いよいよ2025年がスタートした。わが国では古来、年始に「餅」を食べる習慣がある。つきたての餅をきなこや小豆餡や大根おろしで食べたり、雑煮や汁粉(ぜんざい)にしたり、焼いて醤油をつけて海苔を巻いたりと、楽しみにしている人も多いだろう。
他方で、例年高齢者を中心に「餅」を食べてのどに詰まらせる事故が後を絶たない。最悪の場合、窒息して亡くなるケースもある。お祝いの食べ物であるはずの餅が、一つ間違えると大きな事故につながりかねない。
餅の事故を未然に防ぐためにはどうすればよいのか。また、事故が起きてしまった場合、どのような応急処置をすればいいのか。東京消防庁に聞いた。
東京消防庁管内(稲城市および島しょ地区を除く地域)では“餅の事故”で少なくとも5人が死亡
実際に、餅をのどに詰まらせる事故の発生状況はどうなっているのか。
東京消防庁によると、都内で2023年に餅(団子等を含む)が原因で救急搬送されたのは64人、そのうち9割を超える58人を65歳以上の高齢者が占める。また、救急搬送時の初診時の程度別では以下の通り。
・軽傷:20人
・中等症:11人
・重症:6人
・重篤:22人
・死亡:5人
このうち、1月の発生状況はどうなっているのか。
「月別でみると、最多はやはり1月で21人。特に1日~3日の『三が日』に9人、月7日までに17名が救急搬送されています」(東京消防庁防災安全課 担当者)
餅の事故が1月、それも上旬に多発していることが、データからも裏付けられている。もちろん、救急搬送された件数はごく一部であることが想定され、実際にはこれよりも多くの事故が発生している。年始に餅を味わう習慣のあるすべての人にとって、決して「他人事」ではない。
救急搬送されるケースはごく一部と想定される(MediaFOTO/PIXTA)※写真はイメージ
餅の事故を防ぐための注意点
餅をのどに詰まらせる事故を未然に防ぐにはどうすればよいのか。東京消防庁防災安全課の担当者は、調理する側も、食べる側も、以下の5つのポイントに留意することが大切だと強調する。
①餅は小さく切って、食べやすい大きさにする
②急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込む
③乳幼児や高齢者と一緒に食事をする際は、食事の様子を見守るなど注意を払う
④餅を食べる前に、お茶や汁物を飲んでのどを潤しておく
⑤いざという時に備え、応急手当の方法をよく理解しておく
雑煮や汁粉(ぜんざい)は、大きな餅が入っているほうが嬉しく、また、食べるときに餅がよく伸びるのが楽しみ、醍醐味だという人も多い。しかし、安全確保の観点からは、残念ながら、予め小さく切っておくことが望ましい。
また、餅は柔らかいので、つい、よく噛まないままに飲み込んでしまいがちである。食べるときはその都度、よく噛むように注意喚起をすることも重要だろう。
餅をのどに詰まらせても「掃除機」はNG…正しい応急処置は?
では、万が一餅をのどに詰まらせてしまった場合、正しい応急処置はどのようなものだろうか。東京消防庁救急指導課の担当者によれば、まず、気道の異物による窒息が起きているかを確認すべきだという。
「『のどに詰まったのか?』と尋ね、気道異物による窒息であるかを確認してください。
声が出せずうなずく場合は、気道異物除去の対象となります。
また、異物除去には咳が一番効果的です。咳ができるなら、できる限り咳をさせます。咳ができない場合は気道異物除去の対象となります」
気道異物除去の対象と判断したら、まずは助けを呼んで119番通報し、AEDを搬送してもらいます。助けが来ない場合は、119番通報とAEDの搬送はせずに、直ちに異物除去を始めます」
具体的な方法・手順については、担当者によれば「文字で説明するより、イラストや動画などで説明した方が分かりやすい」とのこと。以下、東京消防庁のYouTube公式チャンネルのURLを合わせて紹介する。
成人・小児の場合は、まず傷病者の背中を強く叩き気道異物を取る「背部叩打法」(※1)を試みる。背部叩打で効果がなければ、傷病者の後ろに回り、上腹部を斜め上方に圧迫して気道異物を取る「腹部突き上げ法」(※2)を試みて、異物が取れるか反応がなくなるまで続ける。
成人・小児の場合は、まず「背部叩打法」(※1)を試みる。背部叩打で効果がなければ「腹部突き上げ法」(※2)を試みて、異物が取れるか反応がなくなるまで続ける。
※1:「窒息に対する応急手当(成人・小児:背部叩打法)」(東京消防庁公式チャンネル)
※2:「窒息に対する応急手当(成人:腹部突き上げ法)」(同上)
乳児の場合は「背部叩打法(※3)」と、胸骨を圧迫して気道異物を取る「胸部突き上げ法(※4)」を交互に、異物が取れるか反応がなくなるまで行う。
※3:「窒息に対する応急手当(乳児:背部叩打法)」(東京消防庁公式チャンネル)
※4:「窒息に対する応急手当(乳児:胸部突き上げ法)」(同上)
反応がなくなった場合は、心停止の時と同じやり方で心肺蘇生を行う。
「助けを呼んで誰も来なかった場合は、まず119番通報し、AEDが近くにある場合は使用します。
そして、床に仰向けに寝かし胸骨圧迫を30回、人工呼吸2回を繰り返し実施してください(人工呼吸で空気が入らない場合も2回まで実施し胸骨圧迫に移る)」
口に異物が見えたら取り除く。見えない場合は、心肺蘇生を中断しないために、口に指を入れて探ってはならない(※5)。
※5:「人工呼吸の実施方法」(東京消防庁公式チャンネル)
なお、餅をのどに詰まらせた場合の処置とされるものの中には、その適否が不明なものもある。たとえば、伊丹十三監督の映画「タンポポ」(1985年)では、汁粉の餅をのどに詰まらせた高齢男性の口に掃除機を突っ込み、吸い出す描写がみられる。あのような方法は適切なのか。
「掃除機を口の中に入れることで、口腔内を傷つけ、また感染のリスクがあることから、東京消防庁では推奨していません」(東京消防庁救急指導課 担当者)
餅をのどに詰まらせた場合、決して自己判断での応急処置をせず、まずは気道異物による窒息かどうかを確認する。もしそうであれば、応急処置の方法をすみやかに東京消防庁のHPやYouTube公式チャンネル等で確認し、その通りの応急処置を行うことが、正しい対応方法だといえる。
餅以外にも注意…「年末年始に発生しがちな事故」がこんなにも
東京消防庁防災安全課の担当者によると、年末年始には餅の事故以外にも、発生しがちな事故・注意すべき事故があり、十分に警戒してほしいとのこと。
「火器設備・器具を使用した際の換気不足による一酸化炭素事故、鍋を囲む際に使用するカセットコンロの誤使用・誤廃棄の事故、路面凍結などの転倒事故など、冬には多くの危険が身近に潜んでいます。
気をつけるべきポイントや事故事例の紹介など、東京消防庁ホームページから確認できます。ご覧いただき、安全で楽しい年末年始をお過ごしください。
また、冬は空気が乾燥し、火災が発生しやすい時期でもあります。もしもの場合に備えて住宅用火災警報器の維持・管理、消火器の設置をお願いします」(東京消防庁防災安全課 担当者)