「払えなければ市場から退出すべき」は強者の論理

――経済団体の中でも、日本商工会議所や経団連のように、2020年代中に時給1500円に引き上げることに慎重な一方、経済同友会のように「1500円を達成できない企業は市場から退出し、支払える企業に人手が移れば経済は活性化する」と時給引き上げを加速すべきだという考えの団体もあります。経済団体の中で意見が割れていることについてはどう分析しますか。

内田峻平さん 現在の環境を考慮すると、慎重な見方が妥当と考えます。働く人からは当然引き上げを求める声が出てくるでしょう。それだけに机上の空論ではなく、現実的な企業の立場と働く人の声を聞くことが必要だと思います。

ただ、支援をどこまでするかの話が出ないまま、「払えなければ市場から退出すべき」との意見は強者の論理だと思います。

――ところで、業種別調査結果を見ると、時給1500円を達成している企業が金融保険業や情報通信に多い一方、「不可能」だと答える企業が小売業や製造業が多い理由は何でしょうか。

内田峻平さん 専門性が求められる業種は、もともと賃金が高く時給1500円を達成している割合も高いです。これは製品や提供するサービスの付加価値との関係も大きいと思います。

一方、製造業や小売業など、付加価値を高めることが難しい業種、値上げが難しい業種は顧客離れなどを懸念し、収益力の向上が難しいことを反映しているのかもしれません。

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地域や業種の差を認識し、画一的でないメリハリのある引き上げが必要

――なるほど。不可能な企業に実現可能になる施策を聞くと、賃上げ促進税制の拡充や投資の助成が上位に並びました。これは今の制度では不十分だということでしょうか。

また、「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」を望む声が多いことが目立ちます。これは正当な競争を望んでいるわけで、公正取引委員会の介入とか、官公庁の行政指導に期待しているということですか。

内田峻平さん おっしゃる通り、現状の制度では不十分と考えられます。病院からは「診療報酬改定」、介護事業者からは「介護報酬の増額」といった、業界でそれぞれの声が上がっています。

また、「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」は、正当な価格競争を望む側面があり、正常な価格で勝負している企業の苛立ちを示すものだと思います。

行政には、税制、特に法人税や社会保険の負荷が大きいことを考慮してほしいと思われます。同時に、公正取引委員会には、発注者側の理不尽な単価や安値受注をあおるやり方があれば、積極的な指導が必要だと思います。

――最低賃金の引き上げは今後どうなるでしょうか。

内田峻平さん 最低賃金1500円の達成は不透明ですが、雇用確保を背景に時給は今後も上昇していくことは避けられません。ただし、地域や業種による差を認識したうえで、画一的でないメリハリのある引き上げの決定が必要かもしれません。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)