演劇や映像で、それぞれ独自の存在感を示してきた俳優・荒川良々さんと鈴木浩介さんに、この冬、初となる舞台での共演が実現! この機会が特別なのには、実は理由があり……。
コロナ禍を経験して仕事に自分自身に向き合う同年生まれの〝オトナトモダチ〟同士が、その心中を打ち明け合います。
初対面の時は「あんまり話さない人なのかな?」と思ってました
鈴木浩介さん(以下、鈴木) 荒川さんと最初にご一緒したのは映像の仕事でしたが、その時はあまり絡みがなかったこともあって、ほとんど話さなかったんですよね。
荒川良々さん(以下、荒川) そうでしたね。僕があんまり社交的じゃないっていうのもあるんですけど、「話しかけるな」みたいなムードも、ちょっと出してたんじゃないかなと思います。文庫本とか読んでて。
鈴木 そうそう! 人とあんまり話さないタイプなのかなって。
荒川 単にその本がおもしろかったから集中してたんだと思いますけど(笑)。
鈴木 ハハハ。その後、1か月くらい地方で一緒の撮影があって、そこからごはんを食べに行ったりするようになって。舞台は今回が初めてだから、本読みからすごく楽しみにしてましたよ。「荒川さん、どんなふうに立つんだろう?」と思って。
荒川 『桜の園』には鈴木さんは2020年の上演(緊急事態宣言発出により全公演が中止)にも参加していて、僕は今回から。共演もそうですけど、僕、本当に「初めて尽くし」なんですよ。古典的名作は初めてだし、翻訳ものも、演出家も初めて。チェーホフ好きの人が観に来たら「何じゃこりゃ!」って腹立てるんじゃないかって。
鈴木 いやいや、荒川さんが演じる商人のロパーヒンは相当ピュアな努力家で、しかも思いを口にするだけじゃなく行動に移してきた人。きっと、これまで『桜の園』を観てきた人も驚くほどぴったりなロパーヒンになるんじゃないかと思ってるんです。
荒川 そんなにハードル上げないでくださいよ……(笑)。まだ稽古が始まったばかりなんですけど、チェーホフの劇って、表面は笑ってるけど、その人物が本当は何を考えてるかわかんないようなところがあって、そういうところが難しくて。でも、生きていれば誰だって、だいたいそうなんですよね。本音とか、なかなか言わないし。
鈴木 うんうん、確かに。
荒川 だから、舞台上で起こることよりも、「この裏で何が起きてるんだろう?」ってことが、どんどん気になってきて……松尾スズキさん(「大人計画」主宰)が、60歳を超えてやっとチェーホフのおもしろさがわかってきたって言ってたけど、それって、こういう奥行きのことなのかなぁと。
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面倒くさくなったら、すぐ逃げる?
人付きあいは、ちょっと上手になれたかも
鈴木 僕は前回の稽古の時から、自分のやるヤーシャという従者の役にすごく苦手意識があったんです。たぶん、その「何なんだろう?」の部分が想像不足のまま本番に臨もうとして、初日が開く前に緊急事態宣言で上演中止になってしまった。その時の気持ちを、ずっと引きずったままで。
荒川 そう? 本読みの時からすんなり伊達男っぽかったけど。
鈴木 ちょっとー、バカにしてるでしょ?(笑) でも、コロナ禍の間に何本も舞台をやりながら、自分自身や、演劇への取り組み方が変わってきたりもして……。
荒川 あれ、本当に変な時期だったよね。今考えると「一体何だったんだろう?」って。周りはバタバタしてるし、こっちも不安で、気持ちがずっとモヤモヤしてて。
鈴木 うん。だから、それを経てもう一度『桜の園』に向き合えて、しかも荒川さんと初めてやれるのは、やっぱりすごくありがたいことなんだなと……。僕、地方で一緒だった時、川沿いのラーメン屋で荒川さんとラーメン食べて一杯飲んで、その後、土手に寝っ転がって夜空を見上げたのが、すごく印象に残ってるんですよ。
荒川 ああ、ありましたね。
鈴木 当時、もう30過ぎてましたけど、まさしく青春! みたいな感じで。
荒川 男って、バカなんですよね。体はどんどん年取って知識とか入ってきても、中身は中学生くらいからあんまり成長してないんじゃないかって。まあ、人付き合いはちょっとうまく……面倒くさくなったらすぐ逃げられるようになりましたけど(笑)。
鈴木 ハハハ! 今回は逃げないでくださいよ。二度とない機会かもしれないんですから、大事にしましょう。
俳優・荒川良々さん
1974年生まれ。舞台のほか映画、テレビドラマなどの映像作品にも多数出演。最近の出演作に舞台『ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―』、映画『Cloud』『AT THE BENCH』がある。
俳優・鈴木浩介さん
1974年生まれ。劇団青年座を経てテレビドラマ、映画、舞台、バラエティ番組と幅広く出演。最近の出演作に舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』、ドラマ『スカイキャッスル』など。
〔 舞台 〕KERA meets CHEKHOV Vol.4/4
『桜の園』
『かもめ』(2013年)『三人姉妹』(15年)『ワーニャ伯父さん』(17年)に続く、演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチのチェーホフ四大戯曲上演シリーズ最終章。2020年の上演中止を経て、ラネーフスカヤ夫人役の天海祐希をはじめ新たなキャスト陣で挑む。緻密な駆け引きをはらんだ会話劇には「すごく想像力を試される」と荒川さん、鈴木さん。大阪、福岡公演あり。
作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:天海祐希 井上芳雄 大原櫻子 荒川良々 池谷のぶえ 峯村リエ
藤田秀世 山中崇 鈴木浩介 緒川たまき 山崎一 浅野和之 ほか
2025年1月6日(月)~13日(月・祝) 大阪・SkyシアターMBS
2025年1月18日(土)~26日(日) 福岡・キャナルシティ劇場
撮影/白井裕介 文/大谷道子
大人のおしゃれ手帖2025年1月号より抜粋
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