食楽web

●企画や仕入れを行う関係上、東西南北、日本全国を飛び回るBEAMS JAPANの名物ディレクター・鈴木修司さん。尊敬する人物は『男はつらいよ』の車寅次郎。寅さんのように年の1/3は旅の空という鈴木さんが、旅先で見つけた銘品を「フーテンの寅みやげ」としてご紹介します。

 2024年最後の旅先は、鹿児島県の種子島。そう、戦国時代に鉄砲が伝来した場所であり、国産ロケットが発射されることでも有名な、あの種子島です。ずっと行きたいと思っていた念願の島を、ようやく訪問することができました。

 この種子島、実は戦国時代の鉄砲製造に関わった刀鍛冶の鍛冶技術が今も継承されており、今でも“打刃物”の産地として知られています。打刃物といえば包丁などが人気ですが、種子島は手づくりの“鋏(はさみ)”の産地としても有名です。

 実際、私はかれこれ20年ほど種子島の“本種子鋏(ほんたねばさみ)”を自宅とオフィスで愛用しています。それもあって、ぜひいつか訪島したいと願っていたわけです。そして、もう一つの目的は“種子島宇宙センター”の見学でした。

絶品うどんを食べて、いざ種子島へ


『大黒屋』さんのうどんを食べて出発

 12月某日、鹿児島空港に着いたのは、ちょうどお昼ごろ。夕方の種子島行きの高速船までは限られた時間です。

 鹿児島市内で別件の打合せもあって余裕はなかったのですが、空港と必ずセットで考えている近くのうどん屋さんへ直行しました。鹿児島空港近くにある『大黒屋』(鹿児島県姶良市加治木町新富町256)のうどんが絶品なのです。そばが美味しいことで知られたお店ですが、私はうどん派。上品な出汁、柔らかめのうどん、クリスピーな天ぷらの組み合わせが最高です。


高速船トッピーで無事に種子島に到着。復路が時化(しけ)のためにかなり揺れ、前席に頭をぶつけて軽い怪我をする乗客がいたほど

 ギリギリで高速船乗り場へ到着すると、年末に近いからかターミナルは乗客で溢れかえっていました。年末感が相まって旅情も一気に盛り上がります。鹿児島港から種子島の西之表(にしのおもて)港までは所要1時間半ほどですが、初訪問ということもあり、時間以上に長く感じました。


西之表港にあるロケット型のモニュメント。方言の「おじゃり申せ」(よくいらっしゃいました)が心に沁みます

 種子島の北に位置する西之表港に到着した頃は夕暮れ間近でしたが、島在住のグラフィックデザインの仕事に携わる知人と合流します。早々にホテルにチェックインし、明日以降の作戦会議も兼ねた夕食のため、知人が予約してくれた地元の名店『魚匠 一条』(鹿児島県西之表市東町23)へ。


訪島した季節が、まさにアサヒガニ漁の時期と重なっていました。とても面白い形状の蟹ですが、ブツ切りになっていたので原形を見せられず残念

 この『一条』さん、素晴らしいお店でした。事前に島のレンタカー会社の方にオススメ料理を聞いたところ、「飛魚の唐揚げ」と「アサヒガニ」は絶対に食べてくれとのこと。アサヒガニ漁の時期と重なっていたのがラッキーでした。実際、めちゃくちゃ美味しかったです。


何杯飲んだか覚えていませんが、芋焼酎「しま甘露」が地魚に合います。個人的なオススメはお湯割り。華やかな芋の香りがたまりません

 刺身の盛り合わせから始まり、地酒である種子島焼酎を片手に、これでもかと地魚尽くしの宴で、忘れられない一夜となりました。

(広告の後にも続きます)

二日目の種子島。念願の本種子鋏を手に入れる


種子島温泉「赤尾木の湯」。私が滞在したホテルから徒歩2分ほどのところにあり、なんとも贅沢な朝風呂でした。

 種子島の二日目にまず向かったのは、朝6時から営業している種子島温泉『赤尾木の湯』(鹿児島県西之表市西町78)。「ナトリウム炭酸水素塩温泉」と言う泉質で、古い角質を落としてすべすべ肌にしてくれる美人の湯で、浸かるとびっくりするほど肌がスベスベに。

 贅沢な朝風呂を堪能した後は、憧れの『種子島宇宙センター』へ。事前予約して見学したのですが、かなりの見応えがあり、興奮が止まりませんでした。見学中は基本的に撮影禁止なので、様子を見せられないのが残念。ぜひ種子島まで足を運んで見に行ってみてください。ロケット格納庫、発射台、司令室などが間近に見れるし、ガイドさんの説明もとても分かりやすくて最高ですよ。


広大な敷地の奥まで行くと、実物大らしいロケットのモニュメントが現れます。当たり前ですが、港で見たモニュメントとは迫力が違います

 そして、本来の目的である、“本種子鋏”の生産現場へ。『田畑刃物製作所』(鹿児島県西之表市西之表14751-30)さんで、特別に刃先の研磨作業を見学させていただきました。


2人の職人さんが、互いの仕事を確認しながら作業していました。丁寧な仕事に感心しっぱなし

 長年、種子島の鋏を愛用してきた身としては、これ以上ない貴重な時間です。驚くほどの切れ味を維持するために、想像をゆうに超えた手間ひまを掛けた仕事がなされているのを見て、改めて本種子鋏への愛着が深まりました。


製作課程を説明した額装。これを見ただけでも、熟練の仕事を十分に理解できます

 そして貴重な本種子鋏を一丁、新たに購入。切るものがどれほどあるの? って話ですが、私にとっての4丁目の本種子鋏となりました。


右が今回譲り受けた田畑刃物製作所の鋏、左が20年ほど前に手に入れたもの

 島では名物の安納芋や芋焼酎も入手できますが、私が種子島のお土産としてオススメしたいのは、やはり“鋏”。その魅力を言葉で説明することは非常に難しい。でも実際に手に取って、紙を一枚切った瞬間に魅了されること間違いなしの逸品です。

●SHOP INFO
店名:魚匠 一条
住:鹿児島県西之表市東町23
TEL:0997-23-1838
営:17:00〜23:00

●著者プロフィール

鈴木修司(すずきしゅうじ)|BEAMS JAPANクリエイティブディレクター

1976年、三重県松阪市生まれ。年間120日近くを旅に費やし、日本各地の様々な場所で魅力的なモノ・ヒト・コトを発掘。大学などで講師を務めることも。著書に『銘品のススメ』、監修書籍に『都道府県おでかけ図鑑』などがある。