「人事はつらいよ」……。「売り手市場」といわれる今、企業の新卒採用担当者は「ワンオペ人事」を嘆いている。

就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年11月27日に発表した「2025年卒企業新卒内定状況調査」によると、なんと、新卒採用を「1人」だけで行なっている企業が約5社に1社以上あるという。

人手不足の解決を担うはずの人事の担当者が人員不足でどうするのか。マイナビの長谷川洋介さんに話を聞いた。

大学3年、4年、新入社員を同時進行で対応する忙しさ

マイナビの調査(2024年9月6日~10月4日)は、2025年卒の大学生を採用する全国1616社の人事担当者が対象だ。

まず、新卒採用担当部署の人数を聞くと、「1人」だけが22.7%で、5社に1社以上がワンオペ人事だった。「2人」(35.3%)も含めると、全体の6割近く(58%)が「2人以下」の状態だ【図表1】。

また、新卒採用業務を行いながら、それ以外の業務を兼任しているケースが多く、新卒採用担当部署の全員が「新卒採用専任」という企業は3.7%とごくわずか。新卒採用専任担当者が「いない」と回答した企業も6割となり、他業務との兼ね合いで新卒採用のみに専念・注力できない状況がみられる【図表2】。

こうしたなか、新卒採用専任担当者の業務が広がっている。

インターンシップ・仕事体験がメインの参加対象となる大学3年生、そして、新卒採用の選考対象である4年生、さらに新入社員の入社研修と、3つの卒年の面倒を見なくてはならないケースが多くなっている。

【図表3】が、担当者の一般的な年間スケジュール表だ。

これを見ると、1月~6月は今春入社する25年卒の入社前フォローと、入社後の新人研修。3月~12月は26年卒(大学3年~4年)の選考に注力。さらに、4月~12月は同時並行で27年卒(大学3年)のインターンシップ・仕事体験の運営も行わなければならない。体がいくつあっても足りないくらいだ。

このため、担当者からこんな悩みの声が聞かれる。

「(採用担当部署に)役職者がおらず、全く権限を持っていないため、ほか社員や他部署への協力を受けられない」
「4月から5月という新卒採用に力を入れないといけない時期に、新入社員の研修を対応せねばならず、最大限の採用活動ができていない」
「子どもの大事な行事とかぶった場合や体調を崩した場合に、つらさを感じる」

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10年前に比べると、新卒採用担当者は3分の1に減った

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったマイナビ・キャリアリサーチラボ研究員の長谷川洋介さんに話を聞いた。

――「ワンオペ家事」が働く女性の間で問題になっていますが、「ワンオペ人事」という悲しい言葉、初めて聞きました。人事と言えば、ひと昔前まで社内ににらみを利かせる花形部署でしたが、現在、なぜ地位が下がっているのでしょうか。

長谷川洋介さん 人員不足であるのは、人事の地位が低いからではないと考えます。会社の人員計画に携わる人事部門の地位は、依然として多くの企業で重要な職務として位置づけられています。

ただ、新卒採用専任の担当者数を過去と比較すると減少傾向が見られます。弊社の最も古い2015年の調査では担当者数は平均2.1人ですが、最新調査では平均0.7人。つまり、約10年で3分の1に減っています。

日本全体で人手不足が進行しているなか、採用部門の人員を増やしたくても増やせない企業が多いのが現実です。

また、「社員の異動・給与等」にかかわる業務なども新卒採用部門で担当している場合がある企業が6割以上あり、多くの企業で兼任している状況にあると考えられます。

――それは大変じゃないですか。人手不足の折り、どの企業も新卒採用をしっかりとらないといけない状況のなか、もっと企業は新卒採用担当を軽視しないで重んじてほしいものですね。

長谷川洋介さん 人員不足であっても、新卒採用担当者が軽視されているわけではないと思います。終身雇用が当たり前ではなくなった現在、雇用の流動化が進んでいます。新卒採用だけでなく、第二新卒や中途採用、アルムナイ採用(自社を退職した人の再雇用)など多様になっています。

新卒採用の担当者がそれ以外の採用業務を担うケースも多く見受けられるため、兼務者が増えているのが実態です。

ただ、担当者の悩みに「(採用部門に)役職者がおらず、他社員や他部署への協力要請時に協力を得られない」というコメントがあったように、組織編成上の理由で、部門の声が経営層や他部署に届きづらい状況におかれている企業もあるようです。