首都圏模試センターの調査によると、2024年の私立・国立受験者数は5万2,400名となっています。前年に比べて微減しているものの、受験者数は年々増加。少子化傾向にもかかわらず、中学受験は加熱する一方です。しかし、「親の過度な期待」は時として子どもに深刻な悪影響を与えてしまうケースも……とある家族の事例をみていきましょう。2人の子どもを私立中学に通わせる石川亜希子AFPが解説します。
「男尊女卑」のせいで地元から出られず…苦しい環境で育ったAさんの「転機」
専業主婦のAさん(44歳)は、夫のBさん(47歳)、ひとり娘のCちゃん(12歳)と、都内湾岸部にあるタワーマンションに暮らしています。Bさんの月の手取り額は約50万円で、ボーナスや手当などをあわせた年収は約1,000万円。自宅の住宅ローンを返済しながらも、適度にゆとりのある生活を送れている……はずでした。
Aさんは地方出身で、その土地は男尊女卑の傾向が強く残っていました。そのため、進学先も当然のように弟が優遇され、弟は東京の大学へ、Aさんは実家に近い大学へ通うことに。卒業後も、親の勧めで地元に就職しました。
「成績はわたしのほうが断然よかったのに。悔しい、ずるい」そう思いつつも、一生田舎で暮らすことになるのだと思っていました。
転機となったのは、社会人5年目のときです。勤務先に出向してきたBさんと懇意になったAさんは、そのまま結婚。3人家族となって間もなく、Bさんが東京の本社に戻ることになったのです。「東京に行ける! これで人生のリベンジができる!」Aさんは期待に胸を膨らませました。
Aさんにとって“人生のリベンジ”とは、娘を完璧に育てることでした。
「私が悔しい思いをした分、娘にはいい大学に入ってほしい」
そんな思いもあって、AさんはCちゃんにあらゆる手を尽くしました。
Cちゃんは、幼少時から利発な少女でした。ママ友に「Cちゃんは優秀で羨ましい」「さすがCちゃん」と言われるたびに「そんなことないわ」と謙遜しますが、心の中では「夫も高学歴だし、私が育てているのだから、ウチの子は賢いに決まってる」と思っていました。
小学校低学年になると、ピアノ、水泳、英語に加えて、大手受験塾や有名算数塾にも通わせました。遊ぶ隙間などなく、毎日パンパンにスケジュールが埋まっています。
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「都内で1番の名門校に入れたい」Aさんだったが…娘に現れた“異変”
このころ、教育費はすでに月10万円近く、Bさんの手取りの1/5を占めていました。Bさんが「もう少し習い事にかけるお金を減らせないか」と持ちかけ、夫婦で話し合いになることもありましたが、Bさんには「育児を妻に任せきりにしている」という負い目があり、Aさんに反発されるとあまり強く言い返すことはできませんでした。
小学4年生までは、模試の成績も順調で、成績別に席が決まる塾内でも前方の席をキープできていたCちゃん。
「これはいける!」と思ったAさんは、ことあるごとに、都内で1番の名門校であるD中を勧めるようになります。「CにはD中が合ってると思うわ」
それを毎日聞かされるうち、Cちゃん自身も「D中に行きたい」と口にするようになりました。
しかし、小学5年生の夏あたりから、Cちゃんに変化が起こります。模試で思うような成績が取れなくなってきたのです。
小学5年生の夏は、「中学受験の天王山」と呼ばれるほど大事な時期です。
「ちゃんとやってるの?」「油断しているんじゃない?」「塾にいる子は友だちじゃない。ライバルなのよ」……Aさんは、思わずCちゃんを叱責する日が増えていきました。
「どうにかしなければ」と焦ったAさんは、Cちゃんの苦手科目を伸ばすために、さらに別の個別指導塾に行かせたいとBさんに相談しました。
「さすがにお金をかけすぎじゃないか……? 塾だけで月10万円以上になっちゃうよ」とBさんが言うと、「大丈夫。じゃあ他の習い事を整理するから」と、Cちゃんが楽しんで続けていたピアノを辞めさせることに。
「C、いいわよね。あなたのためなの。いまは我慢のしどころだからがんばりましょうね」
「うん……」
3種類の塾通いで、月の教育費は15万円に
メインで通っている週3回の塾に、算数塾、新たな個別塾と、平日は授業のあと、休む間もなく塾通い。月の教育費は約15万円となりました。家ではゲームも禁止され、ピアノを弾いていると「もう習っていないんだからムダでしょう」と言われます。
おとなしいCちゃんは素直に従いますが、内心どんな思いを抱えていたのでしょうか。