極めて不安定かつ不透明な現代の経済状況において、資産を特定の資産クラスに集中させることは危険である……そう語るのは、金投資に精通した菊地温似氏。本記事では、菊地氏の著書『最強のポートフォリオをつくる金投資入門』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、ポートフォリオに「金」を組み入れるべきと考える理由を解説します。

現代の経済は不安定でリスクが高い

現代の経済状況は不安定さを増しており、多くの人々にとって予測が難しくなっています。株式市場の急激な変動や通貨価値の下落は、日々のニュースで報じられるだけでなく、私たちの生活や将来に深い影響を与えかねません。

こうした状況を把握するために、まずはアメリカの代表的な株価指標の一つであるS&P500指数を軸に、直近の世界経済の動きを振り返ってみましょう。

2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症のパンデミックが世界を席巻し、各国の経済活動は大きな混乱に見舞われました。ロックダウンや移動制限による企業活動の停滞は、株式市場にも大きな打撃を与え、アメリカのS&P500指数は約30%も急落。この出来事は、世界経済全体に深刻な影響を及ぼしました。

しかし、その後、各国政府や中央銀行が金融緩和策や経済刺激策を相次いで導入したことで、株式市場は急速に回復しています。とくにアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き下げ、資産買い入れプログラムを拡大したことで、2020年後半から2022年にかけてS&P500指数は歴史的な高値を更新しました。

それでも、2022年には新たな局面を迎えます。インフレ(物価上昇)の急激な進行とそれに伴う金利の引き上げにより、企業の借り入れコストが増加。将来の利益が圧迫されるという懸念から、多くの投資家が株式を売却しました。

その結果、2022年前半にはS&P500指数が約20%下落し、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻や米中貿易摩擦といった地政学的リスクが重なり、投資家の間で不安が広がりました。

一方、2023年に入ると、エヌビディアをはじめとする人工知能(AI)ブームが巻き起こり、市場は再び活気を取り戻しました。S&P500指数は再び記録的な高値を更新し、経済は新たな成長の兆しを見せています。

このように、2020年から2023年のわずか3年間で、世界の経済は大きく揺れ動きました。この期間だけを見ても、現代の経済がいかに不安定で変動の激しいものであるかがご理解いただけるでしょう。

不安定で先行きが不透明な現代の経済環境において、資産を特定の資産クラス(資産として保有する商品の種類)に集中させることは非常にリスクが高く、危険です。

極端な例として、すべての資産を米国株式に投資している場合、先述のようなさまざまなイベントが発生するたびに、資産価値が一瞬で20%から30%、場合によってはそれ以上失われる可能性がつねにある、ということになります。

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ポートフォリオに「金」を組み入れることのメリット

NISA(少額投資非課税制度)は、株式や投資信託などに投資して得られた利益に対する非課税のメリットを享受できる制度です。この制度を活用すれば、投資家は非課税で長期的な資産形成ができます。

たとえば分散型の投資信託商品を定期的に積立投資することで、急激な市場の変動に対する一定のリスク回避になることは間違いありません。2024年の新制度移行でさらに使いやすくなりました。

しかし、NISAを利用することと、「最強のポートフォリオを構築する」という目標は、別の視点から捉える必要があります。

NISA制度は投資の「ツール(手段)」として十分に活用するべきですが、さらに重要なのは、保有する資産の配分を見直し、不安定な経済状況においても資産全体の価値損失リスクを最小限に抑えられる、すなわちリスクに強い資産ポートフォリオを構築することです。

前置きが長くなりましたが、私が「最強の資産ポートフォリオをつくる」ために推奨するのは、資産に金(ゴールド)を組み入れ、ポートフォリオ全体の長期的なリスク分散を強化することです。

金には、ほかの資産クラスにはない独自の経済的特性や価格変動の特徴があります。とくに、金の最大の魅力は、株式やそのほかの投資商品とは異なり、経済が不安定な時期に「安全な避難所」として機能する点にあります。

さらに、金投資の信頼性は、世界的な視点からも明らかです。多くの国や中央銀行が金を重要な財政安定の手段として保有している現状からも、金の価値が伺えます。国家レベルで重視されていることは、個人投資家にとっても金投資がいかに価値ある選択肢であるかを示しているといえるでしょう。

NISAの活用を含む株式やそのほかの投資手段と並行して金投資を行うことで、より安定した資産形成を目指せます。金投資は、不確実性の高い時代において資産を保全するための重要な手段であり、投資ポートフォリオにおいて欠かせない要素となるでしょう。

菊地 温以
株式会社アプレ代表取締役