過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2019年12月30日 記事は取材時の状況) * * *
年末は帰省ラッシュの影響で、アクシデントやハプニングに遭遇する人もいる。
人材派遣会社の営業の及川芳光さん(仮名・38歳)もその1人。東京から地元福岡へ、最悪だったある年の帰省について語ってくれた。
◆人で溢れかえる自由席、やっと座れたが…
「年末ギリギリで帰省できることが決まったのですが、飛行機は取れず。仕方なく新幹線を使うことにしたのですが、指定席はとっくに売り切れで、自由席はめちゃ込み状態。僕が乗った車両の通路には立っている人で溢れかえっていましたね。東京駅から出発し、新大阪でようやく座れたんです」
ところがそこは4人がけのBOX席。3人の関西弁のうるさいおばさんたちに挟まれることになったとか。そのため眠ることもできなかったという。
「会社やクライアントの忘年会が連日続き、しかもうちの部署の売上が目標に達せなかったため、仕事納めの前日は部長に呼び出されて、僕と数人の営業マンが遅くまで説教飲み会に参加させられてヘトヘトでした。朝起きて、あたふたと東京駅に行ったという感じで、もう疲労がピークに達していましたから、多少うるさくても眠れると思ったんですけど、おばちゃんたちの笑い声もハンパなく車内に響いていました」
カバンに耳栓が入っていることを思い出した及川さんは、取り出して耳をふさいでみたが、おばちゃんたちの嬌声は耳栓を突き破るほどだったそうだ。
だが、寝るのを諦めスマホを手に取った時、思わぬ幸運が訪れる。地元福岡の同級生からLINEが届いたというのだ。
「いま実家に帰っとうと?」。懐かしさが広がったという。
「LINEの相手は初恋の博子さんでした。同級生のアイドルで、僕もずっと好きで。舞い上がりましたよ」
おばちゃんたちのやかましい話し声に耐え切れなくなっていたこともあり、及川さんはスマホを握りしめてデッキに向かったと話す。
「『久しぶり』と電話をしました。なんと、彼女はバツイチになっていたんです。僕もバツイチということもあり、彼女にアタックしたくなって。『福岡で会おうよ』と誘ったんですよ。『今夜は無理かもしれないから、明日にでも会えない?』と。必死でしたね」
ところが、及川さんの期待は大きく外れてしまったという。
「その日の夜に、両親がいる宮崎の実家に帰るのだというんです。早いうちに飛行機のチケットをとっていれば博子さんに会えたかもしれなかったのにと、がっくりしました」
◆デッキから戻ると席がない!
来年は再会しようと約束してから、及川さんがデッキから戻ると、席がなかったそう。
「3人+あらたなおばちゃんが登場していたんです。動揺して突っ立っている僕に1人のおぼちゃんが『あっ!兄ちゃん、そこでお友達に会ってさー、私ら一緒やからいいやろ、この人ここに座って。兄ちゃん若いんやし、おばちゃんに席譲ってえな』と言われたというから驚く。
「びっくりしましたよ。おばちゃんは相変わらず喋りまくって、僕は置いてけぼりのような恰好。通路で立っている人たちが気の毒そうな顔で僕を見ているので、その場にいられなくなって、デッキに戻ったんです。デッキは博子さんと話していた時より寒かったから、コートを着ました」
駅に到着するたびに、下車する人をチェックしていたが、遂に博多駅まで座ることが出来なかったとか。
「デッキで福岡の同級生にLINEをしまくりました。『久しぶりだから今夜は飲もう』と。福岡に到着したら楽しいことが待っていると思いたかったんです。それによって、寒さや立っている疲労感から抜け出させるような気がして」
ところが、年末は同級生たち全員が多忙で、ことごとく断られてしまったという。
「福岡駅に到着するとぐったりでした。バスで帰るのも疲れていたんで、タクシーで帰宅。タクシー代もバカにならなかかったですよ」
来年は独身の博子さんと再会する。今年は飛行機の手配もバッチリだと話す及川さん。マドンナと会えるという希望だけが、年末の及川さんを支えているのだ。<取材・文/夏目かをる>
【夏目かをる】
コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛&婚活&結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ「恋するブログ☆~恋、のような気分で♪」