳児以上で配置改善が実現していなくても、配置改善と判定されるケースがあるのではないかと考えています」
「しっかりと実態把握し、確実に配置改善進めて」
ではなぜ、実際にこのような乖離が発生したのだろうか。岩狹さんは子ども家庭庁の集計方法を疑問視した。
「子ども家庭庁の調査では、『園全体』で保育士の数が新基準を満たしているかどうかで、改善が行われたのかを計算、判定しています。
しかし、3歳児以上をみる保育士の数が改善していなくても、たとえば1歳児の配置改善が行われた施設では、新基準を満たしたと判定されるケースもあります。
6月の国会答弁で、加藤鮎子こども政策担当相(当時)は『基準改正の効果については調査結果を踏まえつつ見極めたい』と述べていましたが、この調査では3歳児以上の改善状況が反映されておらず、問題があるのではないでしょうか。
たしかに、自治体や施設によっては独自に1歳児の保育士の配置改善を実施しているところがあります。
その理由のひとつとして、2018年から2024年までの7年間で発生した重大な誤嚥(窒息)事故のうち、1歳児による事故が約6割を占めていたことや、そうした事故が起きた際に、自治体の検証報告書で、保育士配置基準の改善が提言されたということが理由としてあげられます。
ですが、1歳児の配置改善のための、自治体や保育現場による独自の努力が、3歳児以上の配置改善と合わせて一体として把握されてしまえば、基準改定の効果を正確に見極められないのではないでしょうか。
なぜこのような調査を、子ども家庭庁として実施したのか非常に理解に苦しむところです。
われわれとしては、しっかりと3歳児以上のみを対象とした正確な実態把握をしていただき、確実に配置改善を進めるよう、対策を採っていただきたいと思います」(岩狹さん)
「国はロードマップ策定し、基準引き上げを」
そのうえで、正確な実態の把握とともに、岩狹さんはさらなる状況改善についても訴えた。
「OECD(経済協力開発機構)の保育に関する国際比較調査では、日本に対する政策提言として3歳以上児童のクラス規模の縮減が提言されていました。
また、昨年われわれが実施した、別のアンケートでは保護者に対し安心できる保育士の配置数を聞いたところ、0歳児から5歳児までのすべての年齢層で、国の基準の約2倍の人数が求められているという結果になりました。
現在の配置基準から、こうした世界水準や、保護者の求める水準への引き上げを実現するため、明確なロードマップを国が策定し、質の高い保育の確保・充実を図っていただきたいというのが、われわれの要望です」
少人数での保育「脆弱と言わざるを得ない」
岩狹さんの発言後、出席した、保育士や保護者らから以下のような声があがった。
「配置基準の改善は保育の質の向上に直結する。配置基準の改善をより一層進めなくてはならない」(愛知県の保育士の男性)
「保育士は今、国中で体を張って子どもたちを守っている。しかし、子どもたちの命を守ることを考えれば、そばにいる保育士の数が少ないというのは、脆弱(ぜいじゃく)と言わざるを得ない」(東京都の園長の女性)
「保育士が疲弊していけば、最悪の場合不慮の事故や不適切保育につながりかねない。そして、そのような場所で働きたいと思う人も、預けたいと思う保護者もいない。それでも預けなくてはいけないというのが現状。どうか保育士の人たちが安心して働けるようにしてほしい」(3人の子どもを持つ女性)
また、会見の終わりに、記者から「子どもひとりひとりに対する保育士の数を手厚くするというのは理解できるが、世の中では保育士不足が言われており、実現可能なのか」と聞かれた岩狹さんは次のようにコメントした。
「国のデータによると、全産業平均の賃金と、保育士の賃金の差は年々縮まってきてはいますが、依然として5万円の差があり、長時間労働の問題も残っています。
それでも、保育士の資格を持つ人自体は、実際に働いている人の数よりもたくさんいます。
そういう人々が、保育の現場に戻ってこられるよう、労働環境を改善し、整備していけば十分、実現可能だと考えています」