「ずっと真面目に働いてきたのに…」無年金で“生活保護”を受けざるを得ない日本人・在日外国人「それぞれの事情」とは【行政書士解説】

「貧困」が深刻な社会問題としてクローズアップされるようになって久しい。経済格差が拡大し、雇用をはじめ、社会生活のさまざまな局面で「自己責任」が強く求められるようになってきている中、誰もが、ある日突然、貧困状態に陥る可能性があるといっても過言ではない。そんな中、最大かつ最後の「命綱」として機能しているのが「生活保護」の制度である。

しかし、生活保護については本来受給すべき人が受給できていない実態も見受けられる。また、「ナマポ」と揶揄されたり、現実にはごくわずかな「悪質な」不正受給がことさら強調されたりするなど、誤解や偏見も根強い。本連載では、これまで全国で1万件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏に、生活保護に関する正確な知識を、実例も交えながら解説してもらう。

第6回は、若いころから働いてきたにもかかわらず、本人の自己責任・自助努力ではどうにもできない外部的な事情により年金を受け取れず、やむなく生活保護に頼らざるを得ないケースがあることと、その背景事情について説明する。(全8回)

※この記事は三木ひとみ氏の著書『わたし生活保護を受けられますか 2024年改訂版』(ペンコム)から一部抜粋し、再構成しています。

※【第5回】「生活保護世帯の子」も“大学”へ行けて「バイト」もできる…近年充実した「公的サポート」の中身とは【行政書士解説】

勤務先の会社が「社会保険未加入」で無年金になるケース

「保険料を払わなかった無年金者が生活保護を受給するなんてずるい」という意見が、ネットで散見されることがあります。しかし、長年にわたって真面目に働いて税金を納めてきたのに、年金を受け取れない事情がある方もいます。今回はそのような「無年金問題」と生活保護の関係について考えてみます。

「若いころからずっと真面目に働いてきたのに無年金」

実際にこうしたケースが少なからず発生しています。

私が行政書士になって間もないころのこと。ミズキさん(仮名・40歳)の生活保護申請のため福祉事務所に同行したときのことです。

「年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用する」という生活保護の要件があるため、福祉事務所から「本当に年金を受け取れないのか、再度、確認してきてほしい」という要請を受け、ミズキさんと一緒に、年金事務所まで同行したことがありました。

ミズキさんは精神障害者保健福祉手帳2級を保持していました。病気になって働けなくなるまでは、真面目に1つの会社に勤務していたのですが、その会社が厚生年金に加入していませんでした。

本人の責任によらない「無年金状態」の人が存在する(PicStyle/PIXTA)

近年は、加入義務がある社会保険に未加入の会社に対して調査や罰則は強化されてきましたが、ミズキさんの場合は時すでに遅し。救済されることはありませんでした。

結果として、ミズキさんは生活保護を受けざるを得なかったのです。

ミズキさんのようなケースは少なくありません。また、それに限らず、終身雇用制の崩壊や派遣労働者の増加などを背景に、雇用保険や年金といった社会保障制度が十分に機能しなくなってきているという現状があります。

生活保護制度が最後のセーフティーネットであるだけでなく、実質的に唯一のセーフティーネットとなっている現状があります。雇用保険が適用されない非正規雇用者が失業すれば、やはり、生活保護しか頼れるものがないというケースが多いのです。

在日外国人の無年金問題と生活保護

もう一つ、深刻なのが、日本を生活の本拠とし、日本国民と同様の税金等の社会的な負担を負っている在日外国人(定住外国人)の無年金問題です。年金を受け取れない結果として、生活保護に頼らざるを得なくなっている人がいるということです。

この問題の背景には、日本の公的年金制度の設計上の不備があります。

1959年に制定された日本の国民年金法は、被保険者を「20歳以上60歳未満の日本国民」と定めていたため、定住外国人は、日本社会で働く一員でありながら、公的年金に加入したくても加入できませんでした。

その後、1981年に日本政府が「難民の地位に関する条約」(難民条約)を批准し、1982年に発効しました。これにより、日本政府は「難民」と認定された者に対し、国民と同一の社会保障を与える義務を負っています。なお、この条約は直接には「難民」を対象としていますが、日本に居住して納税等も行い、難民よりも日本国と密接なかかわりを持っている定住外国人は、当然に対象となりました。

行政書士 三木ひとみ氏(本人提供)

それに伴い年金の国籍条項が撤廃され、定住外国人も支給対象となりました。しかし、25年以上保険料を払わなければ年金受給資格は得られなかったため、1982年の時点で35歳を超えていた人には救済措置が取られず、支給対象から排除されることになりました。

1986年に、基礎年金導入を骨子とする年金制度改正が行われ、年金加入期間が25年に満たない専業主婦などを救済する措置がとられましたが、定住外国人のための救済措置はとられませんでした。

こういった高齢の定住外国人は、若いころから働き詰めで税金を納め、日本社会に寄与してきたというのに、年金を受け取れず、生活保護に頼らざるを得ないという現実に直面しているのです。

日本の年金制度は、納めた額よりも大きな額を受け取れる仕組みです。特に厚生年金の場合は、本人と勤務先が半分ずつ保険料を負担するので、65歳から年金を受給して平均寿命まで生きた場合、自分が支払った年金保険料の総額を大きく上回る額を受け取れる計算になっています。

したがって、定住外国人の方が公的年金に加入できず、その代わりに自分で年金保険料の分だけ貯蓄し続けていたとしても、日本人であれば受け取れる年金の額を大きく下回ることになります。

その結果、中には、生活保護に頼らざるを得なくなってしまったという人も出てきているということです。

なお、定住外国人に対する生活保護の適用については、日本政府は難民条約批准より前から、通達等によって必要な外国人に対し、事実上保護を与える運用を行ってきています(厚生労働省「生活保護実施要領等」参照)。

ここまで述べてきたように、日本人であるか定住外国人であるかを問わず、本人の自己責任・自助努力ではどうにもできない事情によって、最後の命綱として生活保護に頼らざるを得なくなっている人たちが、日本社会には大勢いることを忘れてはならないと思います。