年末年始は、自らのキャリアを考える時期でもある。

初詣で身の振り方を決め、年明けに転職活動を本格化し、新年度から新たな職場に移る人もいるだろう。上司からは唐突に見えるが、本人としてはタイミングを見計らっての行動なのだ。

ある調査によると、「直近1年間の退職者が増えている」と答えた人の割合は会社の規模が大きいほど高く、従業員3,000人以上では「増えている」が73.3%を占めた。いまも水面下で、さまざまな人の移動が画策されているころかもしれない。

バブル世代の「退場」で採用余力が発生

この調査は、ビズリーチまたはHRMOSシリーズを利用する企業の経営層、人事担当者548人から回答を得たもの。どの層の退職者が増えているか尋ねたところ、従業員3000人以上の企業では「入社5~10年の新卒入社者」と答えた人が63.6%にのぼっている。

若手社会人の退職者が増えているのは、すべての規模の企業で共通する傾向だが、規模が大きくなるほど割合は高くなっている。入社5~10年の新卒入社者は、すでに「第二新卒」の枠を超え、中堅に入ろうとする若手社会人だ。

大企業で社会人としての基本マナーを教え込まれ、若さと体力でいよいよ実力を発揮する時期にかかっている層が、転職に動き出そうとしているのは本当だろうか。転職エージェントに勤めるAさんは、確かにいまこの層の転職市場の人気が高いと明かした。

「若手社会人をめぐる『キャリア採用争奪戦』は激化しています。特にこの世代は、どの会社も喉から手が出るほど欲しがっているので、私たちも積極的にスカウトしているところです。大企業出身者は受けてきた教育の質もいいし、優良顧客とのつながりも持っているので、引く手あまたですよ」

Aさんによると、長らく人員がダブついていたバブル世代の「退場」で採用の余裕が出てきた会社が多いという。しかし、その下の氷河期世代を補充することは考えず、大手企業の優秀な30代社員に権限を移譲する動きがある。

「いくら大企業の安定性や社会的ステイタスが魅力でも、やはり日本の伝統的大企業は本当に非効率なところが多いですからね。どうしても肌に合わない人はいますし、若くして幹部として処遇されたい人もいますから、そういう人はどこも大歓迎です」

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ベンチャーへの転職は「交渉次第で高給も」

また、Aさんによると、大手出身者は大手に転職するかと思いきや、納得できるキャリアアップが図れれば、中堅企業や中小ベンチャーに転職する場合もあるという。

「東証グロース市場に上場している会社などであれば、規模の小ささはあまり気にならないみたいですね。そればかりか、場合によっては未上場のスタートアップに転職する人もいます。まあ30代前半であれば一度失敗しても、すぐにまた転職すればいいのですが」

この傾向は、エン・ジャパンが運営する若年層向け転職サイト「AMBI(アンビ)」の調査結果とも一致する。

やや古いデータだが、2021年4月から9月までに大企業からスタートアップに移った件数は、3年前の同月比で7.1倍に増えた。全体の転職者数の伸びである3.8倍を大きく上回り、全体に占める割合も約8%から21.4%へと大きく上昇している。

Aさんは、経営の安定性が低すぎるスタートアップは、自分の候補者に勧めていないとしつつ、大企業を辞めて一度経験してみたいという人が少なくないのは事実だという。

「ベンチャーやスタートアップの魅力は、体系的な給与テーブルもないので、経営陣と交渉すれば、年齢に関係なく高給が得られる可能性があることですね。もちろん翌年には会社が傾いて、なんてこともあるわけですが…。大手に勤めているうちにお金を貯めたり資金を作ったりして挑戦している人には、大きな痛手にはならないようです」

それよりも、Aさんが堅実なキャリアアップの方法として勧めるのは「異業界・同職種」への転職だ。職場としては新しい環境になるが、仕事には継続性がある。大手での実績は売りになるし、自分の力を別な環境で試すことにもなる。

「たとえば、大手法人営業の経験のある若手社会人を、SaaS企業が雇いたがるケースは多いです。やはり、大企業に対する提案書の作り方や、プレゼンの仕方、担当者との関係づくりなどは、大企業出身者はツボを心得ているという感じで強いです」