これまでにはない付加価値を。ユーザーの心を満たす“手触り”のあるサービス
「エンタメ業界が集客を広げられなかった一番の原因は、『全てが作り手目線にある』ことだ」と、栗林さんは指摘する。
「他の業界であれば、市場調査をしてユーザーのニーズを探り、それに応えようとするのが当たり前ですが、この業界では作り手の想いだけを重視し、ユーザーは置き去り。それではいつか限界が来るだろうと思うんです」
ユーザー目線でより楽しめるよう丁寧に橋渡しをすることが、ひいては芸術鑑賞の人口を増やしていくことにもつながると、「recri」ではさまざまなサービスを工夫。例えば、チケットには「オリジナルレター」を同封し、知っておくとより楽しめる、作品の前知識や見どころを伝えている。
「他にも、会員限定のオフ会を定期的に開催するほか、舞台の裏側を見られるバックステージツアーや、演出家を迎えてのトークイベントなど、“手触り”のあるサービスを届けるようにしています。オフラインのものを届けている以上、機械と向き合っているだけじゃない、人間感みたいな部分も大事にしたいんです」
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結局最後に残るのは、“心の豊かさ”。演劇は、今の時代にこそ、価値がある
数あるエンタメの中でも舞台演劇は、「チケット代が高い」ことが集客に影響しているのでは、という声もある。
「僕は、“最適化”が、この課題を解決する糸口になるんじゃないかと考えています。例えば日本の場合、席の値段は、1階席、2階席の大口で決められていることがほとんどです。しかし海外では、一席ごとに金額が異なるのが一般的。それは、見やすさだけでなく、例えば袖で待機している役者が見えるなど、ある種のオプションも考慮して設定されます。これは「ダイナミックプライシング=動的価格設定」と言い、無駄が出にくく利益を拡大できる方法として、今さまざまな業界で導入が進められています。
しかし、古くからの慣習が残る演劇業界では、これまでのシステムを変えるのは抵抗が大きく、なかなか一歩を踏み出せなかった。そこで我々は、チケットを取引する際に、需給のバランスを考慮して交渉を行い、少しずつ意識変革を促しています。これにより、今後、新たなチケット価格設定ができれば、『recri』でも『前列の席を選べるプラン』なども作れるかもしれません」