この年末年始、実家に帰省しているという人も多いのではないだろうか。「久しぶりの家族で集まる機会に、相続の話を」という話を耳にすることもあるが、注意すべきは預金や不動産だけではない。
国民生活センターは昨年11月、「デジタル遺品」に関する相談が相次いでいるとして、遺(のこ)された家族が困らないようにするため、「デジタル終活」について検討するよう、呼びかけた。
デジタル遺品とは、PCやスマートフォン上といったデジタル環境を通してしか、実態をつかむことのできない遺品を指すという。
明確な定義はないが、故人がネット上で管理・保有していたデータのほかに、ネット銀行の口座情報、サブスクリプションサービスを契約していた場合のアカウントなども含まれる。
同センターは、インターネットを利用する人が増え、死亡時にデジタル遺品を残す人も、今後増加が予想されるとして、「デジタル終活の必要性が高まってきている」と指摘する。
「故人のネット銀行、ロックかかったままで確認できない」
国民生活センターはHP上で、昨年2月に60代の男性から寄せられた実際の相談事例を紹介。
「亡くなった兄は、生前にネット銀行で口座を開設していたようだ。
契約先を確認するために、携帯電話会社の店舗でスマホの画面ロックを解除してほしいと依頼したが、『初期化はできるが、画面ロックの解除はできない』と言われた。
これではデジタル遺品の確認ができない」
同センターにはこのほかにも「故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードがわからない」といった相談が寄せられているといい、万が一に備えて「遺族がスマホやパソコンのロック解除ができるようにすること」や「ID・パスワードを整理しておくこと」を呼びかけた。
「オンラインでの契約、遺族が把握できないケースも」
では、実際に親や兄弟が亡くなった場合、デジタル遺品の相続や整理をするにはどのような対応が必要なのだろうか。
IT関連問題などに詳しい鮎澤季詩子弁護士に、その取り扱いや注意点について聞いた。
「故人が、ネット銀行やQRコード決済、サブスクリプション等のサービスを利用していたようだがIDやパスワード等がわからないといった場合、遺族から、契約者が亡くなったことを証明する公的な書類を提出すれば、解約などの対応をしてもらえることが多いようです。
ただ、オンラインで契約するサービスは、契約書面が紙ではなく、メール等で交付されており、故人がそもそもどのサービスを利用していたのかが分からないケースも多々あるようです。
ネット銀行はキャッシュカードが発行されている場合がありますし、サブスクについても、銀行の引き落とし記録から利用状況がわかる場合があります。こうした手がかりをもとに、対象の会社に問い合わせをするなどして調べてみるとよいでしょう」
サブスク利用料、死後発生しても「取り戻すのは困難」
また、動画や音楽のサブスクリプションサービスの契約について、鮎澤弁護士は「早急に解約の手続きを進めるべき」だと念を押した。
「利用しているサービスの約款にもよりますが、サブスクは多くの場合、本人の死亡時に自動で解約されるわけではないので、原則として、サブスク利用者の地位および、サブスクの支払い義務は、相続人が負うと考えておいたほうがよいでしょう。
仮に対応が遅れるなどして、契約者の死後に利用料が発生したとしても、それを取り戻すのは困難な場合が多いようです。債務を増大させないためにも、すみやかに解約しておきましょう」(鮎澤弁護士)
デジタル資産、相続できなくなる可能性も…「日頃から備えを」
では、自分に万が一のことが起きた時に、家族を苦労させないために何ができるのだろうか。
鮎澤弁護士は上述したような注意点に加え「日頃からの備えが重要だ」とアドバイスする。
「デジタル資産の存在を知らないまま、遺族が家庭裁判所で相続放棄の手続きをすると、もはや相続ができなくなってしまいます。
このような事態を避けるためにも、スマホ等のアカウントにアクセス可能な人をあらかじめ指名しておくサービスを活用するなど、もしものときへの備えが大切です。
ほかにも、エンディングノートを作成し、利用しているデジタル資産を書き残しておくことも有効でしょう」(鮎澤弁護士)
また、国民生活センターも、IDやパスワードを適切に管理しつつ、遺族に伝える方法として、以下の手法を紹介している。
①紙にパスワード等を記入し、パスワード部分に修正テープを2~3回重ね貼りしてマスキングして保管しておく(または、パスワードをそのまま書かず、家族にだけわかる合言葉を記載する)
②遺族が必要なときに、コインなどで修正テープ部分を削ってパスワード等を把握する
家族の万が一の際に何をやるべきか把握しておき、自身も遺族に迷惑をかけぬよう、今のうちから重要な情報については、整理を進めておくことが肝要だろう。