家族でも「推し活グッズ」勝手に捨てたら“器物損壊罪”に…? 大掃除で“法律トラブル”が発生するケースとは【弁護士解説】

大掃除は、年末の風物詩のひとつ。

この時期、多くの家庭では家や部屋の掃除とともに、これまで捨てるきっかけのなかった不用品の処分が行われる。

ただし、物を捨てる際には家族間での事前確認が重要。家族が大切にしている物を勝手に「不用品」と判断して捨ててしまうと、トラブルが起こる可能性があるためだ。

大切な「推しのグッズ」や「ガンプラ」を家族に捨てられるケースも…

SNSやインターネット掲示板には「大切にしていた物を家族に捨てられた」との声が多く投稿されている。たとえば、今年2月にはネット掲示板「発言小町」に「母に推しのグッズ捨てられました」と嘆く女子中学生の相談が投稿された。

また、2023年には、夫の飲み会からの帰宅時間の遅さに怒った妻が、夫の趣味である「ガンプラ」(「機動戦士ガンダム」のプラモデル)とお酒のコレクションを廃棄してしまったという出来事がTwitter(現X)に投稿され、議論を招いた。

上記の事例に限らず、とくに夫婦間では、配偶者から理解を得られず趣味で集めている物の処分を迫られる場合がある。

Webメディア「Kufura」が2023年に実施した、20代から50代の既婚女性166人を対象に実施したアンケート調査によると、推し活グッズやぬいぐるみ、書籍や衣類の処分を夫に迫られるケースが多かったという。

一方、同年に行われた20代から50代の既婚男性67人を対象にしたアンケートではフィギュア・プラモデル類や漫画・雑誌などの回答が目立った。

また、2019年に株式会社パートナーエージェントが独身男女300人を対象に実施したアンケートでは、「もし、あなたの趣味のグッズを結婚相手(夫や妻)に勝手に捨てられてしまったらどうしますか?」との質問に26%が「許せないと思う」と回答していた。


株式会社パートナーエージェント「『趣味と結婚』に関するアンケート調査」から

家族の物を勝手に捨てる行為は「犯罪」なのか

捨てる側は軽い気持ちだとしても、大切にしている物を家族に捨てられてしまうと、大きなショックを受けるケースがある。

「教えて!Goo」や「Yahoo!知恵袋」などの相談・質問サイトには「子供の物を勝手に捨てる親って犯罪ですか?」「家族のものを勝手に捨てたり売ったりしたら罪になりますよね?」などの質問が投稿されている。捨てられた側にとっては「犯罪」と表現したくなるほどに理不尽な仕打ちに感じられることもあるのだ。

とはいえ、実際のところ、家族が大切にしている物を捨てるという行為は「犯罪」なのだろうか。

まず、「他人の物を勝手に捨てる」行為は、家族の間であっても器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性がある。

しかし、早矢仕麻友弁護士によると、「大掃除の際に家族の物を『誤って』捨てた場合」には器物損壊罪は成立しないという。ポイントとなるのは「故意」の有無だ。

「器物損壊罪が成立するためには、故意、つまり『罪を犯す意思』をもって行ったことが必要となります。

刑法38条1項は『罪を犯す意思がない行為は罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合はこの限りでない』と定め、故意処罰を原則としています。

過失犯は規定がおかれている場合のみ例外的に処罰されることになっています。

器物損壊罪には過失犯を処罰する規定はありません。したがって、誤って家族の物を捨ててしまったとしても、器物損壊罪は成立しないことになります」(早矢仕弁護士)

「物を捨てられた」は離婚事由に該当する?

上記のように、家族が大切にしている物であっても、せわしなく大掃除を進めるなかで「不用品」と誤認して処分したような場合には、犯罪には当たらない。

一方、先に紹介した「怒った妻が夫のガンプラを捨てた事例」のように、「仕返し」や「腹いせ」などから、配偶者が大切にしている物だとわかっていながら処分してしまうケースもある。

このような場合には「故意」があるので、器物損壊罪が成立する可能性がある。

また、民事の問題として、捨てられてショックを受けた側の配偶者が離婚を決意する可能性も存在するだろう。

通常、離婚を成立させるためには夫婦間の合意が必要となる。しかし、民法770条に記載されている「法定離婚事由」に該当する事情がある場合には、合意が成立しなくても裁判によって離婚が認められる。

そして、配偶者の大切な物を勝手に捨てる行為や、止めるように言われても何度も繰り返し捨てることは、法定離婚事由のなかでも「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性がある。

とはいえ、ここでも重要になるのは「故意」の有無だ。

「配偶者が大切にしている物を、故意ではなく誤って一度だけ捨ててしまったという場合には、法定離婚事由が認定される可能性は低いでしょう」(早矢仕弁護士)

不用品を処分する際には家族間で確認を

故意がなく誤って捨てた場合であっても、大切にしている物を捨てられた側の家族がショックを受けることに変わりはない。

また、法律上、夫婦の財産は夫・妻が各自で所有する「個人財産」と、夫婦で共有する「共有財産」に分けられる。そして、配偶者の個人財産を処分する場合のみならず、夫婦の共有財産を処分する場合にも、配偶者の同意が必要とされる。

もし、大切にしている物を勝手に捨てられた場合には、家族間といえども不法行為に基づく損害賠償を請求することが、法律上は可能だ(民法709条)。

家族で仲良く新年を迎えるためにも、無用なトラブルは避けたいもの。大掃除では、他の家族が所有している財産だけでなく家族全員で共有している財産についても、捨てる前にきちんと確認をとることが大切だ。