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●人生が変わったあの店の一皿、忘れられないあの日のごはん。人生の節目には必ず心に残る店の食事がある――。日本人の胃袋を支える“食”にまつわる仕事をしている社長さんたちに、自身の経歴や自社の歴史を振り返りつつ、いま通っているお気に入りの店と料理についてのエピソードを語ってもらいます。
藤崎 忍/1966年東京生まれ。大学卒業後、21歳で結婚し専業主婦に。39歳の時に夫が病に倒れ、SHIBUYA109のアパレルショップに就職。5年後に退職し、2011年に東京・新橋に居酒屋「そらき」を開店。2017年にドムドムフードサービスに入社し、ドムドムハンバーガーの新商品開発などに邁進。2018年、同社の代表取締役社長に就任
前編に引き続き、ドムドムフードサービス 代表取締役社長の藤﨑 忍さんのインタビューを、最愛の店である『焼肉 赤煉瓦 向島店』(東京都墨田区)からお送りします。
社長はいつも苦しいもの。仕事は一人ではできない
——専業主婦から39歳でアパレルショップに初就職し、44歳で新橋に居酒屋『そらき』をオープン。51歳でドムドムハンバーガーの運営会社に入社後、わずか9ヵ月で社長に就任されました。社長になってよかったと思うことはありますか?
藤崎 忍(以下、藤崎):……なんだろう、わからない(笑)。「社長」というのはただの肩書きであって、アパレルショップでも居酒屋でも与えられた仕事を一生懸命やるということに変わりないですからね。ポジションが違っても仕事の差はないと思うんです。
むしろ社長はいつも苦しいかも。やらなければいけないことが多く、その責任に対するプレッシャーも大きいので。2021年から4月期連続で黒字化できたけど、そうなったらなったで、数字を落とせない。企業というのは、少しずつでもずっと上がっていないといけませんからね。
——黒字になったことは自分の手柄とは考えないですか。
藤崎:それは全然思わないですね。仕事は絶対一人ではできないし、周りの人がいなければできませんからね。ハンバーガーをつくっているのは、ドムドムハンバーガー29店舗のスタッフで、彼ら一人一人にお任せしてるだけですから。
うちはファストフードではあり得ないような商品を出すので、調理工程が大変なんですよ。「丸ごと!! カニバーガー」なんて、店舗でカニを流水解凍して、すごく丁寧にやさしく水気を切って、衣を付けて揚げるんです。一般的なファストフード店ではまずない調理です。つまり、アルバイトスタッフを含め、これをおいしく作るマインドになってもらえないとできません。だから私はスタッフ一人一人のマインドをどう上げていくかをいつも考えています。
これまでは黒字化することが第一義だったので、教育制度はまだこれから。マインドを上げていく努力を継続し、そのマインドをスタッフ全員に広げていく仕組み作りをしていきたいです。
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「おいしい」だけじゃない価値がある
——藤崎社長は、食べることの魅力って何だと思われますか?
藤﨑:食べて飲んで話して楽しさを共有することは、心を豊かにすることにつながると思います。私の唯一の趣味は料理。食べること、食べていただくことが好き。今の仕事に通じていますね。週末はスーパーに行って1時間から2時間かけてお買い物をして常備菜をつくっています。
先日、会社で「どこで忘年会する?」と聞いたら、社員が「社長の家がいいです。10人で行きます」という話になって(笑)。10日以上前からメニューを決めて、買い物して、3日前から牛すじを煮こみ始めて……。お正月と隅田川の花火大会のときは家族会があって20人ぐらいで宴会。そのときもたくさん料理しますよ。
——おもてなしのときの鉄板メニューや得意料理は。
藤崎:煮込みハンバーグは居酒屋『そらき』のメニューにもして人気がありました。ただ、私は毎回違った料理を作りたいタイプなんですよ。自宅にお客を招いたときのメニューはノートに書きとめて、同じ方がいらっしゃるときはダブらないようにしています。
お肉を焼いてくれるおもてなし精神抜群の藤崎社長[食楽web]
——人生の最後には何が食べたいですか。
藤崎:シンプルにご飯と明太子かな。このあいだ福岡出張のとき、5軒の明太子専門店から買ってきて、朝ご飯に出して食べ比べをしてみたんですが、それぞれのおいしさがあって、甲乙つけがたかったですね。私、朝ご飯をしっかり食べるんですよ。お味噌汁はいつも具だくさん。今日は玉ねぎとしめじと岩のり。最近のお気に入りは「善光寺平味噌 白」です。
——社長になっておいしい店に行く機会も増えたんじゃないかと思いますが、やはり『焼肉 赤煉瓦』に来るとほっとしますか。
藤崎:もちろんです。このお店が好きな理由はおいしいからということもあるけど、それだけじゃないんですよね。店主の睦さんのきめ細やかな心遣いも好きだし、バイトの子たちもみんな地元出身で私の同級生の子だったりするし、お客さんも必ず知り合いが来ていたりする。そういうあったかい雰囲気も含めてこのお店が好きなんです。
ドムドムハンバーガーも「美味しいはお客様との最低限のお約束。その上で付加価値のある商品を提供します」と掲げています。今の日本はどこで何を食べても大体おいしいですよね。その中でお客様に選ばれるには、それ以上の付加価値が必要なんです。
——ドムドムハンバーガーも、誰かにとってのそんなお店になっているかもしれないですね。
藤崎:そうですね。ドムドムハンバーガーはチェーン店なので店舗数をよく聞かれますが、店舗数の拡大よりもお客様お一人お一人にとってオンリーワンの店舗になることをめざしていて、実際、大きな繁華街ではなくローカルなスーパーマーケット内に多く出店しています。
たとえば、イオンスタイル赤羽店は、もともと赤羽に出店していたけれども、イオンさんの建て替えに伴い2020年に閉店しました。それが、地域のみなさまの「ドムドムハンバーガーに帰ってきてほしい」という声によって、イオンさんがリニューアルオープンする2023年に再出店。地元の皆さんに愛されていると感じてすごくうれしかったですね。
おいしいって幸せなことですよね。飲食業のいいところは、目の前でお客様が喜んでいる姿を見られること。しかもそれでお礼を言われちゃったりする。こんな幸せなことはないといつも思っています。
(撮影◎橋本真実 文◎安楽由紀子)
●SHOP INFO
焼肉 赤煉瓦 向島店
住:東京都墨田区向島4-8-1
TEL:03-36226970
●プロフィール
藤崎 忍(ふじさき・しのぶ)
1966年東京生まれ。大学卒業後、21歳で結婚し専業主婦に。39歳の時に夫が病に倒れ、SHIBUYA109のアパレルショップに人生初の就職。5年間働いた後に退職し、居酒屋アルバイトを経て2011年から東京・新橋に居酒屋「そらき」を開店。2017年にドムドムフードサービスへ。ドムドムハンバーガーの新商品開発担当、新店店長、東日本地区スーパーバイザーを務める。2018年、同社の代表取締役社長に就任。