フランス発のモダンジュエリーメゾン「ジェミオ」が、アジア初となるブティックを東京・表参道にオープンした。フランスの職人技と現代性、そして温かみを感じさせる店での接客など特別な体験が楽しめる。ラブストーリーから生まれた、モダンで革新的なラグジュアリーブランドの「ジェミオ」について、創業者のポリーヌ・レニョーさんに魅力を語ってもらった。
「ジェミオ」が誕生したのは2011年。ポリーヌ・レニョーさんと夫のシャリフ・デベスさんが始めたブランドだ。現在、フランス国内に6店舗、ベルギーのブリュッセルとスイスのジュネーブにも店舗を構える。
──「ジェミオ」が他と異なるのはどんな点でしょうか。
ポイントは三つあります。一つ目は、ブランドの創業者である私も夫のシャリフ・デベスもバックグラウンドにジュエリービジネスがないところからスタートしたということです。だからこそ、ビジネスモデルとして、新しさをもたらすことができました。
私たちはオーダーをいただいてからジュエリーの制作に入る受注生産の形をとっています。お客様が地金やカラーストーンを選んで組み合わせていくので、ほかにはないその人だけのジュエリーが出来上がります。在庫も持ちません。
二つ目は、他のジュエリーブランドに比べて、カラーストーンを幅広く提供できることで、きわめてまれなことです。そして三つ目は、お客様を迎えるのに温かく、親しみを感じられるスタイルで接することです。
デザインはスタイリッシュで洗練されているものでありながら、スペシャルな日にも、日常の暮らしのどちらでも身につけられる。主張しすぎず、個性的。二つの要素が両立していることが、デザインにおいて非常に重要です。
──デザインの観点から、どのような点が違うのでしょう。
見た目の美しさと、つけ心地の良さです。たとえば、エバーブルームパヴェというリングは、花のモチーフでボリュームがありながら、指につけた時にフラットなので、洋服などにひっかかることがない。モチーフが邪魔になることがないように設計されています。同じくレフコスのリングでも、宝石をセットする爪の部分を丸く削ることによって、ひっかかることがありません。実用性の部分がデザインの中で研究され尽くしています。
──もともと、なぜジュエリービジネスを選んだのでしょう。
選んだ理由は偶然でした。13年前に夫のシャリフが私にプロポーズした時に、まだエンゲージリングがなく、探していくうちにジュエリーの世界に魅せられてしまったのです。
夫のシャリフ・デベスさんと
一方、ビッグブランドの中には、現代性や温かみのある接客といったものが、なかなかないと感じることがありました。また、デザインは美しいけれど、ブランドの後ろに人の存在を感じることもなかった。そうした欠けている点がなんとかできるのではと思って、このビジネスに決めました。もちろん、こんな形でジュエリー業界に入っていくことは普通ではありません。通常は家業として受け継がれてきたものがあったり、バックグラウンドにジュエリービジネスがあったりしますが、それらの要素がないままビジネスを始めたので、決して普通ではないと思います。
──歴史と伝統のあるフランスのジュエリー業界に入っていくことは決して容易ではなかったと思いますが。
難しさという点ではいまだにありますが、ブランドをスタートさせた時にはさらに難しかったというのが実際のところです。本当にすべてが困難だったと表現するのが正しいかもしれません。例えば、ジュエリーを制作する工房を見つけるのも苦労しました。地金やカラーストーンを選んで、お客様に合わせてカスタマイズし、それぞれ異なるピースを作っていくという工程は、工房での通常のプロセスとはまったく異なります。大きなブランドとしか仕事をしないという工房や、組織も製造工程も確立してしまっているからできないという工房などを説得していくのが大変でした。
──今はビッグブランドが名を連ねるフランスの宝飾品の団体にも加盟しています。
「UFBJOP」という宝飾品の連盟ですが、参加していることを誇りに思っています。この団体はフランスの職人の技などを広め、促進していくことが目的で、「ジェミオ」が最も新しいブランドです。100%フランス製でジュエリーを作るスタイルであることにはプライドもあります。私たちのジュエリーは、品質にしても職人の技にしても、他のビッグブランドと同レベル、あるいはそれ以上のものとして評価してもらえるので、私たちのプライドにもなっています。
──こうした新しいビジネスモデルは消費者にとって、どんなメリットがあるのでしょう。
受注生産は、お客様にたくさんの選択肢を提供できます。カラーストーンや地金の色など選択肢が多く、また私たちが「フェアプライス」と呼ぶ適正価格でジュエリーを提供することができます。お客様が喜んでくれるために何ができるかを考えた結果なので、他のブランドが何をしているかは考えませんでした。
お客様にしてみると、注文してからジュエリーが届くまでに待つ時間が生まれますが、逆に自分のためだけに作られるジュエリーを待つという経験になります。「地金の金属を溶かしている段階です」とか「最後の研磨の段階に入りました」など、制作のプロセスのメールが何度か届くようになっていますし、ウェブサイトのマイページでも見られるようになっています。
ジュエリーを買う機会とは、誕生日だったり、婚約だったり、人生で大切な瞬間がほとんどで、ジュエリーはそのシンボル。大事なシンボルが作られていくストーリーになっていくという感じです。
ブティックの内装デザインは、日本文化への敬意を込めて、シンプルなラインや木材を随所に取り入れた
──対面での販売も大切にしていますよね。
ウェブマーケティングも大事ですが、それはあくまでブティックに人を呼ぶための手段です。ジェミオはブランドアンバサダー、いわゆるセレブリティーを宣伝のために使うことはありません。これは私たちの重要な選択であって、あくまでブティックでの体験からブランドを好きになってほしいという強い思いがあります。
──話は変わりますが、フランスではポッドキャストをやっていて、とても人気だと聞いています。
ポッドキャストは偶然から始まったことです。もともと自分が持っている情熱をシェアすることがすごく好きなのです。たとえば、仕事で得た情熱だったり、アートを見て感じることだったり。仕事をするうえで、何かからインスピレーションを受けることは大事ですが、誰かからインスピレーションをもらうというのも大事だと思っていました。ですので、ポッドキャストを通じてあこがれの人にインタビューしています。登場してもらっている人たちのジャンルは幅広く、共通項をあげるとすれば、なにかしらで成功している人かもしれません。アーティストもいれば、アスリートもいる。起業家もいます。どうやって夢をかなえるか、どんなマインドセットでいるか。こういった話を聞いています。これだけ幅広い人たちとの関わりを持つことができたからこそ、6年続いてきました。決められたルールがあったら、もしかしてそれよりも前に飽きてしまって、6年も続かなかったかもしれませんね。
text: Izumi Miyachi (マリ・クレールデジタル編集長), photo: Tomoko Hagimoto
・年末年始は贅沢なおこもり時間を
・よろこびを届ける、モードな贈り物