現役自衛官セクハラ訴訟 公益通報後に「二次被害」「昇任までに12年」“不利益取り扱い”か

直属の上司から長年、性的暴言を受け続けた現役女性自衛官が被害回復や不利益防止措置を取らなかったとして国・防衛省を訴えた国家賠償請求の第9回期日が12月23日、東京地方裁判所で行われた。女性は陳述で、ハラスメントを訴えたことで昇任を不当に遅らされたとする実態も語った。

また、女性を支える「自衛官の人権弁護団」(団長・佐藤博文弁護士)は同日、会見と報告集会を開き、独自に行っている自衛隊員へのハラスメントアンケートに届いた「自衛隊員らの“本当の声”」を伝えた。

弁護団「時効消滅の完成は認められない」

「自衛隊で(得意の)英語を生かして働きたい」――。

沖縄・那覇基地に勤務していた原告の女性自衛官Aさん(現在は別の基地で勤務)は、2010年9月の部隊への着任後、その思いを打ち砕かれた。

直属の上司から、体や交際男性との関係にかかわる性的暴言を受け続け、部隊、さらには防衛省の内部部局、幕僚監部にまで相談したが改善されず、2023年2月27日、国賠請求を求め提訴した。

会見では、原告代理人の田渕大輔弁護士から、「原告が受けた二次被害」や「時効消滅」などについての陳述要旨が説明された。

このうち、二次被害については、公益通報後の聞き取り調査の中で、対応した監理部長がAさんに対し、ハラスメントの原因がAさんにあるかのような発言をしていたことも語られた。

また、国・防衛省が主張しているハラスメントの「時効消滅の完成」については、「女性は現在もPTSD専門医の診察を受けており、原告の(心理的)損害は継続して発生している」として撤回を求めた。

公益通報によって「昇任が不当に見送られてきた」

会見でも、Aさんが「3曹への昇任を不当に見送られてきた。人事上の不利益措置を受けた」(田渕弁護士)ことが語られた。

自衛官は、任期制(陸自は約2年、海・空自は約3年を1任期とする)と常備(定年まで勤める)に分けられる。いわば契約社員と正社員だ。任期制自衛官から常備自衛官になるためには、3曹昇任試験に合格し、士長から3曹に昇任しなければならない(※)。

※自衛官の階級は士(2士、1士、士長)、曹(3曹、2曹、1曹、曹長)、尉官(准尉、3尉、2尉、1尉)、佐官(3佐、2佐、1佐)、将官(将補、将)の全16

Aさんは、米軍との間の通訳もできる英語力を持つなど優秀であるにもかかわらず、3曹昇任試験の合格までに試験7回、12年かかった。通常合格までの平均は試験5~6回、5年ほどであるという。

これについて、不利益措置があったとして、今後「(当時の)勤務評定の開示を求める」(田渕弁護士)意向も明らかにした。

弁護団によれば、ハラスメントなどの通報を行った隊員に対し昇任を不当に遅らせるなどの“報復”的措置は、自衛隊内でなかば常態化しているとのこと。

「匿名を希望したにもかかわらず相手に伝わった」

元陸上自衛隊員、五ノ井里奈さん(元1等陸士)が北海道内の演習場で受けた性被害を訴えたことを機に、防衛省は2022年9月から特別防衛監察を行い、翌年8月にその結果を公表した。

これに対し、「自衛官の人権弁護団」は、内部で行う監察では隊員の意見を十分にくみ取ることはできないとして、2023年11~12月に「本当の声」と題した独自アンケートを行った(隊員・家族等計143人から回答)。

また、今年3~4月には、特別防衛監察に被害を申し立てた隊員23人を対象に、「特別防衛監察110番」アンケートを実施。さらに今月上旬、そのうちの連絡先がわかった11人に対し再度アンケートを行い、その回答を報告した。回答内容は深刻かつ切実だ。

空自隊員(退職)は「各種監察を受けたが、事前隠ぺいが常態化している」、陸自隊員(現職)は「匿名で(監察を)希望したにもかかわらず、相手に相談内容が伝わってしまい、名誉毀損で訴えるとのことで、相手方が雇った弁護士から内容証明が自宅に届いた」と答えた。また、陸自隊員(現職)の一人は、Aさんと同様に「昇任が留め置かれている」という。

海自隊員(現職)は「陸海空幕僚監部が調査するのは間違いで、やはり第三者機関が調査しなければならない。深刻な事案ほど隠したがる」と、監察自体が“形式的”だったとも記した。

自衛隊員「ハラスメント改善にご尽力をお願いします」

自衛隊ハラスメントについて語る弁護団の武井由起子弁護士(左から4人目)(12月23日 都内/榎園哲哉)

弁護団は第9回期日に先立つ12月18日、中谷元防衛大臣に宛てて、「自衛隊のハラスメント根絶にかかる要請」を提出した。

全8項目の要請の最後では、部隊の規律維持のための「自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する」(「服務ハンドブック」幹部隊員用、服務参考資料)の文言がハラスメントの精神的温床になっていると指摘。

弁護団の佐藤博文弁護士は「ハラスメントは職務の適正な範囲を超えたものであると(省は)回答しているが、職務に対する正しい認識をどう形成していくのか」とも問うた。

安全保障環境が厳しさを増す中、どのようにして国を守るのか。防衛省・自衛隊の最大の“戦力”は「人」であるべきで、その「人」が大切にされる組織であってほしい。

弁護団のアンケートで陸自隊員(現職)の一人は、メディア、国民に向け「自衛隊のハラスメントの改善にどうぞご尽力をよろしくお願いいたします」とも訴えた。防衛省・自衛隊は、「本当の声」をどう聞くのだろうか。