12月24日、屋外での「立ちっぱなし」の強要や約2年にわたる仕事の取り上げと無意味な「学習」の押し付けなど、人権侵害とも言えるパワーハラスメントを受けたとして、従業員が経営者らを相手取り約500万円の損害賠償を請求する訴訟が提起された。
「就業規則を確認しようとした」を理由に、5万4000円の賃金カット
本訴訟の被告は、プラスチック製品の製造・販売を行っている「フソー化成株式会社」(東京都・足立区)と同社の社長1名、および3名の役員ら。原告は、2019年に営業職として同社に入社した、従業員の北澤亨介さん。
提訴と同日に開かれた記者会見で、全国一般東京東部労働組合の菅野存(すがの あり)執行委員長は、北澤さんの受けた被害について「拷問ともいえるハラスメント」「パワハラというには生ぬるい、過酷な仕打ち」と表現した。
菅野委員長によると、フソー化成では経営者による一方的な賃金カットなどが横行していたという。北澤さんも、労務計画に異議を唱えたことをきっかけに、「終業後の社長との会食に遅れた」「職場の仲間の仕事を手伝った」などの理不尽な理由で賃金をカットされ続ける。
さらに、北澤さんが就業規則を確認しようとした際には、そのことを理由に約5万4000円もの賃金がカットされたという。
2022年1月、北澤さんは賃金の返還などを求め東京東部労働組合に加入。これにより賃金は回復したが、労組への加入直後から、経営者によるハラスメントが始まった。
連日に渡る投函行為、屋外の「お立ち台」に立たされる
2022年1月から3月まで、連日にわたり、切手の貼られていない封筒が北澤さんの自宅に投函(とうかん)された。
北澤さんによると、その中身は社内で回覧すれば済むような業務連絡であったという。また、北澤さんが「同居している両親が怖がっているから、投函行為をやめてほしい」と申し出た直後には、1日に複数の封筒が時間を分けて投函された。
3月に両親が家の前に監視カメラを取り付けると、投函行為は途端に収まった。しかし、直後の4月から5月まで、北澤さんは「配置転換」を理由にして、会社の工場県屋外に設置された1メートル四方の「お立ち台」に、9時間にわたる立ちっぱなしを強いられるようになった。
9時間立ちっぱなしにされた「お立ち台」(東京東部労働組合により提供)
また、立っている間には「北澤」の名字が貼られたヘルメットを着用させられ、まるで「さらしもの」のように扱われたという。
着用させられたヘルメット(東京東部労働組合により提供)
「炎天下の日も、土砂降りの雨の日も、屋外に立たされ続けた。
近所に住む両親がたまたま工場のそばを通りかかり、立たされている私の姿を目にした時には、帰宅後に『あんなのは仕事じゃない、拷問だ』と言われた」(北澤さん)
「追い出し部屋」で自己啓発的なネット記事を読まされ続ける
2022年12月から2023年2月まで、北澤さんは仕事を取り上げられ、職場入り口の階段下の狭いスペースに丸イスと粗末な机を置いた「追い出し部屋」ともいえる状況に置かれて「学習」を指示された。
3月以降も、職場内で他の従業員が忙しく立ち働く中で、北澤さんに対する仕事の取り上げと「学習」の強要が今年10月末まで続く。
職場の真ん中に設置されたコタツに座らされる、席の周りに黒と黄色のテープを貼られて「警戒が必要な存在」であるかのように扱われるなど、仕事の取り上げを受けている最中にも北澤さんは「さらしもの」のように扱われていた。
職場に設置されていたコタツ(東京東部労働組合により提供)
さらに、「学習」の内容とは、業務とは無関係の自己啓発的な書籍やネット記事を読ませられ続ける、無意味なものであったという。
10月24日、東京都労働委員会は北澤さんが受けた「仕事の取り上げ」は組合員に対する嫌がらせであり、労働組合法7条に該当する不法労働行為(違法行為)と認定。従前に行っていた業務に復帰させるよう、会社と社長に命令(行政処分)を発出した。なお、会社側は中央労働委員会に異議申し立てを行っている。
現在でも北澤さんは身体に強い負荷がかかる作業や危険を伴う作業を指示されており、会社と社長によるパワハラが続いている状況だという。
「ハラスメントに泣き寝入りするのではなく、はね返すための裁判」
原告代理人の高田一宏弁護士は、労働基準法では就業規則の公開・周知が義務付けられているにもかかわらず、閲覧しようとした北澤さんが賃金カットを受けたことを始めとして、会社側の対応にはさまざまな点で違法性があるとコメントした。
菅野委員長は「パワハラについて泣き寝入りをするのではなく、労働組合と共にはね返すための、意義深い裁判だと思う」と語る。
また、北澤さんは「会社では他の従業員はみんな社長を恐れ、給料を引かれないために波風を立てないよう、ビクビクしながら過ごしている」と指摘しつつ、裁判の意義を訴えた。
「なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのか。自分は、学生の頃、いじめを見て見ぬふりだけはしなかった。こんなことが許される世の中なら、何を信じていいかわからない。
もし苦しんでいる人がいたら、私を見てもらい、(ハラスメントは)はね返せるということを伝えたい」(北澤さん)