「ルフィ」「キム」などと名乗る指示役らによる特殊詐欺グループにフィリピンでかけ子として関わり、窃盗と詐欺の罪に問われている寺島春奈被告(29)の被告人質問が、24日、東京地裁(鈴木悠裁判長)で開かれた。
被告人は上下黒のパンツスーツ姿で出廷。昨年5月、フィリピンから強制送還されるにあたってマグショットが公開されると、SNSやネットを中心に「かわいい」「美人」と話題になったが、この日はマスクにメガネをかけていた。
今年3月の初公判で認否を尋ねられた際には無言を貫いたが、被告人質問では犯行に至る経緯や犯行の認識について、弁護人、検察官、裁判官の問いかけに対し、遠い記憶を思い出すように答えていた。
きっかけは「恋愛ポエムを投稿しているTwitterアカウント」
被告人と特殊詐欺グループの接点ができたのは2019年10月頃。当時、仕事をしておらず地元の長野県で暮らしていた被告人はある日、Twitter(現X)で「恋愛のポエムをたくさん載せているアカウント」からフォローされた。アカウントのプロフィールを見ると「お仕事の紹介してます」「在宅ワークもある」などと記載されていたという。
その後、フォローバックしたらメッセージが来たのか、自分から送ったのか、相手から勝手に来たのかは「覚えていない」(被告人)が、「ササモリ」と名乗る人物と最初はDMで、後にテレグラムでやりとりするようになる。主な内容は「どのような仕事を紹介しているか」であり、被告人は在宅ワークを紹介してもらうつもりだった。
実は、被告人はフィリピン渡航前に一度、日本でもササモリに紹介された“仕事”をしている。その内容は「人の家に行き、キャッシュカードを預かって現金をおろし、それらを指定された場所に置いてくる」というもの。まぎれもなく、特殊詐欺の「受け子」だ。
この手の事件で実行役となった若者の例にもれず、被告人も“仕事”への申し込みに必要であるとの口実で、生年月日や家族の名前、連絡先などの個人情報を送信してしまっている。被告人質問では当時の心情を「アルバイトをするときに履歴書を出すような感覚だった」と振り返った。
受け子をした後に「(警察に捕まりそうな)危ない仕事だな」と感じた被告人は、ササモリがいろいろな仕事を紹介していると言っていたことから「危なくない仕事を」と依頼。こうして持ち掛けられたのが、後に特殊詐欺のかけ子だとわかる“リゾートバイト”だった。
検察官から「(危なくないということについて)海外でやれば日本の警察に捕まりにくいという意味には捉えなかったのか」と問われた被告人は、「まったく思いませんでした」と答えている。
犯罪グループの人は「もっと悪そうな雰囲気」と思い込んでいた
一般的な感覚からは、一度「受け子」をやらせたような相手から再び紹介された仕事など、警戒してしかるべきだろう。そのような思考に至らなかった背景には、ササモリとともに被告人をグループへいざなったもう一人の人物がいる。
その人物の名前については「覚えていないが、たくさんいるかんじの名字だったと思う」(被告人)というが、ササモリとのやりとりがメッセージのみだったのに対して、この人物とは何度か通話をしている。
「まじめで、明るそうな人でした。犯罪グループの人はもっと悪そうな雰囲気だと思い込んでいたこともあり、何度か話しているうちに勝手に大丈夫だろうと信じてしまいました。(なぜ警戒しなかったかは)ちょっと説明しづらいんですが…」(被告人)
具体的な仕事内容や条件は聞かされていなかったものの、漠然とリゾートバイトをイメージしていた被告人は、「女性もいるし、いろいろな年齢の人が和気あいあい楽しく働いている」「まずはフィリピンまで見に来て、いいと思えばやったらいいよ」など言葉たくみに誘われ、気持ちが傾いていく。
また「何かあったらササモリさんもいるしな」という考えも安心材料になっていたようで、最初に特殊詐欺グループと接点を持ったとされる翌月の11月3日、ついにフィリピンへと渡った。
なお被告人はササモリのことを、Twitterのアイコンや投稿内容、メッセージの文面などから女性だと思い込んでいたが、フィリピン渡航後、実際には男性だったと判明している。
かけ子をすると知り「えっ」と思ったが…
3日夜遅く、一人でフィリピンの空港に降り立った被告人を出迎えたのは「ムラノ」という男。グループが拠点としていたマニラ市内の「ウエスト・マカティ・ホテル」へ行き、その日のうちに“管理者”だという「オオイシ」と軽いあいさつをした。このときのことを、被告人は次のように振り返る。
「『これからよろしくね』みたいな、(被告人が)働くつもりで来ていると思っているんだろうなという口調でした。(記憶はあいまいだが)まだ働くって決めてないのになと思ったのは覚えています」
渡航にあたってグループから往復航空券(復路は12月中~下旬)を渡されていたこともあり、被告人は「帰りたかったら帰ればいいかな」くらいの感覚だった。しかし翌日、自身がこれから「かけ子」になると知る。
「えっ」と思ったが、渡航前に個人情報を渡していたこともあり「しません」「できません」「帰ります」などと断われず、流されるようにかけ子となってしまった。
組織については、当初はオオイシがリーダーだと思っていたが、徐々に「もっと上層の人がいる」「日本で動いている人がいる」とわかってきたそうだ。
「犯罪とはわかっていました」
かけ子を始めて10日後の11月13日、ホテルに突然、現地の入管当局が訪れて被告人らは拘束される。そのまま戻ってこなかった者もいるが、自身はこのとき解放された。
当局に拘束・解放された後にもかけ子を続けたのはなぜか。
「13日のことがあって、上の人から『(当局に没収された)パスポートを取り返すから』と言われたので、とりあえずそこまでは待とうと思いました」(被告人)
それまでも日本に帰りたいと何度か話したが、「今は待って」「フィリピン側と交渉する」「(当局に)連れていかれた人たちを出せるようにしてるから待って」など、のらりくらりとかわされ、ずるずると続けてしまったという。
最後に裁判長から「(自身がかけ子をして)盗んだ、だまし取ったキャッシュカードはどうなると思ったか」と問われた被告人は、次のように答えた。
「自分が日本でやったように受け子が…とは思っていました。犯罪とはわかっていました」
公判はまだ続く。