「2025年に開園するテーマパーク」ディズニーランドと好対照の“異世界”にかかる期待――仰天ニュース傑作選

2024年の大反響だった記事をピックアップ! まだまだあるジャンルに収まらない大人気記事はコチラ!(初公開2024年1月17日 記事は取材時の状況) *  *  *

全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。

2025年、沖縄北部に新しいテーマパーク「JUNGLIA」が開業することが、ジャパン・エンターテイメントによって発表された。同社の発表によれば、このテーマパークは「都会にはない興奮と贅沢のテーマパーク」であり、近隣に世界遺産「やんばる」があるという特徴を活かしたアトラクションを計画しているという。

すでに発表されているアトラクションは数十種類あり、大森林をジャングルに見立てて冒険に出るサファリライドや、沖縄の絶景を大空に見立てたジップライン、大自然をめぐる気球型のライドなど、どれも沖縄の自然を活かしたアトラクションとなっている。

◆「USJをV字回復させた男」が手掛ける

「JUNGLIA」を手がけるジャパン・エンターテイメントの筆頭株主は、株式会社・刀。刀の代表は、これまでUSJや西武園ゆうえんちなどのリニューアルを手がけ、日本のテーマパーク事業をマーケターとして支えてきた森岡毅である。

もともと、森岡はP&Gでマーケティングを担当しており、そのときの業績が認められて、業績不振に陥っていたUSJに入社することになる。そこで森岡は現在のUSJを作る数々のイベントやアトラクションを企画。それらが大きく好評を博して、USJはV字回復といわれるまでの業績の伸びを見せたのである。

森岡が、畑違いのUSJに入社したのは偶然のことではなかった。森岡は著書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)で、自身が生粋のテーマパーク好きであり、世界各地の主要なテーマパークにはほとんど訪れたと書いている。テーマパークに興味があったからこそ、彼はUSJに入社することに決めたのである。

◆「新しいテーマパークの形」を模索

そして、そのような森岡の「テーマパーク好き」な一面は明らかに「JUNGLIA」にも現れていると私は考えている。その構想には、これまでのテーマパークの歴史を踏まえつつも、新しいテーマパークの形を作ろうという森岡の意図が強く込められていると感じるからだ。

では、「JUNGLIA」の新しさはどこにあるのか。これを明らかにするためには、テーマパークの歴史を振り返る必要がある。

◆ウォルト・ディズニーの“常軌を逸した”こだわり

そもそも、テーマパークのはじまりは、我々もよく知っている「ディズニーランド」に遡る。それまで、遊園地といえば、大きな敷地に遊具が置かれているだけだった。しかし、ディズニーランドを作り上げたウォルト・ディズニーは、その乗り物にバックストーリーを持たせたり、あるいはその乗り物が置かれている周りの環境もそのバックストーリーと沿うものにしたりと、園内の中に「物語」を立ち上げていった。

テーマパークの定義としてよく使われるのが、「園内の遊具や建物、装飾がある一つのテーマに基づいて組織化された娯楽施設のこと」というものだが、ここでいう「物語」はこの「テーマ」のことである。だから、テーマパークは「テーマ」パークと呼ばれるのである。

ウォルトの「テーマ」への執着は常軌を逸したものであった。よく現れているのが、ディズニーランドの風景設計だ。ウォルトは、ディズニーランドの中を徹底的に、現実世界とは異なる世界として形作ろうとした。有名な話だが、ディズニーランドの園内からは外の風景が見えないように視覚的な配慮がなされている。

また、逆に外からディズニーランドの中の風景も見えないようになっている。これが何を意味しているかというと、徹底的にテーマパークを、外界からは隔絶された一つの「異世界」として形作ろうとした、ということである。このようなウォルト・ディズニーの方向性は、その徹底具合はさておいたとしても、後続のテーマパークには基本的に踏襲された。

◆日本に数多く建てられた「異世界」

例えば、1980年代ぐらいから、日本には数多くのテーマパークが誕生したが、それらの多くは外国をテーマにしていたり、おとぎの世界をテーマにしていたりする。例えば、グリュック王国や倉敷チボリ公園、志摩スペイン村に長崎オランダ村(現・ハウステンボス)など、すでに閉鎖してしまったものから現在営業中のものまで、数えきれないほどのテーマパークがこの方向性で作られた。日本にはディズニーランドゆずりの「異世界」が次々と建てられていったのである。

そのように考えたときに、「JUNGLIA」の興味深さはどこにあるのか。現在発表されている情報を見る限り、明らかに「JUNGLIA」はディズニーランドの方向性を向いている。つまり、日常生活とは違う「大冒険の世界」という「異世界」を作ろうとしている。

◆「外部環境を積極的に取り入れる」ことに注目

しかし一方で、その「異世界」を作るときに、ディズニーランドが徹底的に外部の環境を遮断したのに対し、むしろ「JUNGLIA」は「沖縄の自然」という外部環境を積極的に取り入れながら、「異世界」を形作ろうとしている。

こうした森岡の判断は、「環境」というキーワードが全面に出てきた現代だからこその判断だともいえるし、森岡自身が述べているように「沖縄でテーマパークを運営する」という意味を考え抜いたときに必然的に出てきたアイデアでもあるだろう。しかし、その結果として、これまでのテーマパークが取ってきた手法とは異なる手法でパークの設計がなされるということは、歴史に照らし合わせてみると非常に興味深い。

「JUNGLIA」の全貌がどのようになるのか、まだ詳細は明らかではない。しかし、それがテーマパーク史の中で特異な位置を占めるだろうことは、このような文脈からも予想がつくのである。

<TEXT/谷頭和希>

【谷頭和希】

ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)