2024年11月、老舗シャンパーニュメゾン「ルイナール」のパビリオン「ニコラ・ルイナール・パビリオン」がランスのメゾンの敷地内に誕生し、話題となっている。創業300周年を目前にした老舗メゾンの“革新”の一つともいえるパビリオンとは? 同社の代表取締役社長フレデリック・デュフォー氏がその全貌を語ってくれた。
シャルドネを美しく表現することから“シャルドネハウス”と称されているのが「ルイナール」だ。シャンパーニュの大きな可能性を見抜いていた高僧ドン・ティエリー・ルイナールの甥であったニコラ・ルイナールが、おじの薫陶を受け、1729年に創業した。その味わいは品格に満ちエレガントで、根強いファンが多い。
2024年11月、メゾンの敷地内にレストラン&バー、ブティックなどを備えたパビリオン「ニコラ・ルイナール・パビリオン」が誕生した。シャンパーニュの泡に発想を得たという流線形の白亜の建物はモダンな印象で、創業当時の面影を今に残すクラシカルなメゾンと対をなしている。庭にはルイナールのために制作されたアート作品が点在し、緑の中でパビリオンとメゾンと美しく調和している。まるで300年近い歴史の中で、過去から現在に至るメゾンの革新と変遷を表しているかのようでもある。
設計を担当したのは世界的建築家の藤本壮介氏。今回のプロジェクトを「伝統とモダニティー、そしてアートと自然の調和」と捉え、設計を考えたという。
「“西洋と東洋”をどう調和させるかというテーマも、私の中にありました。西洋建築はシンメトリーであることが多いのですが、左側の屋根を少し高くすることで、あえてシンメトリーを崩しました。また、木を多用することで、自然への敬意や東洋的なニュアンスも表したいと思いました」。確かに、完全な左右対称ではないことで、パビリオンはどこか軽やかで、白い雲が浮いているようにも見える。
実は、この“白い雲”がパビリオンの大きな魅力となっている。建物内から外を見ると、大きなガラス窓には白い染色が施され、そこに光が当たると全体に白い霧がかかったような印象になり、実に幻想的なのだ。
「この窓を見ていると、ガラスにメゾンが映り込んで、まるで夢のように霞んでいるような感覚を覚えます」と藤本氏。
また、インテリアデザイナーはグルナエル・ニコラ氏で、“視点を変えること”でさまざまな表情を見せる室内空間を実現したという。例えば、レストラン&バーやラウンジ、ブティックはそれぞれに部屋の区切りがないボーダーレスなつくりで、館内を自由に歩いたり、ソファに座って目線を変えることでさまざまな発見に出合えるような工夫がなされている。
「老舗メゾンとの歴史と現代性のバランスを取ることで、新たなルイナールの世界を表現できたらと思いました。ゲストの方には、自由な視点でルイナールの世界に飛び込んでいただきたかった」とニコラ氏は語る。
最後に、代表取締役社長のフレデリック・デュフォー氏はこう語ってくれた。
「ルイナールは創業から現代にいたるまで、自然や文化、そして人々と共存しながら、サヴォワ・フェール(匠の技)をもとに美しく豊かに生きる喜びを、シャンパーニュを通じて表現してきました。この『ニコラ・ルイナール・パビリオン』は、その集大成の一つであり、同時に、また新たな歴史に続く扉と言っていい。世界中の皆さまがルイナールに足を運び、この空間で楽しんでいただけたら幸せです」
text by Kimiko ANZAI
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