「お金がない」「家がない」「頼れる人がいない」…そういった事情とは別の理由でホームレス状態になっている、いわば〝ネオホームレス〞とも呼べる存在の若者が増えているといいます。本記事では、元芸人でYouTube登録者数24万人超えの青柳貴哉氏の著書『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA/2023年4月発売)より一部抜粋し、20代でホームレス生活をする女性についてご紹介します。
ホームレスになっても続けるホストクラブ通い
元彼との経緯を聴いたあとに、さらに驚いたことがある。ホストに2,000万円も使ったマナミさんは、ホームレスとなった今もホストクラブに通い続けていたのだ。
しかも、現在マナミさんが通うクラブのお気に入りのホスト、いわゆる〝担当〞と知り合ったのは、ホームレスになってからだと言うではないか。
この時のマナミさんは、風俗店で働いていた頃から付き合いのある客や立ちんぼで見つけた男性たちを相手に、1日に2万円を稼いでいた。だが、そうやって得たお金はホストクラブで消えてしまう。
彼女はホームレスになってから半年ほどだと話していたが、その期間だけですでに100万円以上を新しい担当に使い、数十万円の〝掛け〞を作っていた。掛けというのは、ホストクラブでの飲食代をホストが建て替えるシステムだ。その分のお金は借金となり、のちのちホストから取り立てられることになる。
半年で100万円以上をホストクラブで使ってしまったマナミさん。そのお金があればホームレスをせずに暮らせるのでは? 誰もがそう思うだろう。僕もまったく同じ質問をマナミさんに投げかけた。またもや「はい」とだけ彼女は答えた。
その虚ろな目を見ていると、マナミさんに「この人はなぜそんな当たり前のことを聞くのだろう?」と思われているような気持ちになり、僕の方がなんだか不安になってくる。
マナミさんの話を聴きながら、僕はあることに気づいた。元彼に使った2000万円も、今の担当に使った100万円も、彼女は「使わされた」「奪われた」という感覚を持っていない様子なのだ。
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ホストと客の関係性に横たわる深い闇
2,000万円を「使わされた」「奪われた」という感覚があれば、相手を恨む感情がその人の中に芽生えても不思議はない。物騒な例えで良くないかもしれないが、2,000万円という金額は事件の動機になり得るし、現実には数百万円をめぐる強盗や殺人のニュースも目にする。マナミさんが失った2,000万円は、人が人に危害を加えてもおかしくない金額だと言えよう。
しかし、マナミさんが元彼を語る上で基準にしている物差しは、「奪われたかどうか」「恨んでいるかどうか」ではなかった。彼女は元彼とのエピソードを「好きかどうか」という物差しだけで語り続けた。
その時の自分は元彼を好きだったが、今の自分は元彼のことをもう好きではない。マナミさんは元彼との関係を、使った金額ではなく「好きかどうか」という点にこだわって僕に話していた。
マナミさんは2,000万円を使ったのに、別れた元彼のことを恨んでいない。そして、相手のホストはマナミさんに2,000万円という大金を〝使わせて〞同棲までしたのに、彼女から恨まれることなくスパッと関係を断ち切った。
僕は、ホストと客の関係性に対して深い闇を感じつつ、その一方で大きな興味を抱いた。今、彼女が「担当」と呼ぶホストに対しても、マナミさんは「全部好き」と言い切る。僕は、僕なりに核心を突いた質問をマナミさんに投げかけてみた。
「その人(担当)にホストクラブでお金を使うじゃないですか」
「はい」
「マナミさんの中でゴールはあるんですか?」
「結婚はしたいなと思う」
「だからやっぱりお金を使うっていう感じ?」
「うんうん」
「(結婚)できると思いますか?」
「できないと思います」
「それでも(ホストクラブに)行っちゃうんですか?」
「はい」
「会いたいから?」
「うん」
「元彼のことは、もう別に好きじゃないんですか?」
「はい」
「その人のことも好きで、すごいお金を使ったんですよね。でも、今はもう全然(好きじゃない)。今好きなその人も、いつかそういう時が来る気がしませんか?」
「はい」
「と思ったら、今使ってるお金、ちょっとバカらしい気がしませんか?」
「んー、しない」
僕の問いかけはマナミさんにはまったく響かず、この日の取材は終了した。
青柳 貴哉
※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。